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あるスキルを使って

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異世界建築物を踏みつぶしまくり、奴に近づく。

作戦は特になし。巨体を生かした正面衝突である。


ゴッッッッッッ

頭突き。からの、がっぷり四つ。

この体、相当に頑丈なつくりらしい。物凄い衝撃だが、痛みはない。


キング・オークも、俺の突撃を正面から受ける。

なんだ、堂々とした男らしい戦いっぷりじゃないか。こんな立場じゃなかったから、仲良く酒でも飲めたかもしれん。

でもすまんな。この街に帰ってきたいっていう思いの人たちがいるからな。ここをお前らの寝床にされちゃあ、困るんだ――

『よっっっ!!!』

俺は思い切り、奴を投げ飛ばす。


「グゥガァァァァ―――――!!!!」

キング・オークはあらゆる建物をなぎ倒し、地面に寝転がった。

どしどし俺が近づくと、奴はすぐさま起き上がった。


右の拳をかため、思いっきり殴る。

バシッ

キング・オークは左腕でガードした。

そして俺に、右腕でカウンターを繰り出してきた。

ドスッッ。

俺は長く太い首でそれを受ける。

野卑なキング・オークの顔に、驚きが広がる。


『防御するまでもない。そんなのじゃ、全く効かんぞ?』

にたりと俺は、巨大竜の口で笑う。うまく笑えているかは分からないが。


そしてもう一度、右ストレート。

「グゥオォォォォァァァ―――!!!!!!」

悔しそうに、苦しそうな声をあげ。

ぶっ倒れるキング・オーク。


さぁ、ダウンも二つとったことだ。

終わりにしようじゃないか。

奴が起き上がる隙を与えず、俺は街を蹴散らしながら接近する。

そして倒れた奴に、大きく開けた口を向けた。


ゴシャーーー------……

真っ直ぐに、まるで光線のように吐き出された火は、眩い青色だった。


キング・オークの、のたうちまわる体。
だが俺は逃がさない。

ゴシャーーー------……


青い火を吐き続ける。
周りの建物も、どろどろに溶ける。

「ギィヤァァァァァァーー--------!!!!」

断末魔の咆哮が長く、長く響く。

そしてキング・オークは、動かなくなった。





巨大竜のまま、門の近くまで戻った。何やら街を踏みつぶしまくっているが、もはや気にかけている余裕はない。

そして姫を、赤い屋根の上に見つけると。

その瞬間、全身から力が抜けた。

前のめりに倒れかけた俺は慌てて神竜化を解く。
人間の体に戻った俺は、赤い屋根に向かって落下した。




「ん、んん……」

「!! だ、大丈夫ですか!」

目をあけると、姫の顔があった。

「えっと……」

俺は起き上がる。赤い屋根の上からは、瘴気が晴れた街全体を見渡すことができた。

「ありがとうございます……私たちの街を取り戻してくださって……!」

「……ははっ」

俺の口から、乾いた笑いが漏れた。

完全にやりすぎた。魔物が棲みついていた時より酷いのでは? と思いたくなるほど、滅茶苦茶に破壊された街。


俺は立ち上がった。

「……ユウト様?」

最後の一仕事だ。後片付けまで、ちゃんとしないとな。


俺は両手を大きく広げる。

『スキルも魔法も、全ては意志とイメージ……』

へとへとになりながらも、俺は全神経を使って魔力を操る。


この街が活気に満ち溢れていた頃。

テントに避難させられていたあの人たちが、この街で幸せに暮らしていたときの光景を。


街全体が眩い光に包まれた。

光の中で、建物の影が揺れる。

地面に転がった魔物は、一匹残らず姿を消す。街の中心部に転がった、巨大なキング・オークでさえも。


「え、あ……こ、こんなこと、って……」

光がおさると、目の前にあったのは。

魔物の屍が取り除かれ、建物が完全に修復された、美しく高い壁を誇る異世界都市「ダミリアス」だった。




故郷ダミリアスが近づいてくると、背中に乗せた避難民たちから歓声が上がった。

キング・オークとの戦闘に勝利し、神竜の体が一回りも二回りも大きくなった俺は、面倒だからという理由で避難民全員を一度に乗せて、都市ダミリアンまで戻ってきた。

喜ぶのはいいけれど、はしゃぎすぎて落ちないでくれよ……と思いつつ、街の上空をぐるりと一回りする。

街はちゃんと元通りになってますよと、一通り見せるためだ。


それから街の中心部に着陸する。

冒険者ギルド前の中央広場が一番ひらけていたので、そこに降り立った。

体がでかくなりすぎて入れないかと思ったが、行事のときには街の住人全員を集めることもあるという広場は意外と広くて、全体を使えば何とかおさまった。


そして神竜の姿を解いた。

抱き合う人たちや、興奮のあまり絶叫している人。

住民たちの反応は様々だった。しかしそれぞれが、思い思いに喜びや感動をあらわしていた。


「本当に……信じられない……」

アマシア姫が隣で涙を流している。
臣下のおじさんたちも、もれなく男泣きしていた。

「ありがとうございました、ユウト様。本当に、ありがとうございました……!!」

姫から言われる。臣下のおじさんたちからも、握手を求められ。


すると次々に、住人たちも頭を下げに来た。

異世界でも最敬礼の方法は変わらないらしく、亀のように地面に縮こまって平伏している。

一人、また一人と、次々に同じ姿勢をとり。

まるで大きな波のように、土下座は群衆の間を伝播した。

この街の、生き残った全ての人たちが集まっているため、圧巻の光景だった。

こんな大人数の土下座は見たことがない。なんかすごい。どうすればいいかわからん。


とりあえず先頭で平伏している姫に、「あのもう大丈夫なので、この人たちにも立ち上がるよう言ってもらっていいですか??」と伝えた。



街の復旧は迅速に行われた。

皆、それぞれ自分の家に戻り、元通りになった家財を確認して喜びの声を上げた。

それからギルドや店などの設備も確認し、全てが避難する前の状態に戻っていることに驚いていた。


そして再び、広場に集った。「今夜はここで祝宴を行う」と姫が宣言すると、街一杯に響く歓声が沸き起こった。

酒や備蓄していた食料を持ち寄る住民たちだったが、祝いの場では欠かせないメインデシュが圧倒的に不足していた。

酒場や料理屋の主人たちは腕を組み、「材料さえあればな……」としきりに嘆いていた。


そこで俺は冒険者ギルドの裏へ行って人に見られていないことを確認すると、あるスキルを発動した。

「よし。こんなもんでいいか」
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