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第一章 最初の国
獣道2
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どの位歩いただろうか。薄暗い獣道には内部まで陽の光があまり届かないからか時間の見当すらつかない。
見失わない距離を保ってチャドに付いて行っているものの、少し前から痛み始めた足が段々エヴァの歩幅を狭くしていった。
しんどさを少しでも誤魔化そうと、ふぅ…と息を吐いた時、微かに何かの鳴き声が聞こえた。
少し離れた場所からだったのか、すぐに辺りを見渡してみたが何もいる様子はない。
「…チャド、今何か聞こえなかった?」
先程のこともあり、少し遠慮がちにチャドの背中に話かけてみたが彼は振り向きもしない。それどころか、ぐんぐんと変わらず歩いている。
「ちょっと、チャド!聞いてる?怒ってるの?」
声を張り上げて名を呼んでも全く変わらない様子で先に進んでいく彼に、エヴァは異変を覚えた。
(違う、私の声が届いてない…)
「チャドっ!」
もう一度名を呼んだ瞬間、突然白い靄が立ち込め始めた。
「…!?」
驚いたのも束の間、チャドと周りの木々や岩はあっという間に見えなくなると、エヴァの目の前は完全に真っ白な靄で覆われ、まるで場所が変わった様に空気が冷たくなった。
明らかに今し方の獣道とは違う…緊張感に身を固くしてエヴァは両の目だけで辺りを探る様に見回した。
(誰か…いる…?)
靄の中前方に目を凝らすと、ゆらゆらと揺れる黒い人影が浮かび上がる。
(人…!?)
『…其方は誰だ?』
人影を認識した瞬間に聞こえた男性の声にエヴァはビクリと肩を揺らした。
「……」
『口がきけぬのか?誰だと聞いている』
「あ…貴方こそ誰?ここは何処?さっきまでの場所じゃないわ」
『……ここは境界、常人ならば来れぬ。もう一度聞こう、其方は誰だ?』
「き、境界ですって…?」
昔、一度だけルカから聞いた事があったその名にエヴァは驚愕した。
境界…生きている世界とは異なる其々の国が持つ異空間であり、その場所は各国極秘となっている。境界に入り込める者は通常その国の王族のみ…つまり目の前に現れた人影と声は何処かの国の王族という事になるのだ。
何故突然この異空間に引き込まれたのか全く分からないが、兎に角今すぐ出なければならない。揺れる人影と距離を空けようと二、三歩後ろに下がった。
「お願い、ここから出して。急に入ってしまった事は謝るわ。境界ならば出口を作れるのは貴方でしょ?」
『…私の問いに答えるつもりは無いという事か?』
「……」
『…境界の存在を知っているならば何処かの国の王族の娘か…まあ、もうどうでも良い事だな。直ぐに黄泉の国へ送ってやろう』
「な…」
声をあげる間もなく、あっという間に人影がエヴァを飲み込んだ。
(息が…っ…こ、こんな所で…)
真っ暗な闇の中から出てきた二本の手がエヴァの首を締め付けたかと思うと、突如海の様な水の中へと引き摺り込まれた。
水の冷たさと腕だけのその人物に死への恐怖を感じた。
「…っ…」
『…其方は誰だ?』
「…っ…は」
『早く答えよ。どうせもう息が続かないだろう?苦しみが長引くだけだ』
声にならない声で必死に抗うが、ビクリとも首を締め付ける手は動かない。遠のく意識の中、死にたくないと首元に腕を伸ばすと何かを掴んだ。
(…ル…カのお守り…?)
首から下げられた小粒の美しい青い石が組み込まれたペンダント…あの日ルカから貰ったお守りだった。
『微々たる程度ですが私の能力が吹き込んであります。…必ず助けます、どうかお気をつけて』
縋る様に握りしめたペンダントはドクン…と一瞬自分の心臓と同調して脈打った感覚がしたかと思うと、静かに光り始めた。
見失わない距離を保ってチャドに付いて行っているものの、少し前から痛み始めた足が段々エヴァの歩幅を狭くしていった。
しんどさを少しでも誤魔化そうと、ふぅ…と息を吐いた時、微かに何かの鳴き声が聞こえた。
少し離れた場所からだったのか、すぐに辺りを見渡してみたが何もいる様子はない。
「…チャド、今何か聞こえなかった?」
先程のこともあり、少し遠慮がちにチャドの背中に話かけてみたが彼は振り向きもしない。それどころか、ぐんぐんと変わらず歩いている。
「ちょっと、チャド!聞いてる?怒ってるの?」
声を張り上げて名を呼んでも全く変わらない様子で先に進んでいく彼に、エヴァは異変を覚えた。
(違う、私の声が届いてない…)
「チャドっ!」
もう一度名を呼んだ瞬間、突然白い靄が立ち込め始めた。
「…!?」
驚いたのも束の間、チャドと周りの木々や岩はあっという間に見えなくなると、エヴァの目の前は完全に真っ白な靄で覆われ、まるで場所が変わった様に空気が冷たくなった。
明らかに今し方の獣道とは違う…緊張感に身を固くしてエヴァは両の目だけで辺りを探る様に見回した。
(誰か…いる…?)
靄の中前方に目を凝らすと、ゆらゆらと揺れる黒い人影が浮かび上がる。
(人…!?)
『…其方は誰だ?』
人影を認識した瞬間に聞こえた男性の声にエヴァはビクリと肩を揺らした。
「……」
『口がきけぬのか?誰だと聞いている』
「あ…貴方こそ誰?ここは何処?さっきまでの場所じゃないわ」
『……ここは境界、常人ならば来れぬ。もう一度聞こう、其方は誰だ?』
「き、境界ですって…?」
昔、一度だけルカから聞いた事があったその名にエヴァは驚愕した。
境界…生きている世界とは異なる其々の国が持つ異空間であり、その場所は各国極秘となっている。境界に入り込める者は通常その国の王族のみ…つまり目の前に現れた人影と声は何処かの国の王族という事になるのだ。
何故突然この異空間に引き込まれたのか全く分からないが、兎に角今すぐ出なければならない。揺れる人影と距離を空けようと二、三歩後ろに下がった。
「お願い、ここから出して。急に入ってしまった事は謝るわ。境界ならば出口を作れるのは貴方でしょ?」
『…私の問いに答えるつもりは無いという事か?』
「……」
『…境界の存在を知っているならば何処かの国の王族の娘か…まあ、もうどうでも良い事だな。直ぐに黄泉の国へ送ってやろう』
「な…」
声をあげる間もなく、あっという間に人影がエヴァを飲み込んだ。
(息が…っ…こ、こんな所で…)
真っ暗な闇の中から出てきた二本の手がエヴァの首を締め付けたかと思うと、突如海の様な水の中へと引き摺り込まれた。
水の冷たさと腕だけのその人物に死への恐怖を感じた。
「…っ…」
『…其方は誰だ?』
「…っ…は」
『早く答えよ。どうせもう息が続かないだろう?苦しみが長引くだけだ』
声にならない声で必死に抗うが、ビクリとも首を締め付ける手は動かない。遠のく意識の中、死にたくないと首元に腕を伸ばすと何かを掴んだ。
(…ル…カのお守り…?)
首から下げられた小粒の美しい青い石が組み込まれたペンダント…あの日ルカから貰ったお守りだった。
『微々たる程度ですが私の能力が吹き込んであります。…必ず助けます、どうかお気をつけて』
縋る様に握りしめたペンダントはドクン…と一瞬自分の心臓と同調して脈打った感覚がしたかと思うと、静かに光り始めた。
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