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23.姦しい
しおりを挟む落ちたカトラリーも拾われぬまま、皆呼吸を忘れたかのような痛いほどの静寂。
それを破ったのは、いち早く頭の中を整理したアネリアだった。
「まぁ……プラドは殿方に興味が──」
「──それは大きな誤解ですっ!!」
しかし、せっかく整理して出したであろう結論を、プラドはアネリアが言い終える前に否定した。
それはもう、全力で否定した。
「自分だって同性をそんな目で見たことなんかありませんよ! ただ……何というか、相手があまりにもいじらしく俺の気を引こうとするから、少しぐらいは考えてやっても良いかと思っている段階なだけで……」
自分は男に興味は無いのだ。ただ相手が必死に好意を伝えてくるからほんの少し絆されているだけなのだ。と懸命に弁解するプラド。
プラドが語れば語るほど、驚きで固まっていたメイドを含む乙女達の瞳が輝き出した。
「まぁ……まぁまぁ!」
「私知ってるわ! これが禁断の恋ね!」
「いいえ、性別の垣根を超えた真実の愛だわ!」
「ちょっと二人とも──」
「それでお兄様! 同性でもお兄様が将来を考えちゃうお相手ってどんな方なの!?」
「それよりその子がどんなふうにプラドにアピールしてきたのか知りたいわ!」
プラドに迫る義姉と妹、そんな中アニスだけが二人を止めようとするが、そう簡単に止まるはずもない。そして部屋にはなぜだかメイドが増えていく。
「プラドお兄様! 可愛らしいお方? かっこいいお方?」
「ど、どちらかと言えば可愛い……」
「きゃっ、お兄様への愛が可愛くさせてるのね!」
「プラドを選ぶなんてその子は見る目があるわ! アナタは兄に似てちょっと頭が固いかと思ってたけど、そんな素敵な考えもできたのね──」
「──だからっ! ちょっと! 待ちなさいっ!」
白熱がピークに達し、メイドが倍に増えたところでアニスが立ち上がり叫ぶ。
それによりやっと二人は口を閉ざし、部屋のすみでキャッキャと騒いでいたメイド達もピシリと姿勢を正した。
場が収まったのを確認したアニスは長く息を吐いて椅子に座る。
そして改めてプラドに向き合い、重々しく口を開いた。
「プラド」
「……はい」
「お前はハインド家の名を背負っているのを忘れてはいけない。今は自由に恋愛をしても良い。しかしゆくゆくは子をなして──」
「古いわね」
「──え」
だが、ここで黙っている妻では無い。
「アニスお兄様、いつの時代の人なの?」
当然、妹だって黙ってない。
「アーサー殿下に王位継承もされて新たな時代が始まってるっていうのに、アナタは未だに先々代に取り残されているのね……」
「そんなんだからアネリアお姉様に怒られてばかりなのよ」
「いや、しかし、ハインド家として……──」
「もしハインド家の将来を思って言っているのなら、プラドの恋愛よりアナタの古い考えを最新のものにするほうがハインド家の為になると思うわ」
「真面目なのはアニスお兄様のいい所でもあるけど、柔軟な考えも持たないとハインド家の当主はつまらない人間だって言われちゃうわよ?」
「でも…………」
二人からの容赦ない追撃に反論の余地はなく、段々と泣きそうな顔になってきたアニス。
そんな兄に同情し、プラドは「兄上のお言葉も真摯に受け止めます……」と励ましの言葉を残して、それ以上余計な言葉は出さなかった。
しかしながら食事を終えた後も目を輝かせた二人からは解放されず、嫌々ながらに詳細を話すプラド。だがどこか誇らしげな様子が隠せておらず、メイド達はそんなプラドを微笑ましく見守った。
そして執事は、いまだに泣きそうなアニスへ温かな紅茶を入れ直した。
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