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25.声紙

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 それからソラは穏やかな休日を過ごした。
 ヒナタと共に街に出て買い物をしたり、両親の墓参りをしたり、ヒナタとのティータイムを楽しんだりと様々だ。
 しかしソラが最も過ごした場所は、狭くて乱雑とした部屋だった。
 そこは本に溢れていた。本棚にはもちろん、床やテーブルにも山のように積まれ、今にも崩れんばかりだった。
 この本は全てソラの両親が残した物だ。そして全て、魔術や魔力、魔法陣に関するものである。
 この場所で学園の書房より豊富な種類の本に囲まれて、床に座り込んで読みふけるのがソラは何より楽しいのだ。

「ソラさん、何か届いてるわよ」

「私に?」

 そんな充実した休暇を満喫している時だった。ソラに一通の手紙が届く。
 祖母から受け取り裏返すと、差出人はプラドだった。
 休暇中に同級生からの連絡など来たことの無いソラは驚いたが、少し嬉しくも思う。
 まるで友人同士のようではないか。
 いったい何の用事かとワクワクしながら封を開ける。すると持っていた手紙は勝手に大きく開かれ聞き覚えのある声が部屋に響いた。

『──お前は何をグズグズしてるんだっ! 休みなんてあっという間に終わるんだぞ……っ。仕方ないから王都までの馬車を手配してやる。まったく、手間がかかる……ただ、まぁ、どうしても都合が悪いのなら連絡をよこせ。なるべく早くな!』

 手紙からの大声は、紛れもなくプラドのものだった。
 ソラに文句を言い終えて満足したのか、手紙はソラの手の中で大人しくなる。

「……声紙か」

 大人しくなった手紙、改め声紙をソラは見つめる。
 ずいぶんと珍しい物を送ってきたな、と。
 言葉を書いて伝える物は手紙、口で言った言葉をそのまま伝える物は声紙と呼ばれる。
 声紙は手紙より高価な為に、必要性が無ければわざわざ使う者は少ない。
 ちなみに魔力を流せば再生可能だが、もう一度聞こうとは思わなかった。

「怒ってる……な」

 とても分かりやすく怒ってきた声紙から、プラドの感情がありありと伝わってくる。
 しかしながらソラに焦りは無い。なんせ彼はいつも怒っているのだから。
 むしろ今のソラは、喜びが勝っていた。
 彼は一刻も早く魔術の検証を望んでいる。なんて熱心なのだろう。
 もしかしたら魔術による生活への弊害が出ているのかもしれない。しかし、確かにおかしな行動をとってしまう魔術のようだが、生活に大きな弊害が出るほどでは無いように思えた。だとすれば、純粋に興味からの行動の可能性もある。
 もしこの考えが当たっているならば、これほど嬉しい事があるだろうか。

「一刻も早く行かなくては……」

 休暇にまで魔術にのめり込む人物を、自分以外に知らない。
 しかしそれは、たった今までは、だ。
 ソラは返信用に入れられていた声紙を取り出す。

「プラド、ソラ・メルランダだ。遅くなってすまない。そちらに行ける日程は──」

 声紙に魔力を注ぎながらプラドへの返事を口にし、封をして近くの郵便収集場に飛ばす。
 そこから収集場を経由して明日にでもプラドの元に届くだろう。
 急く気持ちを抑えて、ソラは散らばった本の中からどの本を持っていくか悩みに悩む。
 遊びに行くわけではない。けれどワクワクが止められない。
 まずどうやって検証しようか。ずっとそばに居られ、なおかつプラドも協力してくれるのならば、様々な方法を試す事ができるだろう。
 検証している間にお互いの魔術観に対する考えを語ってもいい。

「あら、なんだか楽しそうねソラさん」

「……そうかもしれません」

 未だプラドに見せる本に悩みながら、ソラはこれから最高の休日になりそうな予感を覚えて胸を躍らせた。

 
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