目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?

キトー

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23.魔族、再び

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 ✧ ✧ ✧


「サク・クラッソ、今日までご苦労だった。城でも陛下の元で忠勤に励んでくれ」

「は!」

 僕を雇っていた領主からの激励。
 僕はこの度、城の兵として雇われる事になったからだ。
 こんな孤児あがりでどこの馬の骨とも分からない者まで兵として雇おうとする国に、あまり良い予感はしなかった。
 それでも国の命であれば断る選択肢は無い。
 唯一僕に残された選択肢は、この国から逃げる事だけだ。
 しかし、僕にあの子を連れて国を出る勇気は無かった。
 隣国はすでにこの国との小競り合いが起きてるし、噂で聞く限り豊かな国でもないからだ。

 それに、僕には城に行く理由があったのだ。
 月光樹。城にあると噂される、幻の木。
 僕ごときがお目にかかれるとも思えないが、何か手がかりぐらいは掴めるかもしれない。
 あの子のために、あの子の未来のためにも──

「サク。サクは戦いにいくの?」

 城下町に向かう馬車で、あの子が問う。
 その声はとても小さかったが、瞳はしっかりと僕を見ていた。
 不安と心配が混じった瞳だった。

「……そうだね。みんなの安全のために戦って、終わったらまたすぐ帰ってくるよ」

「……」

 優しいあの子をこれ以上不安にさせたくなくて、なるべく僕は努めて明るく言ったつもりだ。
 けれど、あの子は賢い。これからこの国で何が起こるのか、もしかしたら僕より分かっているのかもしれない。
 けれどあの子は口をつぐんでうつむき、僕の服をぎゅっと握りしめるだけだった。

 初めてくる城下町は、元居た街よりは活気があった。
 少なくとも恐喝や強盗がはびこっているようには見えない。
 この時はまだ、あの子を連れてきて良かったと僕は思った。

「……サク」

「ごめんね。終わったらすぐ帰ってくるから、それまで元気で……」

 あの子はしばらくの間、教会に預かってもらう事になった。
 戦場に連れていくわけにもいかないから。

「僕もサクと行く!」

「……」

「僕がサクを守るからっ!」

 あの子の言葉に、僕は咄嗟に返事ができなかった。
 グッと目に力を入れたのは、泣くのを我慢しているからだ。
 寂しさと、不安と、心配。そんな思いが、あの子のまっすぐな瞳から伝わってきた。
 僕を守ると服を掴む小さな手に、自分の手を重ねた。
 小さな手はかすかに震えていた。

「“  ”にはね、僕の帰る場所であって欲しいんだよ」

 嫌だ嫌だ、行かないで。
 まだあの子の瞳は、強く強く僕に訴える。
 僕はあの子が抱えていたブリキのおもちゃに、そっと手を伸ばした。
 受け取ったおもちゃの中に、あの子の石をコロンと入れた。僕が『命の石』と名付けた、あの子が二番目に作った石だ。

「だからね、“  ”はこの子と一緒に待っててほしい」

 再び、僕はおもちゃをあの子に渡した。
 僕は最初の石を持っておくから、この石はキミが持っていて。帰ってきたら、また僕にちょうだいね。そんな、思いを込めて……。
 おもちゃを胸に抱いたあの子の瞳には涙が浮かぶ。それでも必死に泣くまいと、眉間にシワを作って耐えようとするあの子。

「それでね、僕が帰ってきたら一番に『おかえり』って言ってほしいんだ」

「……」

 あの子が涙を見せまいと頑張るから、僕は涙が見える前に抱きしめた。
 胸にとじこめた小さな体は震え、次第に、嗚咽が溢れ始めた。

「必ず戻るから」

 何が正解か分からない。自分の行動が正しい自信も無い。
 僕はあの子を幸せにできただろうか。僕と居る事が、あの子の幸せになっただろうか。僕はあの子の幸せを守れただろうか。
 これから先の幸せを、僕が見守れるだろうか。

 今、言いたい事はたくさんあった。
 けれど、僕は一度口をつぐみ、自分勝手な願いを飲み込んだ。

「……帰ったらまた、凄い石をたくさん作ってみせてね……」

 絶対なんてない未来を約束して。
 ただただ、あの子の安全と幸せだけを願い、僕は小さな体から身を離したのだった。

 愛してるよ、僕の大切な“  ”──


 ────……

「……──く……、サク」

「……へ?」

 何度も名を呼ばれている事に気づき、僕の意識は浮上する。
 まずマオの心配そうな顔が見えて、次に壊れたレンガが見えた。

「……あ!」

 そうだ。そうだった。
 ヒギルマから危機的状況である魔伝が来て慌てて帰ってきたんだった。
 なのに寝てしまうなんてどうかしているが、寝ていた、というより気絶していたんだ。
 本気を出したマオの急発進急降下に、やはりついていけなかったらしい。
 でも気絶してて良かったかもしれない。じゃないとトラウマになっていたかもしれないから。

「ひ、ヒギルマさんは──っ!?」

 状況を思い出して、今すぐにでもヒギルマの元に行こうとした時だ。

「うわ……っ!?」

 どこからか爆発音が聞こえ、僕は思わず首をすくめる。続くように大小の破壊音が聞こえてくる。
 ついでに、少し焦げ臭い匂いが漂っている事にも気づいてしまった。

「……っ、マオ!」

「行くのか?」

「行きます! マオもここが壊されたら困るでしょ!? お願いなので一緒に来てください……っ!」

 マオにとっては、心底どうでもいいのだろう。
 けれど僕にとって、ヒギルマはもう友人だ。黙って見過ごせるはずもない。
 とは言え、マオと一緒じゃなければおそらく行っても邪魔になるだけだ。
 だからマオを頼るしかないのだが、マオは僕が「お願い」と言うと、分かりやすく嬉しそうにした。
 マオは僕を抱えなおし、黒い何かを駆使してあっという間に城の壁を登る。
 そして煙の上がる場所を確認したと思ったら、ものすごい重力に襲われて、気づいたらヒギルマの元まで来ていた。

「ヒギルマさん!」

「おまっ、来んなっつっただろ! コイツヤバいぞ!」

 僕の姿に驚いたヒギルマだが、構えた剣は下ろさない。
 ヒギルマが対峙していたのは、恐ろしいほど美しい魔族だった。
 銀髪の魔族が薄ら笑いを浮かべて、空からヒギルマを見下ろしていたのだ。
 そして、僕を抱えるマオに視線をゆっくりと移し、薄い唇に弧を描いた。

 
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