美貌の魔術士はライバルをうっかり恋に落とす

キトー

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27.それは未知の世界

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「いらっしゃいませぇ」

 若い女性の店員が、来店した二人を出迎える。

「二人なんだが」

「かしこまりましたぁ」

 間延びした声で案内された席は、店の奥にある丸テーブルだった。
 椅子は四つあったが、二人は隣り合って座る。その間も手は繋いだままだ。

「何を食べる」

 プラドから板に手書きで書かれたメニューを渡される。白に塗られた板に可愛らしい花の絵が描かれたメニュー表をソラはじっくり眺めるが、次第に眉をひそめ始めた。

「……おい?」

 難しい顔をするソラにプラドが怪訝な声をかければ、ソラはやはり難しい声を出す。

「……サラダ、と、珈琲……」

「は?」

 メニューとにらめっこをするソラは、それだけ言うと黙り込んでしまう。
 あまりにも少ない注文にプラドは驚いて、ソラの顔をしげしげと眺めた。

「お前、それだけしか食べないつもりか?」

「いや、そうじゃない」

 いくらなんでも少なすぎるだろ、とツッコんだつもりだが、ソラは違うのだと言う。
 いったい何がそうじゃないのか再び尋ねれば、ソラは困った顔でプラドを見た。

「サラダと珈琲しか分からない。他はどんな料理なんだ?」

「……まじか」

 ソラの言葉に固まってしまったプラドを見て申し訳なく思うが、分からないものは分からない。
 家や学園以外で食べるのは、依頼中に森で食べる携帯食ぐらいなものだ。外食など皆無である。
 そんな人物がいきなりおしゃれなメニューを渡されても、理解不能になっても仕方がない。
 辛うじてパイやケーキは理解できる。ただ、その前後に長々と単語が連なっているのがソラには理解出来なかった。何の呪文なのか。
 そもそも食事をしに来たのになぜケーキがたくさんあるのだろう。甘味は娯楽だろうに。
 そんな思いでまた難解なメニューとにらめっこを始めたが、そんなソラの手から、プラドはそっとメニューを引き抜いた。

「あー、お前はどんな物が食べたいんだ」

「栄養価が高──」

「──俺が勝手に選ぶぞ」

 一通りメニューに目を通したプラドは、近くにいた店員に手を上げて合図を送り、手慣れた様子で注文を済ます。
 そんなプラドを眺めていたソラは、感心したように言った。

「あの料理が全部分かるのか」

「まぁ、だいたい分かるだろ」

「そうか、たいしたものだ。それにここはずいぶん親切な所だな」

「何がだよ」

「わざわざ注文を聞きに来たぞ」

「そりゃ飲食店だからな。当たり前だろ」

「そうなのか……?」

 そう言うと、ソラはまた物珍しそうに周りを見渡す。そんなソラの姿を、プラドは面白そうに眺めていた。
 しかし次第にソラがソワソワしだした為、プラドはまた「どうした」と声をかけた。
 するとソラは、キッチンがあるであろう場所を指さしながら言う。

「そろそろ料理を取りに行かなくて良いのか?」

「……いや、持ってくるんだよ、この席に。俺たちは動かなくていい」

「そうなのか」

 驚いている間に、さっそくスープとサラダが運ばれてきた。
 学食しか知らないソラは、カウンターで注文しカウンターで受け取る方法しか知らない。だからだろう、次々に運ばれてくる様子を目の当たりにし、また感心したように言った。

「プラドは物知りだな」

「物知りっつーか……まぁ良いけどよ」

「ふむ」

 ソラが物珍しく見ている間にも料理は運ばれてくる。
 スープや色とりどりのサラダの他に、ハムやチーズもテーブルに並べられ、最後に来たのは──

「──これは何だろうか」

「パンケーキだろ、どう見ても」

「クリームが付いているが?」

「これは俺が追加でたのんだ」

「甘そうに見えるが……」

「そりゃクリームだから甘いだろうな」

 食事をしに来たはずだった。しかし目の前にはケーキと名のつくフワフワと、白く甘いクリーム。いったいなぜ? この甘味は食事に必要ないと思うのだが。
 ソラは考えた。考えて考えて、出した答えは……

「……なるほど、今日はキミの誕生日だったか」

「ぶふ……っ、な、何がなるほどなんだよ、ちげーよ。あーもー、良いからとりあえず食べるぞ」

 甘いケーキを誕生日にしか食べた事がないソラは自信満々に答えたのだが、大いに間違えたらしい。思いっきり吹き出されてしまった。
 しかしプラドは怒るどころか面白そうに笑うので、人知れず安堵する。
 いつも怒らせてばかりだが今日はまだ大丈夫なようだ。
 では、ケーキの謎は分からないがとりあえず食べようか、となり、ここで問題が発生した。

「……」

 実は未だに、二人は手を握ったままだったのだ。

 
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