美貌の魔術士はライバルをうっかり恋に落とす

キトー

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50.世にも稀な

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「……すまない。破るつもりはなかった」

「……いや、シャツ一枚ぐらい気にするな……」

「ただ、ボタンだけ千切ろうと──」

「──まず魔術を使うな。そしておちつけ」

 内心ではかなり震え上がっているが、プラドは努めて冷静を装い言う。
 どうやら己が考える以上に、ソラは緊張しているのだと悟ったからだ。
 あの魔術馬鹿のソラが魔術を暴走させるなんてありえないのだから。
 シャツを木っ端微塵にしてしまったソラはめずらしくアワアワしているが、こんな健気な恋人を前に怒れるはずもなかった。
 ただ、これ以上ソラに任せたら、次はナニがちょん切れるかもしれない。

「な、なぁ、メルランダ……」

「ふむ、すまない」

「いやべつに怒ってない。ただ、やはり不慣れな事を無理にしなくても良いと思うんだよ。だから今日は俺に任せてみないか?」

「……だが……」

 シュンとするソラをなだめるが、ソラはまだ不安げにうつむく。
 やはりまだ体を預けるのは不安なのだろうかと心配になり、ソラの頬を撫でながら問いかける。

「どうした……?」

 するとソラは頬に触れているプラドの手を掴み、深く考え込むように、自分に問いかけるように呟く。

「……任せてばかりで、私はプラドを抱けるだろうか……」

「……」

 シン……と、静まり返る部屋。固まるプラド。
 妙な空気になった事など気づかないソラは、一人でウンウンとどうするべきか悩んでいた。

「お前……世にもまれなほどピュアなくせに俺を抱く気だったのか……」

 抱けるもんなら抱いてみろ。
 思わず本音が飛び出たプラドに、ソラはきょとん顔を返す。

「恋人との触れ合いとは、そういう事ではなかったか?」

「いや、間違っちゃいないが、やや俺と認識のズレがあるようでな……」

 ここまで来て重大なミスを冒したと気づいたプラドは、頭を抱える。
 とは言え、もう後戻りなどする気はない。
 プラドは一旦ソラの身体を起こし、胡座を組んだ己の上に対面で座らせる。その拍子にプラドの頭に付いていたシャツの欠片がハラリと落ちた。
 細い腰に腕を回してソラの体を安定させ、言葉を選んでソラに再度問う。

「あー……、ちなみに男の抱き方は分かるのか?」

「……」

「経験は?」

「……」

 経験も知識もあるわけ無いと分かりきっていたが、まずはソラに自覚させる必要がある。
 そう思い言葉にしたが、案の定、ソラは何かを言おうとはするが、最後は口を噤んでしまう。
 それ見たことかと笑えば、ソラもバツが悪そうに眉を下げた。

「……確かに、知識も経験も足りていなかった。すまないプラド」

「いや気にするな」

「ならばまず学習してから──」

「──いやその必要は無いっ!」

 今日の日を終わらせようとするソラに、プラドは慌てて叫ぶ。
 終わらせてたまるか。

「俺が知ってる。抱き方も、メルランダを気持ちよくする方法も、な……」

 プラドの言葉に、ソラはまたきょとんとした。
 しかし次第に意味を理解したようで、ハッとした顔でプラドを見た。

「なるほど、私が抱かれるのか」

「あぁそうだ。了承してもらえるか?」

「私は何をすればいい?」

「何もしなくていい。いや、何もしないでくれ……っ」

 真剣な眼差しで説得するプラドに、ソラはコクンとうなずいた。
 ひとまずとんでもない災難は去っただろうかとソラの肩に頭を置いて、一旦心を落ち着かせた。
 しかしなかなか手を焼かせる、とプラドは内心で息を吐く。
 相手の服を脱がせるだけでテンパってしまうほど、不慣れで緊張する恋人なんて──

「──……くっそ可愛いなちくしょう……」

 現金な下半身が、またむくむくと元気を取り戻した。
 やっと、長い夜の始まりだ。

 
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