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60.結婚式
しおりを挟む「ここおしろ?」
「お城じゃないよ。家だよ……たぶん」
「おいえなの? おっきいねー!」
その後はつつがなく進んだ。それはもう驚くほどに。
婚約書は準備されていたし、ジャッジ様の家に僕らの部屋も準備されていたし、僕とリリーにピッタリの服も準備されていた。
いきなり僕らみたいな平民が城と見間違うほど立派な屋敷に来て嫌な顔をされるんじゃないかと心配だったが、呆気にとられるほど歓迎された。
「あなたがリリーちゃんね? まぁ可愛らしい。私達の養子にならない?」
「どの道家族になるんだ。焦らずとも良いだろう」
相変わらず美しいジャッジ様のご両親も歓迎してくれて、僕は足から崩れそうになるほど安堵した。
ジャッジ様について行けば大丈夫、と呪文のように心で唱えていたが、どうしても不安だったのだ。
もしジャッジ様の家族から反対されたら、たとえジャッジ様が望んでくれても結婚は非現実的になっていただろうから。
「良かった……」
用意されていた驚くほど広い部屋で、驚く暇もなく深い溜め息と共に心の内が吐き出された。
するとジャッジ様は何でもないように言うのだ。
「当然です。両親には真っ先に了承を得たのですから」
「そうなんですか?」
「えぇ、九ヶ月半前から伝えています」
「え……っ」
それは、僕が学園に来てまだ数ヶ月での時点だと思うのだが。
その頃は毎日睨まれて、小言も多くてずいぶん嫌われていた……はずだ。
「えっと……」
「何か?」
「……いえ」
実は、かなり前から好きだったんですか? あんな態度を取っておいて?
なんてジャッジ様に聞けるはずもないので、口を噤んで誤魔化すようにリリーを抱っこする。
もし、これが自意識過剰じゃなくて真実なら、ジャッジ様はとんだ恋愛不器用ではないだろうか。僕が言うのもなんだが。
「おにいちゃん、おかおまっかよー?」
「あ、赤くないよ! ちょっと熱いだけで……っ」
「では私の氷魔法で──」
「大丈夫です! 治りました!」
僕はこれから何個、ジャッジ様の秘密を知れば良いのだろう。
どれもこれもが驚きと恥ずかしさの連続で休まる暇がない。
「明日は結婚式について話し合いを行います。良く休まれてください」
「けっこんしき! リリーもドレスきれる?」
「もちろんです。様々な外商を手配済みですので」
「様々な……」
詳しく聞くのは恐ろしいのでここは任せようと思う。聞いた所で止められそうにないのも理由だ。
僕のせいで様々な予定が狂ったようなので、新たな様々な準備は邪魔にならないようにしよう。
だだしあくまで常識の範囲内で……僕とジャッジ様の常識が違うかもしれないが。
そしてその予想は見事に的中したわけである。
* * *
「──…………なんで……」
「ルット、笑顔です」
華々しい舞台に上がっている僕は、ポロッと溢れそうになった心情を飲み込んで笑顔を作る。
あれよあれよと進んだ結婚話。
採寸して書類にサインをしてご両親とのお茶に呼ばれて採寸してリリーと遊んで採寸して。
目まぐるしい日々を過ごしているうちに、あっという間に結婚当日になっていた。
盛大な結婚式になると幾度となく聞かされたが、大聖堂で行われた式は想像を超える盛大さで心臓の音しか聞こえないほどだった。
しかも、しかもだ。なんで──
「──なんで、国王様まで……っ」
エドワード殿下だけならまだしも、国王陛下に王妃、他国に嫁いだ王女夫妻まで。さらには迎賓席には隣国の王族が並んでいる。
もちろんリストはもらっていたのだが、あまりにも現実離れした名前の羅列に気が遠くなって見なかった事にしてしまった。
その結果が、これだ。
「ジャッジ様、僕変ではないですか?」
「たいへん美しく可愛らしいです。ピンクブロンドの髪に合わせたドレススーツにレースをふんだんに使ったのは正解でした。アナタにとても良く似合っている。髪も派手な色の宝石よりパールやダイヤで飾った事でルットの美しさがより引き立って──」
「もう良いですありがとうございます……っ!」
国を代表する演奏団の奏でる音色の中、とんでもない顔ぶれに見送られて僕は祭壇までの道を歩く。
今まで結婚式は何度も参加しているが、村での式とはあまりにも違いすぎて参考にすらならなかった。
リハーサルは散々やったが、歌って踊っていたらいい村とは大違いだ。
こうなればジャッジ様のご両親と一緒にいるリリーの可愛らしいドレス姿に集中するしかないだろう。
我が妹ながら完ぺきな可愛さだ。
「大丈夫です。アナタはこの場の誰よりも美しい」
「……っ、ジャッジ様だって……」
緊張のピークに達する僕の隣で優しい声色が聞こえるが、僕は隣をまともに見れなかった。
だってきっと僕の隣の彼は、いつもより輝く姿で優しく微笑んでいるだろうから。
僕は先程から、あまりにもかっこよすぎるその姿を直視できないでいるのだ。
日頃から厳格な雰囲気を醸しているが、今日は軍服を着こなしいつもにも増して威厳のある姿になっていた。
そんな人物が、僕にだけ柔らかく微笑んでいるのだ。
うっかり見てしまうと緊張など吹き飛ばして見惚れてしまいそうで見れないわけである。
「ルット」
「はい……っ」
けれど必ず彼を見なければいけない場面が訪れてしまう。
誓いのキスだ。
ドコドコ騒がしい心臓に負けないよう顔を上げれば、キラキラ輝くジャッジ様の顔があった。
「……っ」
誰か特別な魔法を使っているに違いない。
入場の時も虹色の光を散らす白鳩が飛んでいたじゃないか。だからきっとジャッジ様にも、なんだかこう、とんでもなく格好良く見える効果が掛かってるに違いない。
案の定見惚れてしまった間に誓いの口づけが交わされて、聖堂内にはファンファーレが、青空には鐘の音が鳴り響いた。
「──……ほ、本当にするんですね」
「もちろん、計画通りに行います」
その後は花で飾られた馬車に乗って街を走った。
石畳の広い街道を白馬が引く屋根のない馬車が走り、その上で僕は手を振る。
まさか平民の僕がパレードの中心で手を振る羽目になるとは思わなかったが、これも必要な催しと理解しているのでめいっぱい笑顔を作っておいた。
「おはな、たくさんね!」
「そうだね。綺麗だね」
リリーを膝に乗せて走る馬車に、沢山の祝福の声と共に花が投げ入れられる。
その様子に世界一可愛い妹のリリーが楽しそうに笑うので、僕もいつの間にか作り笑いを忘れて微笑んでいた。
また、その様子に目を細めるジャッジ様。
そんな幸せな僕たちに、街の人々は更に歓喜したのだった。
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