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アマシア姫の感覚

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鮮やかなルビーレッドの体色をしたヒュポスたちに、「もう一つ、お力を貸していただきたいことが……」と言われた俺。

彼らに先導され向かったのは、グラドシュフトの森――というか灰の山というか――の前だった。


魔物に乗っ取られていたために燃やし尽くしてした森の前で、俺は思う。

『「あれが最善の策でしょう」とは言っていたものの、やっぱりこのヒュポスたち、心の中では怒ってるんだろうか。

それで今から俺のことを、全員でやっちゃおうぜ、と思っているとか?

「俺たちの住処を燃やしやがって。今日からここは俺たちの森じゃない。お前の墓場だぜ」みたいな。

でももし襲われたらやり返しちゃうけど……ステータスを見た限り、多分負けないし……ほんとすみません……』


自分が燃やし尽くした現場に連れ戻されて、若干ネガティブになる俺。ヒュポスたちは振り返ると、俺に言った。

「救世主様、何か感じられること、ございませんか?」

「罪悪感、ですよね。もちろん、ええ、重々感じています……」

「はい?」

「えっ?」

あれ、なんだこの感じ。違う話なのか?

「えっと、どういうことでしょうか」

俺は気を取り直して尋ねた。


「実はこちらの森に、我らの長が閉じ込められているはずなのです。

救世主様が魔物を追い払ってくださった故、封印は解かれるかと思われましたが、長は戻ってきておりません。

救世主様のお力をもってして、何か感じられることはございませんか?

それとも我々の長は、もうどこか別の場所へ連れ去られてしまったのでしょうか」

「……」

えっ、何も感じないな。

俺は周りのステータスを確認してみるなどするが、それでもやはり得られる情報はない。


「ごめんなさい、何も感じないですね……」

「そうですか。救世主様にも見つからぬような強力な封印なのか、あるいは……」

封印術、か。

どんなものなのか全く分からないが、転生神から『他に必要なスキルはあるか』と尋ねられたとき、「封印が施されている場所が察知できて、それを解除できるチートスキルをください」なんて頼んでないからなぁ……


「お呼びとめして申し訳ありませんでした、救世主様」

「いえ、それは構わないです。でも俺の方こそ、力になれなくてごめんなさい」

「とんでもないです!! 我々の住処を魔の手から救い出してもらっただけでも、どれほどありがたいことか……」


このヒュポス、いい人(鳥)だな。封印解けないのが本当に申し訳ない。

「ありがとうございました。これから皆で話し合って、封印を解く手がかりを探してみます」とヒュポス。

「分かりました。俺の方も何か力になれそうなことが分かりましたら、またこの森に来ますね」

「大変ありがたいお言葉です。

こちらも救世主様の力になれることがございましたら、いつでもお呼びたてください。

このご恩、一生忘れませんゆえ」

ヒュポスたちが、また地面に体を伏した。

「ありがとうございます。では」


俺は今度こそヒュポスたちの前を飛び去り、森から少し離れた場所で待ってもらっているアマシア姫のもとへと向かった。



『たしかこの辺りに……ああ、いたいた。あそこか』

神竜姿で上空から探していると、ほどなくして、こちらに向かって手を振っているアマシア姫の姿を見つけた。

速やかに高度を落とし、彼女の前に降り立つ。


「お帰りなさいませ、ユウト様」

「お待たせして申し訳ありません。危ない目にはあいませんでしたか?」

アマシア姫はふるふると首を振った。

「私の方は平気です。ユウト様の方こそ、よくぞご無事で。

この場所から密かに拝見させていただきましたが、まるで天変地異のような戦いっぷりで……」

こんなに離れたところからよく見えたな。

……いや、盛大に森を燃やしたり、多頭竜に姿を変えて戦ったりしたのだから、ここからでも全く見えなくはないか。


「天変地異だなんて。じゃあ、帰りましょうか」

すると姫は、何やら思い悩んでいるようで立ち止まっている。


「?」

「あの、ユウト様。先ほどから、何か奇妙なものが耳に入ってくるのですが」

「何か、とは」

「声のような、叫びのような……何者かが苦しんでいる気配も……」

まさか。

「その声って、どちらの方から聞こえますか?」

「えっと。少しお待ちください」

姫は目を閉じて、じっと耳に意識を集中させる。

そして目を開けると。

「あちら、でしょうか」

細い指で示された先にあったのは――燃え尽きたグラドシュフトの森だった。
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