美貌の魔術士はライバルをうっかり恋に落とす

キトー

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3.プラドからの誘い

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 ソラは今日も一人で歩く。
 授業を終えた後は書房に籠もるか実験室に籠もるのがソラの日課だ。

「おいメルランダ」

 今日は完成した魔法陣を試したいので実験室へ向かう途中だったが、そこで珍しくソラを引き止める声があった。
 とはいえ、ソラを引き止める者など限られている。

「プラド」

 振り返れば、予想通りの人物が仁王立ちでソラを見ていた。
 彼はなぜいつも仁王立ちなのだろう、という疑問はとうの昔に消え去っている。ソラももう慣れてしまったからだ。
 ソラが立ち止まると、プラドはソラに歩み寄る。そんなプラドに、ソラは内心で身構えた。
 話しかけてもらえるのは嬉しいが、だいたい彼は怒っている。
 今日は何を怒らせてしまったのだろうかとそばに来たプラドを水色の瞳で見上げれば、プラドは珍しくソラに笑いかけた。

「もうすぐ学園祭の季節だな」

「あぁ」

 しかもプラドの口から世間話のような話題が出てきた。今まで「調子にのるな」「次は勝つ」「バカにするなよ」としか言われた事の無いソラは驚いたが、特に表情は変わらなかった。

「お前は学園祭の催し物は決まっているのか?」

「いいや」

 怒っていないプラドと会話を出来ているのが奇跡に思えて浮かれていたが、続く話題にまた心はしぼんだ。
 学園祭では、必ず全生徒が催し物をしなければならない。
 個人で企画しても良いが、殆どはグループを作り企画をねる。
 飲食店や劇、ダンスパーティーなどなど種目は自由。とにかく来賓を楽しませれば良いのだ。
 以前は校庭に巨大迷路を作った生徒達もいたらしい。
 しかしソラは、グループに属した事は無い。
 一度だけ誘ってもらった事もあるが、劇の主役を頼まれた為に泣く泣く断った。裏方であれば大喜びで承諾しただろう。
 その一度を除き、ソラを誘う者は居なかった。ソラ自身も、自分からグループに入れてもらおうとはしなかった。
 なんせ親しい友人が居ないので、どのグループにも声がかけづらい。
 勇気を持って声をかけても、親しくもない人物からの誘いなど迷惑がられるかもしれない。
 そんな事情もあり、ソラはいつも一人で企画していたのだ。
 見栄えのよい魔術を作って披露するのがお決まりになっていたが、皆でワイワイ騒いで一つの目標を達成してみたいのがソラの本音だ。
 とはいえもう、諦めているが。

「じゃあ、今年は俺と組まないか」

「……」

 だからだろう、プラドの想定外すぎた誘いに、ソラは反応出来なかった。
 学園祭の企画を共にしないか、と誘われたのは分かる。分かるが、ソラには現実味が無さすぎたのだ。
 表情を変えずにプラドを見つめるソラ。
 プラドから見れば「やれやれコイツは何をバカげた事を……」と呆れているように見えたかもしれない。
 プラドは少し苛立った様子を見せ、

「なんとか言え」

 と、これまた分かりやすく怒った。

「あぁ、私はかまわない」

「そうかそうか!」

 プラドの声でソラは我に返る。そして承諾したのだが、途端に顔を輝かせたプラドにソラは慌てて付け足した。

「もう企画を考えているのか?」

 承諾したは良いが、まだ何の催し物をするのか聞いていない。
 もしこれが己には困難を極める物であれば断らざるを得ないだろう。せっかく誘ってもらったのに申し訳なくは思うが、また劇の主役をやれなどと言われれば無理なものは無理なのだから。
 しかし返ってきた答えは、これまたソラには予想外の物だった。

「料理対決、と言うのはどうだ」

「料理対決?」

 聞き慣れぬ言葉に首を傾げる。
 するとプラドは腕を組んで胸を張り、企画の考えを話しだした。
 プラドいわく、ただ飲食店を出すのではつまらない。
 だから料理対決という名で人を集め、作った料理をその場で食べてもらうのだと言う。

「これなら周りに居る者達も楽しめるだろう。ただ飲食店を出すだけより人も集まるし祭も盛り上がる」

「……なるほど」

 面白そうだな、とソラは素直に思う。
 格闘技の試合を催し物にした例は知っているが、料理で試合とは新しい。
 これならば老若男女問わず楽しめる企画になるのではないだろうか。

「分かった、私は何をすれば良い」

「当日に料理を作れば良いだけだ。簡単だろう? 詳しいスケジュールは追って伝える」

「準備は?」

「主に俺達がする。必要な事があれば連絡しよう」

「承知した」

 ソラがうなずくと、プラドは満足したのか上機嫌で去っていった。
 そしてソラも、見た目には分かりにくいが上機嫌になった。
 なんせ初めて、クラスメートとグループを組めたのだ。これが上機嫌にならずしてどうするのか。

「……楽しみだ」

 ポツリと呟いた心情は誰に聞かれる事もなく消える。
 それでもソラの喜びがにじみ出たのか、本日は益々周りを魅了した。
 その様子を名もない生徒が語る。花の精霊が周りに花を咲かせているようだった、と。

 
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