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38.もう一波乱ありましたとさ
しおりを挟むあれだけあからさまに避けられたのだから、普通はしばらく距離を置くとかしないだろうか。
「なぁ、サク……俺は嫌われていないのか?」
「……っ」
近づいてくる足音に、僕は咄嗟に顔を背けた。
その露骨な様子にマオの足が一瞬止まったのが分かるが、今、キミと対面するわけにはいかないんだよ。
また一歩、一歩とめげずに足を踏み出すマオ。
来るなよぉ……と念じながら、僕は顔をそらしたまま、最後にはうつむくしかなかった。
「サク、悪かった。俺はサクの優しさに甘えすぎた」
僕は目の前に来てしまったマオの足元だけを見つめ続ける。
それでも淡々と話すマオの声から、深い反省の意が伺える。
分かってる、マオもさすがにやり過ぎたと思ってくれているのだ。
だけどそんな問題じゃないんだよ。
俺がマオを避けているのはそんな問題からじゃなくて──
「──……っ!」
マオの声を聞きながら思考を迷走させていたら、不意打ちでマオと目が合い驚きで息を呑む。
マオが懺悔をするように跪いて、僕の隠していた顔を下から覗き込んできたのだ。
「サクなら受け入れてくれると、勝手な考えで俺は……──、……サク?」
赤くて、力強くて、優しい瞳が僕を見つめる。
僕の手に添えられた手は、僕より大きくて骨ばっている。
その手が、恐る恐るといったように僕の頬に伸びてきて──
「──~~ッ!!」
我に返った僕は、マオを突き飛ばしていた。
けれどマオはびくともしなくて、僕は彼から逃げるように反対を向いて、ワレを抱えたまま膝に顔を埋めた。
「えっと……サク?」
「……」
困惑したマオの声が聞こえるが、それより大きい自分の心臓の音がうるさい。
静まれー静まれーと呪文のように心で唱えるが、そんな僕にマオが追い打ちをかけてきた。
「サク」
「ひぅ……っ」
せっかく後を向いたのに、僕は背後からマオに抱きすくめられてしまったのだ。
サク、と呼ぶ声が、さっきまであれほど不安げだったくせに、今はなんだか少し嬉しそうなのが悔しい。
「……顔を、見たい」
そんな声のまま、マオが顔を見せろと強請るから僕は「無理ぃ……っ」と声を絞り出した。
「見たい」
「やだ……」
「サク、見せてほしい」
見せてなるものか、と両手で顔を覆ったが、その手をマオに取られる。
手を取られた事で背後から覗き込むマオと一瞬目が合う。僕は慌ててそらしたが、たぶんこれは、見られてしまった。
「サク……」
僕の名を呼ぶ声がとても嬉しそうなのがその証拠。
「真っ赤! 魔王さま!」
「あっ、赤くないよ!」
なんて強がったが、ワレが思わず言っちゃうぐらい僕の顔は赤いのだろう。
くそぅ、だから見られたくなかったのに。
「なぁサク?」
「な、なんだよぉ……」
「なんだよー!」
その嬉しそうな声をやめろ。さっきまであんなにしおらしかったくせに。
あとワレも復唱しなくていいから。かわいいけど。
悔しいのに、耳もとで囁かれるともっと顔が赤くなってしまって、たぶんもう隠せていない。
「なぜそんな顔をしているんだ?」
「……知らない」
「知ーらない!」
知らない。知らない。ホントに、何でだろうね。
僕にも原因不明なんだ。
べつに今更ながら育てた子供がもう子供じゃなくて立派な男になっている事に戸惑ってるとかそんなんじゃ──
「──俺を、男として意識してくれている、と……思って良いのか?」
「……」
──そんなんじゃない、と思ってたんだけれども。
力強い腕に囚われて、たくましい胸に閉じ込められると、もう誤魔化しがきかないぐらいに心臓が跳ねてしまうのだ。
チラリと横を見たら、いつになくキラキラと輝く瞳とかち合った。
これはもう、降参かなぁ……なんて思って、諦めのため息を一つ。そしてまたそっぽを向きながらも、小さく小さくうなずいたのだった。
「……っ、俺を許してくれるか?」
「……反省してるなら」
「反省! しろ!」
「サク……ッ」
「うわっ」
弾けるような声と同時に、体がふわりと浮く。
そして気づけばマオの膝の上に乗っていて、美しく笑う男が僕を見下ろしていた。
急な行動に文句を言いたかったが、嬉しそうに笑うマオの瞳にほんの少し涙が浮かんでいるのに気づいてしまい、出かかっていた言葉は声にならず消えた。
「ありがとうサク」
「……どういたしまして」
「誰よりも大事にする」
「……うん……僕も」
「ワレも!」
「うん、ワレも大事だよ」
マオが僕の手をとり甲に口づける。
紳士な振る舞いに気恥ずかしくなったが、でもずっとそんなキミを見ていたいとも思った。
そんな思いで見ていたら、マオと目が合い、自然と笑い合っていた。
なんか、絆されたのかなこれって。
だけど、幸せだなって思ってしまう。想像していた幸せとは少し違うけれど。
でも、これから続く穏やかな日常をキミと笑って過ごせたら、きっと何より誰より幸せなんじゃないだろうか。
「サク、本当にすまなかった。無理をさせた事も、体を良いように作り変えた事も……」
「……マオ」
「あぁ」
改めて謝罪をするマオ。
僕は微笑んだまま、独り言のように呟いた。
「………………──体を良いように作り変えたって何?」
「……ん?」
お互い微笑んだまま、お互いの動きが止まる。
マオの良いように僕の体を作り変えたって、何のことだ。
「……昨日、夜に話した事だが──」
「昨晩はいっぱいいっぱいであまり話が聞けてなかったから……」
ゴニョゴニョと言うマオだが、残念ながら昨晩はあまりにマオが無茶苦茶するから、話なんて聞いている余裕は無かったんだ。
「……」
「……」
それで、僕の体をどうしたって?
「──いや…………何でも無い」
「マオ、これ以上隠し事をするようなら本気で嫌いになるよ」
「……」
「マーオー」
「まーおー!」
今度はマオがそっぽを向く番だった。
僕らの穏やかな日常の前に、もう一波乱ありそうだ。
【おわり】
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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まめ様最後までお付き合いいただきありがとうございます!
完結お祝いのお言葉も嬉しいです💕
そして面白かったと言ってもらえてホントに良かった……!
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そういうのって自分では気付けないので言われると『なるほど!』ってなります✨
ただもしかしたら次回作はまた作風が戻ってるかもなのでまたウォッチャーしてみてくださいね♡
こちらこそ嬉しいコメントをありがとうございました!
まめ様コメントありがとうございます!
そんな大した謎じゃなくてすみません😂
それでも納得してもらえたなら良かったです(^^)
街の人達の命に関してもこのお話らしくて良いと言っていただけてホッとしました……
そしてワレ。
あの子はホントについでの偶然の産物です🤣
そんな偶然の子を今日も可愛いと言ってもらえて嬉しいですー💕
今日も元気にパタパタ飛んでてもらいますね!
あと少しで完結ですがどうか見守ってあげてください☺️
完結まで突っ走ります!
嬉しいコメントありがとうございました✨
ぽん様初めまして!
コメントありがとうございます(^^)
なんと!くまちさんのおすすめで!!
他の方におすすめしてもらえるなんて凄く嬉しいです😭✨
そしておすすめツイから飛んできていただきありがとうございます🙏✨
そしてそして嬉しいお言葉ばかり……
ちょっと読みにくい作品かもしれませんがそれでも楽しいと思ってもらえて良かったです!
しかも更新を楽しみにしてくださってて、もう……張り切って更新するしかないですねー💕💕
やっと確信に迫れてきた所ですが、この先も楽しんでもらえるよう執筆頑張ります😆✨
とっても嬉しいコメントありがとうございました!