美貌の魔術士はライバルをうっかり恋に落とす

キトー

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5.ソラの料理

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 開始の鐘が鳴り、ソラも準備に取りかかろうと食材をマジックバッグから取り出すが、その間も先程の己の行いを反省していた。
 せっかく誘ってもらったグループ企画。
 なのに準備はすべてプラドやその友人達に任せっきりになってしまい、申し訳なく思っていた。
 何度か手伝える事は無いかと訪ねたが、特に無いと言われ追い返されたのだ。
 それでも何か関わりたかったソラは、独断で会場が華やかになるだろう魔術を準備した。
 しかし先程のプラドを見るに、どうやら余計なお世話だったようだ。
 申し訳ない事をした、と反省しながらもバッグから取り出したイエティを真っ二つに切り落とす。
 勢いよくチョッパーナイフを振り下ろした拍子にイエティの血がエプロンに付く。
 借り物を汚してしまったが、後で洗浄魔術をかければ問題ないだろう。
 必要な部位の皮を剥いで大鍋に入る大きさに引きちぎり、握り潰して鍋に入れる。
 頭に少々肉のかけらが飛び散ったが、後で洗浄魔術をかければ問題ないだろう。
 肉の準備を終えれば、次は野菜だ。
 バッグから様々な魔野菜を取り出し、手で握り潰しながら鍋に入れていく。もちろん手には強化魔術を使用している。
 握り潰す際に「ぎょえぇえッ」やら「ぴゃうぅぅ」やら叫ぶのが困りものだが、魔野菜は栄養が豊富で良い。
 魔野菜が暴れて汁があちこちに飛び散るが、まあこれも後で処理すれば問題ないだろう。
 そして卵を取り出し、これもまた握り潰して殻ごと鍋に入れた。
 材料が揃えば独自に配合した薬液を入れる。すると食材が溶けて混ざり合う。
 ここまでくれば、あとは火を起こししばらく煮詰めるだけである。
 やれやれこれである程度工程が済んだ、と一息ついた時だ。

「……?」

 辺りは、ソラが持ち込んだ小箱からの音楽に包まれている。
 つまり、音楽以外の音が無い。
 皆誰も彼もが静まり返り、鬼気迫る表情でソラを見ていたのだ。
 この光景にソラは見覚えがあった。髪をナイフでざっくり切り落とした時と同じ空気だ。
 そこでおそらく自分はまた何か失敗をしたのだろうと悟るが、思い当たる節が無い。料理対決だから料理をしていただけなのに自分は何を間違えたのだろうか。
 よく見れば対戦相手であるプラドまで野菜を握りしめたままこちらを凝視している。
 彼が呆けるなど珍しいな、と思いながら、ソラはプラドに向き合う。
 そして、フリフリエプロンをイエティの血と魔野菜の汁で染め上げた姿のまま、首を傾げてプラドに声をかけた。頭からは肉片が落ちた。

「何をしているんだ?」

「いや……お前が何してんだ?」

 プラドは握りしめていた野菜を慎重にそっと置く。
 そしてどこか警戒したように、そろそろとソラに近づくプラド。
 怯えたようにも見えるその姿に、ソラはやはり首を傾げた。

「これは……何を作っているんだよ」

「何とは?」

「料理名だ」

「料理名は無い」

 鍋から一定の距離を置いて尋ねられたが、料理名など考えた事が無かった。
 もしや初めに料理名を伝えて作る必要があったのだろうか、とおそらく間違っているだろう考えをめぐらせているソラにプラドが更に尋ねる。

「魔野菜なんてどこで売ってたんだ」

「魔境で罠を張った」

「自分で狩ったのか……」

 なるほど、魔野菜が珍しくて皆見ていたのか、とソラは納得する。
 その為、主な理由は別にあるとソラは永遠に気づく事はなくなった。

「で……えー、どんな料理を作るつもりなんだ?」

「必要な栄養素を含んだ料理だ」

 料理とは食事をする為の下準備だとソラは認識している。
 そして食事をする理解は、必要な栄養素を体内に摂り入れる為である。
 まずエネルギー源には糖質・脂質・タンパク質が必要である。卵には糖質とタンパク質が含まれているから合理的だ。
 肉は今回はイエティを用意した。固くて臭いが、極寒で生きるイエティの肉は栄養素が豊富で鉄分も多く含まれる。
 そこに様々な魔野菜で栄養のバランスを整える。独自に配合した薬液は食材を瞬時に分解して混ざりやすくする物である。
 混ざりあった食材に火を通し、冷めた所で必須アミノ酸とビタミンが多く含まれるラフレシアの蜜を入れれば……

「完成だ」

「完……成……?」

「ふむ」

 絶句するプラド。ザワつく会場。満足げにうなずくソラ。
 混沌としたステージで、言葉を無くしていたプラドがもう一度鍋を見て、思わず叫んだ。

「ど、どう考えても美味くないだろこんなもんっ!!」

 いや、そもそも食べられるのか? と混乱したように叫ぶプラドの横で、ソラは首を傾げた。

「……? 自分の料理を美味いと感じた事は無いが?」

「ダメじゃねーかっ!!」

 ダメなのか。
 それは知らなかったと顔に書いてあるソラを見て、プラドはとうとう頭を抱える。

「……こんなの誰も食べられないだーろがっ」

「問題ない」

「何を根拠に……」

「栄養素を壊さぬよう乾燥させ凝縮し飲みやすい小さな粒に加工する。そうすれば耐え難い匂いや味を感じずにすむ」

「それは料理じゃなくて携帯保存食だっ!!」

 耐え難い匂いと味がする時点でもうダメだ。ダメダメだ。
 乾燥も凝縮もソラの魔術にかかれば簡単だろうが、今はそんな技術は関係ない。
 会場は、もうすでにざわつきさえ消えていて、皆はただただ二人の押し問答を息を飲み見守る。
 空では魔法陣の描く角ウサギがブレイクダンスを踊っていたが、誰も見ていなかった。

 
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