セブンティーン

ひらおかゆきこ

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⑩ロケ現場にて

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年が明けて1969年の初め、京都・宝ヶ池の深い緑の中、塚本澄生の主演映画のロケが行われている。
東京から来た若者と、京都の女性とのラブ・ストーリーである。

大勢のスタッフの他に、ロケを眺めている見物客もかなりの数になっていた。

小雨の降る日だった。
冬の割には気温が少し高い。

最初にエディ萩原に気が付いたのは、カメラマンの助手だった。
映画会社のスタッフではなく、田代浩輔達一行の、雑誌カメラマンに同行していた青年が、エディの姿を捉えた。

こんな所に、人気アイドルのエディがなぜ、と驚いた。

エディが遠くからこっそり撮影を見ている、と言うので、まさかと思って田代が確かめに来た。

少し髪を濡らし、白いタートルネックにベージュのジャケットという普段着姿の少年が、ぽつん、と立っていた。
急に田代に腕を掴まれると、いたずらを見つかった子供のような顔をした。

「ああ、田代さん びっくりした!来てたの」

「昨日からずっと塚本君の取材だよ」

「澄生どこ?このロケの中にはいないみたい」

「今休憩中だ━━それより おい、エディ うちの取材どうした?何でここにいるんだ?!
『ペガサスと一週間』って特集組んで、うちの高野ってヤツが君らについて回ってるだろう。
今日は木曜だから『ヒットスコープ』の録画撮りじゃないのか?!」

「そうなんだけど・・・」

口ごもるエディの態度に、田代は全てを理解した。

「マネージャーは━━高橋さんにも黙って来たのか?」

「うん━━」

「えらい事だよ、そりゃ」

田代は頭を抱えた。
榊原プロではエディがいなくて、騒ぎになっているかもしれない。

言っていいものかどうか。
しかしここにいる、と言わない訳にはいかないだろう。エディを塚本に会わせたら、高橋マネージャーに電話を掛けようと思った。


塚本澄生は、ロケバスの中で、コーヒーを飲みながら台本をめくっているところだった。

「塚本君、東京からお客さんだ」

「誰━━?」

「エディだ」

「えっ━!エディがここに?」

塚本は台本を手から落とす程驚いた。

暮から京都のロケが度重なったが、今回はまた予定より長引き、一週間程の滞在になった。

ずっと一人で東京に置いておかれた寂しさに耐えきれず、エディはテレビ番組をすっぽかして、突然会いに現れたのだった。

・・・・・雨脚が強くなってきた。

ロケは中断ということになった。皆が雨宿りしようと急ぐ中、ロケ場所から少し離れた物陰に、見覚えのある塚本の車が停めてあるのに田代は気付いた。

東京で乗っている車とは別に、京都に置いてある車で、普段は付き人の純一が運転している。

何気なく車の側まで行き、中の光景が見えてドキッとした。
一瞬、見てはいけなかったと目を瞑ったが、見てしまった。
最初に目に飛び込んで来たのは━━少年の白い胸だった・・・

車の後部座席で、セーターを大きく捲りあげられ、頭をのけぞらせている。顔は見えないが、髪型ですぐエディとわかった。その首筋に顔を埋めるように、覆いかぶさっているのは塚本だった。

片方の手は、その白い胸の上を這っている。そしてもう片方の手は━━ジッパーを下ろした、エディのズボンの中に伸びていた。

田代は思わず声を発するところだった。こんな場所で━━誰かに見られるかもしれないのに━━塚本とエディの大胆さにあきれた。


雨が上がると、二人は堂々と寄り添って緑の中に姿を現した。
逞しい塚本に肩を抱かれ、ほっそりしたエディの姿は可憐だ。絹糸のような髪の先に、残った雨滴がクリスタルみたいに輝いた。

塚本の顔を、エディが仰ぐように見上げると、塚本は後ろからその髪を梳くように触れた。きれいな髪の流れる音が聞こえてきそうだ。

二人は顔を見合わせて微笑む。弾けるようなエディの微笑。その瞳は明らかに恋をしている事を物語っていた。

塚本に向けられたエディの、その幸せそうな微笑を見て、二人の仲をこのとき田代は確信したのだった。

可愛いイメージで売っていて、いつもグラビアでは笑顔で写っているエディだったが、普段はあまり笑わない少年だった。塚本の前ではこうも違うのか━━それ程心を許した相手なのかと、思い知らされた光景だった。


ロケ隊が使っているホテルの部屋に塚本と田代はいた。

「エディとは━━いつからなんだ?」

「二ヶ月位かな、アストロで会って、しばらくしてから付き合い出したんだ。最近は、ほとんど俺のマンションで暮らしてる」

「驚いたな、いつの間にそんなことに━━」

「エディが、ずっと一緒にいたい━━って言うからさ」
塚本は自分で言ったセリフに、顔を赤らめた。

こんな塚本の様子を見るのは、長い付き合いでも初めてだ。
よっぽどエディは特別な存在なのだろう。何人かの女性との噂を知っているが、いつも塚本はクールだった。簡単に女を自分の家に入れたりもしていなかった筈だ。

エディはそのあとすぐ、東京から駆け付けたマネージャーに連れ戻された。テレビ番組をすっぽかした事も、エディの急病として処理され、塚本との事が表に出ることはなかった。

しかしその後も、冬から春にかけて、何度か同じような事を繰り返し、仕事に穴をあけた。

さすがに榊原プロとしても問題となり、もし又そんな事をするのなら、塚本と別れろと、ついにマネージャーから言い渡されたのだった。
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