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25.魔王
しおりを挟む凄い勢いで飛ばされたはずなのに、地面に叩きつけられる事もなく僕は尻もちをついただけだった。
きっとこれもマオのおかげなのだろう。
けれど、そんな僕への気づかいのせいなのかもしれない。マオはまともに真っ青な炎をくらってしまったのだ。
「マオッ!!」
一瞬にして炎に包まれるマオ。ただでさえ最悪の状況なのに、未だ繋がったままの闇から魔族が更に何かを仕掛けようとしているのが見えてしまった。
「……っ、やめ──」
「オラァッ!!」
「……ちっ」
「ヒギルマさん!」
止めろ、と叫ぼうとしたその時だった。
空からヒギルマが魔族めがけて降ってきたのだ。
どうやら僕達の知らぬ間に、城を駆け上がっていたらしい。
ヒギルマの空からの不意打ちに魔族の体勢がくずれ、マオと繋がっていた闇が切れる。
「人間風情が……少し遊んであげれば調子にのって──」
「ぐぉ……っ」
「ひっ」
しかし、魔族はすぐに立て直し、ヒギルマを忌々しげに睨みつけた。
そして苛ついた口調のまま、ヒギルマへ光の玉を放つ。空中で身動きが取れないヒギルマはそれを躱せず、まともにくらってしまった。
ヒギルマは衝撃のまま木の生い茂る森に吹き飛ばされ、ミシミシと大木の倒れる音と共に姿が見えなくなった。
「あ、あぁ……あ……──」
「ふふっ」
魔族が勝ち誇ったように笑う。
炎に苦しむマオと、攻撃をまともにくらって吹き飛ばされたヒギルマ。
戦える者がいなくなり絶望が襲う中で、ついに魔族が僕へ振り返った。
「あ……」
まだ視界には、炎に包まれもがくマオの姿。
魔王であるマオを魔族は殺しはしないだろう。けれど苦しそうな姿は見たくなくて、腰が抜けていたけれどなんとか這いつくばって寄ろうとしたが、それは失敗に終った。
マオへの道を塞ぐように、いつの間にか魔族が立っていたのだ。
「ひ……っ」
恐ろしい存在が、ついに目の前に迫ってきてしまった。
恐怖の対象に体は咄嗟に逃げの体勢になるが、腰が抜けたままの僕は、尻もちをついたまま後ずさる事しかできない。
そんな情けない僕を、魔族はゆっくりとした足取りで追い詰める。その顔には、今までにないほどの笑みを携えていた。
「く……来るな……っ」
「おや、悲しい事をおっしゃる」
くっくっと笑う魔族に迫られ、僕は尻もちをついたまま手だけで後ずさるけれど、すぐに背中が壊れかけた壁に付いてしまった。
瞳孔の開いている瞳が分かるほど魔族が間近に迫り、彼の左手が動く。
逃げ場もなく、絶望に追い詰められた僕は死を覚悟し、咄嗟に目をつぶって──
「お会いしとうございました。我等が王」
「……──っ、へ?」
──……何って?
衝撃に備えていたはずなのにいっこうに痛みは訪れず、代わりに、良く分からない単語が投げかけられた気がした。
思わずつぶっていたまぶたをそっと開くと、目の前に美しい所作で一礼する魔族の姿があった。
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