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番外編
ツンデレ猫は隣を譲らない
しおりを挟む「よぉリョウ。かっこいい首飾りしてるじゃないか」
「そうでしょ? 俺のお気に入りです」
ウルスの店に寄った際、ウルスから褒められて俺は鼻高々に首飾りを見せる。
七色に輝く結晶は湖に生えていた鉱石で、アムールからもらった宝物の一つ。
そして腰には真新しい薬草採取用のナイフ。これもアムールからもらった物である。
そしてなんと、今着ている服もアムールからもらった物だと気づく。俺はアムールから色々ともらいすぎではないだろうか。
ただ、一つだけもらえなかった物がある。それは……
「おいチビ。買ったなら早く行くぞ」
「はいはい」
待ちくたびれたらしいアムールに背後から声をかけられる。
俺達は今日、薬草を採りに行く。俺達、といっても採取するのは俺だけだが。アムールは主に護衛と荷物持ち要員である。
アムールが居てくれると森の奥まで入れるので良い薬草が手に入る。そして最後にはアムールのマジックバッグに入れてもらう。
そう、俺はマジックバッグだけは貰えなかったのだ。
元々俺のために置いていた物では無かったのかもしれない。当時を思い出し、高価な物なのに当たり前にもらえると思っていた自分が恥ずかしくなった。
ウルスの店で買ったドリンクを飲みほし、俺達は乗り合い馬車へと向かう。
そしていつものようにアムールに抱えられて森に入り、良さそうな場所を見つけて採取開始だ。
「ひま」
「今始めたばかりだろ」
作業開始早々にアムールが隣で愚痴をこぼす。
基本的に体を動かすのが好きなので、俺の護衛なんて退屈で仕方ないだろう。
だから俺は手を動かしながら今日も同じ話をアムールにする。
「やっぱりさ、劣化版で良いからマジックバッグ買おうか。劣化版でも薬草ぐらいなら余裕で入るしさ」
アムールが居なければ森の奥まで入れないが、付近の草原でもそれなりに薬草はある。
あとは荷物の問題だけなので、俺がマジックバッグを持つ事が出来れば問題は解決する。
そうすればアムールも退屈な俺の付き添いからも解放されるだろう。
そう思って提案したのだが、
「劣化版なんてしょうもないもん買うなっての」
「でも俺の手持ちで買えるのは劣化版ぐらいだし」
「だっせー」
「もぉ、じゃあアムールの余ってるマジックバッグ貸してよ」
「……嫌だ」
いつまでも仕舞われたままの新しいマジックバッグ。
余ってるなら貸してくれと言うが、アムールは絶対に了承しない。
なんだよ、アムールの為にも提案してるのに。
そうふてくされる俺の隣で、アムールが自分のマジックバッグに薬草を仕舞っていく。
「めんどくせー」なんて言いながら、俺の隣から離れないアムール。
俺はそっとバッグの中に手を入れかけて、止めた。
「……」
スマートフォンの猫語翻訳アプリを起動すれば、きっと予期せぬ翻訳がされているだろう。
けれど、俺は地面からアムールへ視線を移す。
「あ? 何だよ」
「……いや、いつもありがとねアムール」
「……っ、別にパートナーだから仕方なく付き合ってるだけだってのっ!」
動揺したように瞳孔が収縮する金色の瞳。けれど尻尾はごきげんにピンと立つ。
もうそれだけで、十分だよね。
「アムールが居ればマジックバッグは要らないか」
「……たく、手間のかかるパートナーだよな」
「うんホントに」
その言葉そっくり返すからな、なんて内心で思いながらも、何だかんだ楽しいから黙っておいた。
今日も俺の隣は、ツンデレ猫が場所を譲らない。
【end】
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