8 / 29
8話 紛らわしいもの
しおりを挟む
「ねー、くもってかわいいよねー」
マヤちゃんがつぶやく。
「雲ってあれか? 空に浮かんでるやつ? お前そんなメルヘンな頭してたのか?」
ナギトくんが驚いたように返す。
「違う! 虫のほう! てか、空のほうの雲をかわいいって言ったらだめなの!?」
くもって、空に浮かんでるほうかと思った。
そういえば、クモ平気って言ってたなあ。
「いや、お前が言うと違和感あるだけ」
ナギトくんが素っ気なく言う。
「なにそれ、ひどくない!?」
「そうですよ、マヤさんはもともとかわいいんですから」
「ちょっと、リサ! 嬉しいけど、フォローの方向が違う!」
マヤちゃんが怒ってるような、照れてるような、ごちゃまぜな表情してる。
「でも、読みが同じで意味が違う言葉って紛らわしいわね。甘い飴と、空から降る雨とか」
「そうだね。この前、ぼくが、雨がいやだって言ったけど、晴れてる日に言ったら、どっちかわかんないもんね」
「それじゃあ、“こい”って聞くと、どっちを思い浮かべますか?」
リサちゃんが言う。
「え? 恋愛の恋しかないでしょ? 他にあったっけ?」
マヤちゃんが不思議そうな表情をする。
「恋愛の恋もそうだが、魚の鯉もあるだろ」
「そういえばそうだね。全然思いつかなかったー」
マヤちゃんが感心したように言う。
「でも、“こい”って聞いて真っ先に浮かぶのって、恋愛のほうだよねー?」
マヤちゃんがみんなを見渡すと、他の女の子二人が頷く。
へー。そうなんだ。ぼく、魚のほうだった。
「紛らわしいって言えば辛いと幸せも紛らわしいよね。辛いに一本たすと幸せになるってやつ聞いたことあるけど、あの一本ってどこからもらってくるの? 買うの?」
「他の幸せから盗るんじゃないか?」
「えぇ! ナギトさん、それじゃあ幸せの奪い合いじゃないですか! あんまりです!」
「リサちゃん、冗談だからね」
リサちゃんが本気にしてそう……
「一本引くって言えば、白寿なんかがそうね。九十九歳のお祝いで、百から一本引くと白だから、なんて面白いわね」
「アカリちゃん、物知りだねー」
「まあ、何かで読んだのをそのまま言っただけだけど」
「えー! それじゃあ、おじいちゃんとかおばあちゃんから奪ってたのー!? かわいそう!」
今度はマヤちゃんが本気にしてそう。
「まあ、ただのネタだろ」
ナギトくんはもう興味なさそう。
「ねえ、リサ、私たち他の人のもの奪ってまで幸せになってたのかな……」
「どうしましょう。わたしたちが楽しく過ごしてる間に、誰かが不幸になっていたなんて……」
二人の周りに黒い雰囲気が漂ってる。どうしよう……。
「めんどくせーな、そんな心配するくらいなら、他の人にその一本を譲ればいいだろ」
「そしたら、私たちが辛くなっちゃうじゃん」
「そんときは、また貰えばいいだろ。持ちつ持たれつだよ。いざとなったら、俺の幸せから一本どころか、二本や三本持っていっていいから」
ナギトくんがかっこいいこと言った!
「ナギト、ありがとう」
「ナギトさん、ありがとうございます」
マヤちゃんとリサちゃんは涙目になってる。
「ナギト、キザっぽいわよ」
アカリちゃんが冷たく言う。
「うるさいな! 恥ずかしくなる!」
「もう十分恥ずかしいわよ」
そうかな? かっこいいと思ったけどなー?
次の日。
「俺の幸せから一本やるってー! 今思うとちょっと恥ずかしいよね」
マヤちゃんがナギトくんをからかってる。
「うるさいな、言葉の綾だよ」
ナギトくんが顔を赤くする。
かっこよかったよね……?
マヤちゃんがつぶやく。
「雲ってあれか? 空に浮かんでるやつ? お前そんなメルヘンな頭してたのか?」
ナギトくんが驚いたように返す。
「違う! 虫のほう! てか、空のほうの雲をかわいいって言ったらだめなの!?」
くもって、空に浮かんでるほうかと思った。
そういえば、クモ平気って言ってたなあ。
「いや、お前が言うと違和感あるだけ」
ナギトくんが素っ気なく言う。
「なにそれ、ひどくない!?」
「そうですよ、マヤさんはもともとかわいいんですから」
「ちょっと、リサ! 嬉しいけど、フォローの方向が違う!」
マヤちゃんが怒ってるような、照れてるような、ごちゃまぜな表情してる。
「でも、読みが同じで意味が違う言葉って紛らわしいわね。甘い飴と、空から降る雨とか」
「そうだね。この前、ぼくが、雨がいやだって言ったけど、晴れてる日に言ったら、どっちかわかんないもんね」
「それじゃあ、“こい”って聞くと、どっちを思い浮かべますか?」
リサちゃんが言う。
「え? 恋愛の恋しかないでしょ? 他にあったっけ?」
マヤちゃんが不思議そうな表情をする。
「恋愛の恋もそうだが、魚の鯉もあるだろ」
「そういえばそうだね。全然思いつかなかったー」
マヤちゃんが感心したように言う。
「でも、“こい”って聞いて真っ先に浮かぶのって、恋愛のほうだよねー?」
マヤちゃんがみんなを見渡すと、他の女の子二人が頷く。
へー。そうなんだ。ぼく、魚のほうだった。
「紛らわしいって言えば辛いと幸せも紛らわしいよね。辛いに一本たすと幸せになるってやつ聞いたことあるけど、あの一本ってどこからもらってくるの? 買うの?」
「他の幸せから盗るんじゃないか?」
「えぇ! ナギトさん、それじゃあ幸せの奪い合いじゃないですか! あんまりです!」
「リサちゃん、冗談だからね」
リサちゃんが本気にしてそう……
「一本引くって言えば、白寿なんかがそうね。九十九歳のお祝いで、百から一本引くと白だから、なんて面白いわね」
「アカリちゃん、物知りだねー」
「まあ、何かで読んだのをそのまま言っただけだけど」
「えー! それじゃあ、おじいちゃんとかおばあちゃんから奪ってたのー!? かわいそう!」
今度はマヤちゃんが本気にしてそう。
「まあ、ただのネタだろ」
ナギトくんはもう興味なさそう。
「ねえ、リサ、私たち他の人のもの奪ってまで幸せになってたのかな……」
「どうしましょう。わたしたちが楽しく過ごしてる間に、誰かが不幸になっていたなんて……」
二人の周りに黒い雰囲気が漂ってる。どうしよう……。
「めんどくせーな、そんな心配するくらいなら、他の人にその一本を譲ればいいだろ」
「そしたら、私たちが辛くなっちゃうじゃん」
「そんときは、また貰えばいいだろ。持ちつ持たれつだよ。いざとなったら、俺の幸せから一本どころか、二本や三本持っていっていいから」
ナギトくんがかっこいいこと言った!
「ナギト、ありがとう」
「ナギトさん、ありがとうございます」
マヤちゃんとリサちゃんは涙目になってる。
「ナギト、キザっぽいわよ」
アカリちゃんが冷たく言う。
「うるさいな! 恥ずかしくなる!」
「もう十分恥ずかしいわよ」
そうかな? かっこいいと思ったけどなー?
次の日。
「俺の幸せから一本やるってー! 今思うとちょっと恥ずかしいよね」
マヤちゃんがナギトくんをからかってる。
「うるさいな、言葉の綾だよ」
ナギトくんが顔を赤くする。
かっこよかったよね……?
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。
春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。
それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。
にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話
赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。
「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」
そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる