好きが言えない宰相様は今日もあの子を睨んでる

キトー

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6.突然の禁止と死刑宣告?

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 * * *

 学園の一室、以前に罰を告げられた部屋と同じ場所、同じ顔ぶれで、それは突然告げられた。

「酒場での仕事は禁止……ですか?」

「そう言っています」

 ある日、僕はジャッジ様から呼び出されたのだ。
 突然の呼び出しに、緊張に緊張を重ねて足を絡ませ転けそうになりながら出向けば、そんな話だった。
 酒場での労働は問題がある、との事だ。
 以前と同じ状況だが、違う点は第二王子が中心ではなく、ジャッジ様が中心になっている事だ。
 そのジャッジ様はさらに言い募る。

「ここは古くから続く格式高い王都の学園です。あなたは学生でないとしても、関係者が酒場などに頻繁に出入りしているのはいただけませんね」

「それは……」

 ……今さらじゃないだろうか。
 僕は相変わらず座り心地の良いソファーに彼らと対面で座り、相変わらず高そうなラグに視線を落とした。

 酒場で働く際には学園から許可を取っている。
 酒を飲まない事、短時間である事、問題を起こさない事を条件に許可がおりたのだ。
 今まで決まりを破った事はない。なのに何故、今さら問題に上がってしまったのか。

「ごめんねルットくん。ジャッジがどーーーーしてもって言うからさぁ」

「ジャッジ様が……」

「……」

 美しい金髪をなびかせながら、第二王子、エドワード殿下が困り顔で言う。
 その話を聞いてエドワード殿下の隣に座るジャッジ様に視線を移せば、ふいっと顔をそらされてしまった。
 なるほど。つまり、僕のなす事すべてが気に入らないのだろう。
 だから今さら禁止なんて言い出したのだ。
 ほら見ろ妹よ。これのどこが仲良しなんだ。
 そんな事を思いながら文句の一つも言いたくなったが、僕にそんな権利は無くて、ただ黙るしかなかった。
 すると顔をそらしていたジャッジ様が、眼鏡を指で押し上げながら言葉を続けた。

「別に私は理不尽な理由であなたを止めているわけではありません。ただ……近頃酒場で不埒な輩が増えているようですね?」

「不埒な……?」

 ジャッジ様にしてははっきりしない声だが、言われた内容を聞いて否定は出来なかった。
 確かにジャッジ様の言う通り、日を追う毎に話しかけられたりボディタッチをされる頻度は増えている。
 不埒、と言われれば少し大袈裟な気もするが、高貴な方々からすれば目に余るのかもしれない。
 しかし、酒場ではあれぐらい普通の事だ。いちいち目くじらを立てていては店が成り立たない。
 だが学園から辞めるよう通知されてしまっては、もう言い訳した所で弁解など出来ないだろう。
 だが……

「……すぐに、辞めなければなりませんか?」

 どうにか制限だらけの中で働こうと仕事を探し回って、やっと置いてくれたのが今の店だった。
 初めは突っぱねられたが、職を探して右往左往していたら、今度はマスターから声をかけてくれたのだ。
 僕の話を聞いてくれて、そのまま店に置いてくれた。
 恩情をかけてもらっておいて、そんなマスターに何と詫びれば良いのか。

「他に仕事を探すのも、難しくて……」

 そして今の店を辞めたとして、他の仕事は見つかるだろうか。
 夜の仕事はただでさえ危険が多い。
 それに、自慢にもならないが、僕は見た目が男ウケするようなのだ。
 なんせ妹とそっくりなのだから、女と間違えられる事もある。
 そんな人間が無駄に夜の街をうろうろしていれば、怪しい手から物陰に引きずり込まれる危険がある。
 せっかく安全な働き場を見つけたというのに、他の場所を新たに見つけられるだろうか。
 こんな事、情けなくて相談も出来ないが。

「だったら……来月から私の元で働きなさい」

「え……、ジャッジ様の元で、ですか?」

「そうです。何度も言わせないように」

「ジャッジ、キミねぇ……」

「言い方ってもんがあるだろバカ」

 ジャッジ様の突飛な発言に呆気にとられていたら、何故かジャッジ様が叱られていた。
 エドワード殿下に護衛で黒髪のゴッツ・グラーナム様、そしてジャッジ様は幼い頃からの付き合いと聞く。
 砕けた口調で言い合う彼らは本当に仲が良いらしい。
 なんて、関係のない事を考えている場合ではなかった。
 だって今、ジャッジ様がなんだかとんでもない発言をしたじゃないか。
 やんややんやと言い争う学園のトップ達。
 口先一つで物事を動かせるほどの権力を持つ彼ら。
 そのうちの、特に僕を嫌っている人物の元で、働く?
 これはもう、死刑宣告と受け取るべきなのか。

「ルット・ミセラトルが働いていた酒場には謝礼を出しておきます。こちらの関係者を預かっていただいたわけですので。そしてこれからは私の元で働きなさい。賃金は出しましょう」

「や、でも、あの──」

「宜しいですね?」

「──……はい」

 宜しくないが、拒否権もない。
 せめてこれ以上不興を買わないように「嫌いだけど何だかんだ頑張ってたから妹ぐらいは大目に見てやるか」と言われるように。
 大丈夫、まだ道はある。
 僕はこれからさらなる茨の道となる事を覚悟して、ジャッジ様に深々と頭を下げたのだった。
 殿下とグラーナム様からジャッジ様が頭を小突かれている理由は、分からないままだった。

 
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