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思いもよらぬ提案
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錬金術師リミヤと、完成したポーションを持って商人ギルドを訪れる。
すぐにギルド長ムスタフが、俺のところに寄ってきた。
「これはこれは、マルサス様。本日はどういったご用件で……」
「ちょっと鑑定してもらいたいポーションがありまして」
「なるほど! すぐに担当の職員をお呼びします、少々お待ちください!」
ギルド長が連れてきたのは、俺の元担当職員である男、ラードだ。
ギルド長から聞いた話によれば、ラードはこの商人ギルドの中でも、ポーション精製者の担当を任されているらしい。
ラードは以前とは打って変わった低姿勢で、俺に応じる。ギルド長の前で大口の取引相手にへまはできないということだろうか。
「お待たせいたしました!どういったご用件でしょうか!」
「これらのポーションについて鑑定書を発行していただきたいのですが、どれくらいかかりますか?」
俺はカウンターに9つのポーションを並べた。8本の毒を取り除いたポーション、そしてもう一本は、余った毒液を集めて調合した、効能が未知な余り物ポーションである。
「かしこまりました! ええ、今すぐに鑑定書を発行してまいります!!少々お待ちください!!」
ラードはポーションを受け取るなり、すぐに裏へと引っ込んでいった。
隣でリミヤが目を丸くしている。ラードの様子が、いつも自分を応対するときとは違うことに驚いているのだろう。
「すみません、少々お待ちくださいね……」とギルド長ももみ手をしながら言ってくる。
横柄な態度を取られるよりはましだけれど、露骨に下手に出られるのも、それはそれで居心地が悪い。
この街には、ここ「商人ギルド」の他に「商業ギルド」というほぼ同じ役割を担っているライバルギルドも存在する。店を始めたバタバタが落ち着いたら、そっちへの移籍を考えてもいいかもしれない。
宣言通り、ラードはすぐに戻ってきた。
「お待たせしました!す、素晴らしい鑑定結果でございますっ!」
「ありがとうございます」
ラードから鑑定結果を受け取る。
「!!」
横で鑑定結果を確認したリミヤは口もとをおさえている。
鑑定結果は……8本のポーションがすべてAクラス。
そして残りの1本……それぞれの毒液を混ぜて調合したポーションは、なんとSクラスの万能解毒薬だった。ステータス強化効果が幾つも付与されており、そのためにS判定になったらしい。
「どこでこのポーションを!?」と、Sランクポーションについて根掘り葉掘り聞こうとするラードを適当にあしらい、必要最低限の礼を言ってギルドを出た。
薬屋に戻ると、俺は正式な契約をリミヤに持ちかけた。
「い、いいんですか!?」
「ええ。すべてAランク以上だったし、薬効も申し分ない。
薬屋だったら、どこの店だってこのポーションは買い取りたいと思うに違いありません」
リミヤは頬を赤らめて嬉しそうな顔をしたが、すぐにその表情に影が差す。
「で、でも。このポーション、私がつくったわけじゃありません。
マルサス様が精製してくださったから一級品になったわけで……。
私一人では、あんなポーション作れません……」
「でも、俺一人でも作れませんよ?」
「……えっ?」
リミヤがぽかんと口を開けて、かたまった。
「俺のスキルは、毒を抜き取って調合するだけですから。俺一人だと、毒消しのポーションをしか作ることができません」
「そっ……ほ、本当ですか?」
「はい。でもリミヤさんが最初にポーションの基礎を固めてくれたら、ご覧の通り、俺のスキルでも精製のお役に立てるみたいです。
だから、どうでしょうか。
リミヤさんの力を俺に貸してもらえませんか?」
不安そうだった少女の顔が、みるみるうちに輝いていく。
その綺麗な瞳は、また大粒の涙でうるうるした。でも最初に泣いていた時とは、表情の明るさがまったく違った。
「はい! よろしくお願いします!!」
元気いっぱいに、少女は答えてくれた。
薬屋の契約第一号は、錬金術師の少女リミヤに決定した。
正式に契約することが決まって、俺たちは具体的な話を詰めていくことにした。
「契約の方針なんだけど、納品数の目安を決めておく形はどうでしょう?
ノルマというほどガチガチにするつもりはないし、もちろん最低数に満たない場合でもペナルティーを科すつもりはないので安心してください。
納品できる量を教えてもらえると、他に何人くらい雇った方がいいか考える参考になってすごく助かるので……どうですかね?」
「は、はい! それで、も、もちろん大丈夫です!
そうだ……」
そういうとリミヤは、肩にかけたかばんの中から一枚の紙を取り出した。
それを両手で丁寧に渡してくる。
「こ、こちらをご覧ください……」
その手がぷるぷると震えている。
俺は差し出された羊皮紙を受け取って、その内容を確認する前に言った。
「そんなにかたくならなくて大丈夫ですよ。
何か態度が悪いからとかで、契約しないなんてこと言いませんから」
「す、すいません!」
「いや、謝らなくてもいいのですが……やっぱり、緊張しますか??」
「そ、そうですね……」
俺は腕を組んだ。うーん、今後一緒に仕事していくことを考えたら、お互いに緊張し合う関係じゃない方がいい気がするんだけど。まだ初日だし、こういうのは日にちを重ねたら少しは楽になるものだろうか。
「あっ、でっ、でしたら!」とリミヤが小さく手をあげて言う。
「はい?」
するとリミヤは、思いもよらない提案をしてきた。
すぐにギルド長ムスタフが、俺のところに寄ってきた。
「これはこれは、マルサス様。本日はどういったご用件で……」
「ちょっと鑑定してもらいたいポーションがありまして」
「なるほど! すぐに担当の職員をお呼びします、少々お待ちください!」
ギルド長が連れてきたのは、俺の元担当職員である男、ラードだ。
ギルド長から聞いた話によれば、ラードはこの商人ギルドの中でも、ポーション精製者の担当を任されているらしい。
ラードは以前とは打って変わった低姿勢で、俺に応じる。ギルド長の前で大口の取引相手にへまはできないということだろうか。
「お待たせいたしました!どういったご用件でしょうか!」
「これらのポーションについて鑑定書を発行していただきたいのですが、どれくらいかかりますか?」
俺はカウンターに9つのポーションを並べた。8本の毒を取り除いたポーション、そしてもう一本は、余った毒液を集めて調合した、効能が未知な余り物ポーションである。
「かしこまりました! ええ、今すぐに鑑定書を発行してまいります!!少々お待ちください!!」
ラードはポーションを受け取るなり、すぐに裏へと引っ込んでいった。
隣でリミヤが目を丸くしている。ラードの様子が、いつも自分を応対するときとは違うことに驚いているのだろう。
「すみません、少々お待ちくださいね……」とギルド長ももみ手をしながら言ってくる。
横柄な態度を取られるよりはましだけれど、露骨に下手に出られるのも、それはそれで居心地が悪い。
この街には、ここ「商人ギルド」の他に「商業ギルド」というほぼ同じ役割を担っているライバルギルドも存在する。店を始めたバタバタが落ち着いたら、そっちへの移籍を考えてもいいかもしれない。
宣言通り、ラードはすぐに戻ってきた。
「お待たせしました!す、素晴らしい鑑定結果でございますっ!」
「ありがとうございます」
ラードから鑑定結果を受け取る。
「!!」
横で鑑定結果を確認したリミヤは口もとをおさえている。
鑑定結果は……8本のポーションがすべてAクラス。
そして残りの1本……それぞれの毒液を混ぜて調合したポーションは、なんとSクラスの万能解毒薬だった。ステータス強化効果が幾つも付与されており、そのためにS判定になったらしい。
「どこでこのポーションを!?」と、Sランクポーションについて根掘り葉掘り聞こうとするラードを適当にあしらい、必要最低限の礼を言ってギルドを出た。
薬屋に戻ると、俺は正式な契約をリミヤに持ちかけた。
「い、いいんですか!?」
「ええ。すべてAランク以上だったし、薬効も申し分ない。
薬屋だったら、どこの店だってこのポーションは買い取りたいと思うに違いありません」
リミヤは頬を赤らめて嬉しそうな顔をしたが、すぐにその表情に影が差す。
「で、でも。このポーション、私がつくったわけじゃありません。
マルサス様が精製してくださったから一級品になったわけで……。
私一人では、あんなポーション作れません……」
「でも、俺一人でも作れませんよ?」
「……えっ?」
リミヤがぽかんと口を開けて、かたまった。
「俺のスキルは、毒を抜き取って調合するだけですから。俺一人だと、毒消しのポーションをしか作ることができません」
「そっ……ほ、本当ですか?」
「はい。でもリミヤさんが最初にポーションの基礎を固めてくれたら、ご覧の通り、俺のスキルでも精製のお役に立てるみたいです。
だから、どうでしょうか。
リミヤさんの力を俺に貸してもらえませんか?」
不安そうだった少女の顔が、みるみるうちに輝いていく。
その綺麗な瞳は、また大粒の涙でうるうるした。でも最初に泣いていた時とは、表情の明るさがまったく違った。
「はい! よろしくお願いします!!」
元気いっぱいに、少女は答えてくれた。
薬屋の契約第一号は、錬金術師の少女リミヤに決定した。
正式に契約することが決まって、俺たちは具体的な話を詰めていくことにした。
「契約の方針なんだけど、納品数の目安を決めておく形はどうでしょう?
ノルマというほどガチガチにするつもりはないし、もちろん最低数に満たない場合でもペナルティーを科すつもりはないので安心してください。
納品できる量を教えてもらえると、他に何人くらい雇った方がいいか考える参考になってすごく助かるので……どうですかね?」
「は、はい! それで、も、もちろん大丈夫です!
そうだ……」
そういうとリミヤは、肩にかけたかばんの中から一枚の紙を取り出した。
それを両手で丁寧に渡してくる。
「こ、こちらをご覧ください……」
その手がぷるぷると震えている。
俺は差し出された羊皮紙を受け取って、その内容を確認する前に言った。
「そんなにかたくならなくて大丈夫ですよ。
何か態度が悪いからとかで、契約しないなんてこと言いませんから」
「す、すいません!」
「いや、謝らなくてもいいのですが……やっぱり、緊張しますか??」
「そ、そうですね……」
俺は腕を組んだ。うーん、今後一緒に仕事していくことを考えたら、お互いに緊張し合う関係じゃない方がいい気がするんだけど。まだ初日だし、こういうのは日にちを重ねたら少しは楽になるものだろうか。
「あっ、でっ、でしたら!」とリミヤが小さく手をあげて言う。
「はい?」
するとリミヤは、思いもよらない提案をしてきた。
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