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お手並み拝見(2)

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姫様が持ってきた杖を構えて、ぶつぶつと呪文を唱える。
するとゴブリンたちはようやくこちらに気が付いた。

けたけたと奇妙な声を上げながら、向かってくる。どうやら好戦的な性格らしい。


姫様の杖が、「ジジジ……」と電気を帯びるように光った。

おっ、いけるか。

バチンッ!

「ギギッ!」


杖から放たれた稲妻は、一匹のゴブリンにクリティカルヒット。
虫のような声を上げて、そいつは倒れた。

隣にいたゴブリンは、何があったのかと驚いて仲間の方を見る。


アマシア姫はその隙を逃さず、二発目の稲妻を放った。

バチンッ!

「ギギッ!」

一体目と全く同じものを見ているかのように、稲妻は命中。

ヒットしたゴブリンはその場に倒れ、ぶるぶると震えた後、動かなくなった。


「やりました!!」

杖を持ったアマシア姫はぴょんぴょん飛んで、こちらに弾ける笑みを見せる。

まるで初めて魔物を倒したような喜びようだ。


「王城にいた頃は毎日練習していたのですが、やっぱり実戦となると緊張しますね!」

おい、本当に初めてだったのかよ。

でもゴブリン相手とはいえ上々の戦いっぷりだ。

「やりましたね」

俺は姫様に深く頷く。

「よかったです」

姫様は頬を上気させてはにかんだ。


すると彼女の後ろで、何か大きく揺れ動くものが視界に入った。

『えっ』

俺の視線を追うように、姫が振り返る。


ドッ、ドッ。

一歩ごとに、地面が揺れた。

「マ、マテカゴブリン……ゴブリンの上位種です……」

脇に立っている二階建ての建物――剣と斧のマークが書かれていたから、武器屋か何かだろうか、それと同程度の高さだ。

どうやら、建物と建物の間で横になっていたらしい。

最初から直立でいたのなら、たぶん真っ先に気付いただろう。

野卑な顔などは他のゴブリンと同じだが、皮膚の色がひときわ目立つオレンジ色だったから。


アマシア姫は、自分の何倍もの体躯を誇る相手に杖を向ける。

その手は震えていた。

さすがにこれは勝負を見るまでもなく分かる。

実戦初日にこの相手はないよな。


俺はアマシア姫よりも前に出る。

「ユウト様……」

「安全なところにいてください」

「でも」

俺は無償のスマイルをつくり、お得意の言葉を口にする。

「大丈夫です。さぁ」

アマシア姫は青白い顔でがくがく頷き、俺の後ろに走っていった。


グォー――――――!!!

マテカゴブリンが、空に向かって吠えた。

ビシビシと、やばそうな空気が伝わってくる。

「分かってるよ、そんな声出さなくても」

ゾクゾクした。

これが武者震いってやつ? 

頬も自然に緩む。自分でつくろうとした笑顔ではなく。

「お手並み拝見といきますか」

これはマテカゴブリンに対してもあるが、自分に対してでもある。

真っ白い空間で一通りのチュートリアルはさせてもらったけど、実際のところどの程度の力なのか。

姫に心の中でツッコんだけど、そういえば俺も初実戦だったな。

気を引き締めて、臨むことにしよう。


俺は神竜に姿を変え、巨大なゴブリンに向かって飛びかかった。
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