だいじょう部

タマゴあたま

文字の大きさ
上 下
4 / 29

4話 雨の日

しおりを挟む
 雨がしとしと降っている。

「雨っていやだなー」

 ほとんど独り言のようにつぶやくと

「そうね。本がふやけるし」

 アカリちゃんが反応してくれた。そっか、湿気は本の天敵だもんね。

「わたしは、雨音が好きですから、嫌いではないです」

 リサちゃんは雨音を楽しむのか。考えたことなかった。

「俺は特にどっちでもないな」

 ナギトくんは中立的。

「それにしても、マヤちゃん遅いね」
「マヤは今日、日直で遅くなるぞ」

 ナギトくんとマヤちゃんは同じクラスだ。
 ——そのとき、部室のドアが勢いよく開いた。

「ただいまーー!」

『だいじょう部』では部室に入るとき「ただいま」と言うことになっている。発案者はマヤちゃん。理由は「なんかおもしろいから」だそうだ。ぼくはちょっと気にいってる。

「うるさいな。なんでそんなにテンション高いんだ」

 ナギトくんはこう言うけど、別に怒ってるわけじゃない。ぶっきらぼうなだけ。

「マヤさん、何かいいことでもあったんですか?」
「聞いてよ、リサ。今日雨すごいじゃん。湿気もすごいから廊下で転んだんだけど——
「また転んだのか」

 ナギトくんが割って入る。

「そこはいいの! でね、よくすべるからスケートができるんじゃないかって思ったの。廊下も結構長いし。そしたら、なんとキレイにすべれたの! 楽しかった!」

 マヤちゃんが興奮気味に話す。

「それは、よかったですねー」
「ねえ、みんなもやろうよー。楽しいよ」
「そうですね、やってみましょうか」

 みんなで廊下にでる。

「じゃあ、私がお手本みせるね」

 マヤちゃんが廊下の端に行く。そして、タッタッタと助走をつけて——
 シュッーとぼくたちの前を通り過ぎていく。
 マヤちゃん器用だな、と思ってたら、

「わー! どうしよう! 止まらない! ちょっと誰か助けてーー! ぶつかるー!」

 マヤちゃんはそのまま器用にすべっていき、
 バン!
 廊下の端の壁にぶつかって、やっと止まった。

「マヤちゃん大丈夫?」
「マヤさん、お怪我は?」
「マヤ、気をつけなさい」

 ぼくたちが心配する中、たった一人

「おー、確かに転びはしなかったな」

 ナギトくんがニヤニヤしながら言う。

「ちょっとナギト!大丈夫かのひと言もないわけ?!でもへーき、へーき。なんてったってだいじょう部の部員だから!」
「マヤ、頭うった?」

 アカリちゃん、マジトーンやめてあげて……。

「なにさ、みんな心配してたから、場を和ませようとしただけじゃん……」

 マヤちゃんがいじけちゃった。

「でも、マヤちゃん、かっこよかったよ」
「ほんと!? ありがとうヒカリちゃん!」

 マヤちゃんが抱きついてきた!

「ち、ちょっとマヤ!?」
「きゃー! きゃー!」
「なっ!」

 ああ、なんかあったかくて、やわらかい…………じゃなくて!

「マヤちゃん! ちょっとどうしたの!?」
「ごめん、ごめん。つい勢いで。テヘっ」

 なんだ、勢いか。びっくりしたー。

「マヤ。勢いでもやっていいこととわるいことがある」

 アカリちゃんがたしなめる。

「まあまあ。とりあえずみんな、やってみよ?」
「じゃあ、わたし、やってみます。えいっ」

 スーー
 おおー、キレイにすべってる。

「すべれましたー。結構楽しいですー」
「なら、俺も」
「私も」

 みんな次々にすべっていく。

「ヒカリちゃんは? すべらないの?」
「ぼくはいいかな。なんだか怖いし」
「私が手ひっぱってあげようか?」
「ヒカリ、マヤといっしょだと転ぶぞ」

 ナギトくんが茶化す。

「ナギトうるさい! ほらヒカリちゃん」

 マヤちゃんが手を差し出してくる。
 いいのかな? 女の子の手を握っても。

「いくよ、ヒカリちゃん」

 ぼくが戸惑っているのもお構いなしに、マヤちゃんはぼくの手を取ってすべりだした。当然ぼくもいっしょにすべる。
 あれ? 思ったより怖くない? マヤちゃんが手を握ってくれてるからかな?

「どう、ヒカリちゃん?」
「うん、楽しいよ」
「よかった」

 ある程度みんな楽しんだあと、マヤちゃんが

「今度こそキレイにすべるから! リベンジ! でも失敗したらアレだからみんな受け止めてね」

 と言うので、マヤちゃんは廊下の端に、ぼくたちはもう一方の端にスタンバイ。

「いくよー、とりゃ! ——って、うわわわ! 勢いつけすぎた!」

 マヤちゃんがバランスを崩す。

 今更気づいたんだけど、みんな制服なんだよね。もちろん女の子はスカートなわけで。あの……。その……。うっかりだよ? たまたまだよ? その、ちょっとだけ見えちゃったんだよね。

「マヤ、パンツ見えてる」

 アカリちゃんがズバリ指摘した。

「へ? あっ! ナギト、ヒカリちゃん、見たの!?」
「いや、見てないぞ」
「そうだよ、全然見てないよ! マヤちゃんが白って意外だなーとか思ってないよ!」
「バカ、ヒカリ、お前言うな」

 しまった! 声に出てた!

「二人とも見たんだー! バカ! えっち! ヘンタイ!」

 後ろの視線が痛い……。

 それから一週間、ぼくとナギトくんは女の子たちに口を聞いてもらえなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話

赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。 「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」 そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...