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4.さよならを告げる当て馬

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 そうして付き合い出した僕たちは、わりと仲良くしていた。
 歩く時は手をつなぐか、僕が腕に抱きついた。
 食事はあーんなんてしちゃうし、シュウの服も僕が選んじゃう。
 もちろん呼び合う時は「シュウくん♡」「ユキちゃん♡」だ。
 僕が好きだと言えばシュウだって好きだよと言ってくれて、僕たちはラブラブだった。

 けれどどうしても不安は消えない。
 だっていつ幼馴染や、地味だけど笑顔のかわいいあの子や、素直になれないライバルや、影からひそかに想いを募らせる健気っ子や、地味かと思ったら前髪上げると超絶無自覚美人が現れるか分からない。
 とにかく少し地味目の人物が要注意だ。
 なんせ僕が派手目のかわいい属性だから、だいたい僕とは正反対の子にいつもしてやられる。

 あー、思い出したくもない。
 何だよどいつもこいつも僕をダシにして結ばれやがって。
 結ばれるなら初めから結ばれろ。いちいち僕を経由するな。

「ユキちゃんどーしたの? かわいい顔が怖い顔になってるよー」

「えー、僕は怖い顔しててもかわいいでしょ」

「んー正解!」

 一人暮らしのシュウの家で戯れながらも、薄暗いものが振り払えない。
 今日はお家デートだから短パンにTシャツとお互いラフな格好で引っ付いているが、楽しい気持ちの奥底で、暗いモヤモヤが今か今かと鳴りを潜めている。
 奪われてなるものか、とやっきになってベタベタしているが、心の何処かで、どうせシュウも……と諦めの気持ちがわいてしまう。

 どうせ、シュウも僕の元から去るんだ。

 前にも似たような事があった。ありすぎた。
 あの時は色んな人に手を出すモテ男で、僕はその人の一番のお気に入り。
 なのにその人は、地味なめがねっ子を選んだ。
 こんなに胸が高鳴るのも苦しくなるのも初めてなんだって。
 これが恋なんだって気づいたんだって、初恋なんだって。僕への思いは、恋じゃなかったんだって。
 あんなに優しくしてくれて、たくさん好きだよって囁いてくれたのにね。

「……」

「ユキちゃん?」

 こんなにラブラブで幸せなのに、幸せであればあるほどジクジクとした膿が心を侵す。
 キミは誰に真実の愛を見つけるのだろう。
 僕はいつ、僕じゃない真実の愛を見せつけられるんだろう。
 僕を後から抱きしめてクッションに座るシュウは、今は優しく笑ってくれる。
 だけどどうせ、今だけなんでしょう?
 だったら、もう、早めに終わらせたほうが良いんじゃないか?
 諦めた心が、急に僕に語りかける。
 ほら、今ならまだ傷が浅いぞ、って。
 ──でもダメだよ。まだ諦めるなよ。好きなんだろ。

「ねぇシュウくん」

「んー?」

 それを言ったらもう─

「キスしてよ」

「へぇ?」

 ──あーあ、言っちゃった。

 さっそく広がる後悔。
 僕はシュウに甘えた笑顔ですりよるのに、内心では泣きそうだった。

「え、いいの?」

「うん、してよ」

 キスは、僕にとってさよならの儀式。
 実は僕はキスをした事がない。嘘だ、一回だけある。
 付き合っていた彼に、自分からした。
 そしたら思いっきり突き飛ばされて、口を袖で拭きながらすごい顔で見られたっけ。
 それから彼は影で見ていたお友達を追って、二度と僕の元には戻らなかった。ちょっとしたトラウマ。
 だから次の彼からは「キスして?」ってお願いするようにした。
 そしたら今度はさ、僕の肩を掴んでゆっくり近づいてくるわけ。
 そんで、急に腕を突っ張って僕を遠ざけ「ごめん……」って言う。で、本当にキスしたい相手に気づいてその人の元に行っちゃう。これがなんと三回あった。
 もう、笑うしかないよな。実際には笑う事なんかも出来ずに泣いたけど。

「……しちゃうよ?」

「うん……」

 シュウは、誰を思い浮かべる?
 本当にキスしたい相手は誰?
 僕の頬を大きな手ひらが優しく包む。でも知ってる。
 唇が触れ合う直前に、僕の知らないあの子の悲しむ顔が思い浮かぶんでしょう?
 それでまた「ごめん」って言うんだ。
 知ってるよ、大丈夫、まだ僕はちょっと泣くだけですむから。
 ちょっと文句を言って別れてあげるから。
 目を閉じているのは、瞳に僕を映すくせに、他のだれかを見ているシュウを見たくないから。
 吐息がかかって、少し体がピクリと動く。
 さようなら。
 心でお別れを告げて、込み上げてきそうな涙を──チュッ──

「──え?」

 なんか今唇にあたったよ?

 
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