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錬金術師を呼び止めて
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求人票を見て、店に来てくれたフードの少女、リミヤ。
彼女の差し出してきた鑑定書を見て、俺は胸の内で声を上げる。
『おお!』
魔力補給ポーション、回復ポーション、各種ステータス強化ポーション……
売れ筋のポーションがどれも一通り作れるようだ。
これはいい! 何だか自信がなさそうだったからよほどニッチなポーションしか作れないのかと思ったが、なんだ、これなら即戦力じゃないか。
ずらりと並んだ精製ポーションの名称を見て、俺は満足気に思う。
ええっと、それぞれの品質評価は……。
『え、F?』
ポーションのランク付けはSを最高として、その次にA、B、C、Dと続く。Sは特殊な付加価値のついた最高品質ポーションで、A~Dは通常ポーションでどれだけ純度が高いか、つまり指定された効果がどれだけきちんと発揮されるのかによって分けられている。
ちなみに俺がつくっていた毒消しはAポーションだった。毒特化型のスキルでずっとそればかり精製を繰り返していたから、いつの間にかDからAまで繰り上がっていたのだ。もちろん、買い取り価格は一切上がらなかったけれど。
そしてこの子のポーションは……F。失敗を意味する「F」、ポーションとしての体を成していないという評価。通常ポーション以下の『欠陥ポーション』だ。
そのFが、彼女の鑑定書にはずらりと並んでいた。
魔力補給ポーション:F
回復ポーション:F
etc……
見事なまでに、全てF判定である。
『なんでだ? 成分表には、魔力補給や回復の数値がきちんと反応しているのに……』
備考欄に目を移すと、その原因がようやく分かった。
『なんだ、この副作用は……!』
どのポーションにももれなく副作用がついている。しかも単独ではなく、幾つもの副作用が。
普通ならば『味:苦い』などしか書くことがないため大したスペースではない鑑定書の備考欄。
しかしその場所に、これでもかとばかりに文字が詰め込まれている。
『軽い麻痺』『反射神経が鈍くなる』『強い眠気』『体が重く感じる』『攻撃力の低下』『魔法耐性の弱化』等々……
メインの効用を、副作用がオーバーキルしちゃっている。これはもはや、敵に飲ませた方が良いのでは? と思ってしまうほどに。
ポーションの鑑定書でFなんて始めてみたけど、たしかにこれだけの劇薬ならば、F以外のランクは思いつかない。
「えっと……」
顔を上げる。
すると目の前の少女は、ボロボロと涙を流していた。
な、泣いてる……
「だっ、だめ、ですよね。
こんっ、こんなポーション、売り物にならないですよね……」
「い、いや、その……」
他人が、しかもほぼ初対面の人が目の前でガチ泣きしてる場面なんて経験したことがない。どうやってフォローを入れればよいのだろう。
突然降り出した雨が、あっという間にザーザー降りに変わるかのように。
少女は声を上げて、号泣し始めた。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!! やややっぱり、だめなんですよねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
俺は心の中で頭を抱えつつ、彼女が泣き止むまで特に何もできなかった。
「すっ、すみませんでしたぁ……」
ぐすっ、ぐすっと赤くなった鼻を啜りながら、号泣少女のリミヤは言った。
「いや、俺は大丈夫なんだけど……」
ひとまず泣き止んでくれたことにほっとしつつ、俺はリミヤにフォローを入れた。
彼女が両手を差し出してくる。何かと思ったら、俺が持っていたポーション鑑定書をそっと取り上げた。
「分かってたんです。こんな最低品質ポーションじゃどこも買い取ってくれるはずないって。でも、今まで見てきた求人票とはちょっと違ったから、もしかしたらと思って。
ご迷惑をおかけしました」
鑑定書を鞄の中に仕舞うと、少女は椅子から立ち上がりぺこりと頭を下げた。
「ちょっ、ちょっと待って!」
出口へと向かう彼女を慌てて呼び止めた。
「はい……?」
「まだ契約しないとは言ってないよ?」
「……!!」
彼女の差し出してきた鑑定書を見て、俺は胸の内で声を上げる。
『おお!』
魔力補給ポーション、回復ポーション、各種ステータス強化ポーション……
売れ筋のポーションがどれも一通り作れるようだ。
これはいい! 何だか自信がなさそうだったからよほどニッチなポーションしか作れないのかと思ったが、なんだ、これなら即戦力じゃないか。
ずらりと並んだ精製ポーションの名称を見て、俺は満足気に思う。
ええっと、それぞれの品質評価は……。
『え、F?』
ポーションのランク付けはSを最高として、その次にA、B、C、Dと続く。Sは特殊な付加価値のついた最高品質ポーションで、A~Dは通常ポーションでどれだけ純度が高いか、つまり指定された効果がどれだけきちんと発揮されるのかによって分けられている。
ちなみに俺がつくっていた毒消しはAポーションだった。毒特化型のスキルでずっとそればかり精製を繰り返していたから、いつの間にかDからAまで繰り上がっていたのだ。もちろん、買い取り価格は一切上がらなかったけれど。
そしてこの子のポーションは……F。失敗を意味する「F」、ポーションとしての体を成していないという評価。通常ポーション以下の『欠陥ポーション』だ。
そのFが、彼女の鑑定書にはずらりと並んでいた。
魔力補給ポーション:F
回復ポーション:F
etc……
見事なまでに、全てF判定である。
『なんでだ? 成分表には、魔力補給や回復の数値がきちんと反応しているのに……』
備考欄に目を移すと、その原因がようやく分かった。
『なんだ、この副作用は……!』
どのポーションにももれなく副作用がついている。しかも単独ではなく、幾つもの副作用が。
普通ならば『味:苦い』などしか書くことがないため大したスペースではない鑑定書の備考欄。
しかしその場所に、これでもかとばかりに文字が詰め込まれている。
『軽い麻痺』『反射神経が鈍くなる』『強い眠気』『体が重く感じる』『攻撃力の低下』『魔法耐性の弱化』等々……
メインの効用を、副作用がオーバーキルしちゃっている。これはもはや、敵に飲ませた方が良いのでは? と思ってしまうほどに。
ポーションの鑑定書でFなんて始めてみたけど、たしかにこれだけの劇薬ならば、F以外のランクは思いつかない。
「えっと……」
顔を上げる。
すると目の前の少女は、ボロボロと涙を流していた。
な、泣いてる……
「だっ、だめ、ですよね。
こんっ、こんなポーション、売り物にならないですよね……」
「い、いや、その……」
他人が、しかもほぼ初対面の人が目の前でガチ泣きしてる場面なんて経験したことがない。どうやってフォローを入れればよいのだろう。
突然降り出した雨が、あっという間にザーザー降りに変わるかのように。
少女は声を上げて、号泣し始めた。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!! やややっぱり、だめなんですよねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
俺は心の中で頭を抱えつつ、彼女が泣き止むまで特に何もできなかった。
「すっ、すみませんでしたぁ……」
ぐすっ、ぐすっと赤くなった鼻を啜りながら、号泣少女のリミヤは言った。
「いや、俺は大丈夫なんだけど……」
ひとまず泣き止んでくれたことにほっとしつつ、俺はリミヤにフォローを入れた。
彼女が両手を差し出してくる。何かと思ったら、俺が持っていたポーション鑑定書をそっと取り上げた。
「分かってたんです。こんな最低品質ポーションじゃどこも買い取ってくれるはずないって。でも、今まで見てきた求人票とはちょっと違ったから、もしかしたらと思って。
ご迷惑をおかけしました」
鑑定書を鞄の中に仕舞うと、少女は椅子から立ち上がりぺこりと頭を下げた。
「ちょっ、ちょっと待って!」
出口へと向かう彼女を慌てて呼び止めた。
「はい……?」
「まだ契約しないとは言ってないよ?」
「……!!」
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