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28.大切な家族だから
しおりを挟む「まぁいいさ。とりあえず観戦席にいこうぜ」
「はい、お世話になります」
気を取り直して、僕らは観戦席に向かう。
僕も何度か整備のために入った事があるが、競技が行われている時間に入るのは初めてだ。
「俺から離れんなよ。ルットに何かあったら今度こそヤバいから」
「肝に銘じます」
ジョーの言う通り、また問題を起こせば今度こそ僕の立場は危なくなるだろう。
そしてジョーから離れてはいけないのにも理由がある。
本来なら、魔力の無い者は競技場の来賓席にしか来れない。
それは安全面の為で、万が一競技中に魔法の暴発が起こった際に、魔力の無い者は自分の身を守れないからだ。
「ま、俺は魔力だけはもりもりあるから、万が一があっても心配すんなよ」
「ありがとうございます。ジョーさんって凄いんですね」
ジョーは特に名産品などもない、辺ぴな村で生まれたと本人から聞いている。
それでも強い魔力を宿している事が発覚して、努力に努力を重ねてこの学園に入学許可をもらうまでに至ったのだと聞く。
実はすごい人なのだ。
「運が良かったんだよ」
「運だけじゃないです」
そんな話をしながら、観戦席にたどり着いた。
中に入ると、もう試合は始まっていて、歓声と大きな力がぶつかり合う音が響く。
僕はそれだけで圧倒されたが、そんな中でもジョーは迷いなく足を進めるので、はぐれないよう続く。
最終的にたどり着いたのは、何度か顔を合わせた事のある生徒達が集まった席だった。
「あれー、ルットじゃん」
「久しぶり! 珍しいね」
「あ、の、お久しぶりです……」
男女の混ざったこの集まりは、ジョーと同じように庶民の出の者たちだ。
僕にもたまに話しかけてくれる人達だったので、顔見知り程度だが、いちおう知り合いでもある。
まさかそんな彼らが集まっているとは思わず驚いたが、そんな僕でも快く受け入れてくれた。
「でもさぁ、ルットくん連れてきてヴァゾットレム様は怒んないの?」
「今日は大丈夫。なんたってヴァゾットレム様から託されたから」
「うっそ珍しい! なんかあった?」
「毎日なにかしらあるらしいぞー」
「そっか、大変だね……」
深くを追求しないのも彼らの優しい所だ。
空けてくれた席は、皆に囲まれる配置だった。きっとこれも優しさからだろう。
僕を不快そうにちらちら見ている生徒も少なくない。そんな視線からも守ってくれようとしているのだ。
そしてこの席から、ちょうど殿下達も見える。
斜め向かいのボックス席に、おそらく婚約者であろうご令嬢と談話しているのが見えたのだ。
その後ろには、いつものようにゴッツ様とジャッジ様が控えていた。
「あまりルットくんと話す機会も無かったもんね。今日はせっかくだからゆっくり話そうよ」
「はい、ぜひ!」
暖かく迎えられた安心感から、僕も体の力を抜いた。
ちらりほらりと彼らの話を聞くうちに、やはり実力だけでこの学園までのし上がってきた凄い人達なのだと知る。
そんな彼らは、目の前で繰り広げられる魔法について説明してくれた。
「火と風のペアが一番多いかな。相性がいいから」
「土と水のペアも面白い攻撃が出来るから人気があるんだ」
「滅多に居ないけど、雷とか氷の魔力を持った生徒は単体でも強いな」
「あれは反則級だよ」
「珍しい魔力って言えば毒なんかもあるね」
「前は気候を操る人まで居たんだってさ」
「へー」
火柱が上がったり、水の塊が相手の自由を奪ったり、かと思えば無数の泥人形が暴れ出す。
ほとんど魔法に関わってこない生活をしていた僕にとっては、まるで物語の光景だ。
勇敢な冒険者が仲間と共に様々な魔法を繰り出し、世界を平和にしていく物語。
そんな嘘のような光景を目の当たりにして、僕はただ感嘆の声を上げた。僕が今まで見ていた世界は、とてもとても狭かったようだ。
「……」
「何か聞きたい事ある?」
「い、いえ! ご説明ありがとうございました!」
「あっはっは! ルットくんかったーい!」
「ははは……」
そこで、ふと思い出した。けれど、口には出さなかった。
それは、光の魔力についてだったからだ。
妹のリットは、珍しい光の魔力を持っていた。しかし今は、話題は出すべきではないだろう。
学園でさんざんな問題をやらかし尽くした人物の話題を出すほど、僕は空気が読めなくもない。
優しい彼らだってリットから迷惑を被ったかもしれないのだから。
けれど、これだけ凄い人達の中で生活していたリットも、凄い実力を持っていたのだと思う。
まともに生活していたなら、彼女だって今頃は……
「……俺さ、リットさんに怪我を治してもらった事あんだよな」
「え!?」
まるで僕の考えを見透かしたように、ジョーがリットの話題を出し驚く。
きっと僕が分かりやす過ぎたのだろう。
分かりやすい反応を返した僕を見て、ジョーはいたずらっ子のように笑った。
「光の魔力なんて初めて見たけど、凄いのな。訓練の時にスパッと腕を切っちゃったんだけど、あっという間に治しちゃったんだぜ!」
「私も肘を擦りむいた時に治してもらったよ。その後いかに自分の魔法が凄いか熱弁されたっけなー」
「そ、それはすみません……」
「あはは! 面白い人だったよ!」
笑う彼女らは、心底楽しそうだ。
それは悪意はまったく見られず、遺恨も見られず、ただただ、思い出としてリットを語る。
「光魔法は直接的な攻撃は出来ないけど、他の属性の魔法を補助するのが得意だったらしい。威力を上げたりとか制御しやすくしたりとかな」
「だから色んな人に引っ張りだこでね、リットさんも自慢げに光魔法を披露していたのを良く見てたっけなー」
「貴重な光魔法を見せつけたかった感じはあったけどな、それでもあれだけ魔力を使うのだって相当な努力は必要だったと思う」
「そう、だったんですか……」
僕はいつの間にか、派手に繰り広げられる戦いも忘れて、彼らの話に聞き入っていた。
確かにリットは、もともとは努力を怠らない子だったんだ。
たまに調子に乗る所はあったけど、調子に乗るだけの自信を身につける子だった。
そんな彼女の性格が垣間見えて、じわりと懐かしい気持ちが広がる。
「殿下達に認めてもらおうって、あの人はあの人なりに必死だったように見えたよ。ただ、努力の方向をちょっと間違えたみたいだけどさ」
「……そうですね」
「それでも、凄い人なのは間違いないさ」
「……」
リットは、頑張っていた。
途中で道を間違えてしまったけれど、はた迷惑な努力をしていたけれど、それでも彼女なりに頑張っていた。
そんなリットの頑張りを、見ていた人はいたのだ。
「……ありがとうございます」
この学園で、リットの話題はタブーだと思っていた。
ましてや関係者である僕の口からなんて、出せるはずもなかった。
けれど彼らは笑ってリットの話をしてくれる。
そう悪い子ではなかったのだと、僕すら諦めかけていた言葉を投げかけてくれる。
「……ありがとうございます」
こんな気持ちはいつぶりだろう。
困った妹ではあったけれど、やはり嫌いになんかなれなくて、けれど最近は、リットの事を考えないようにもしていた。
だけど今は、目の前の山積みの問題でいっぱいいっぱいな僕だけれど、久しぶりに、兄妹揃っての賑やかな食事が恋しくなった。
「ありがとう……」
彼女がした事はとうてい許される物じゃない。
だけど、いつか僕らが罪滅ぼしを終えたなら、世界が僕らを許したなら、また、騒がしい食事がしたいものだ。
────────────
いつもお読みいただきありがとうございます!
話のストックが無くなったので次話から更新がゆっくり目になります。
なるべく遅れないよう頑張ります(^^)
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