この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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番外編

デート(アリス✕ルイ)

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 本日僕は、ルイとデートだ。
 もう一度言おう。ルイとデートだ。

「ふ、ふふふ……」

 駄目だ。待っているこの時間も顔がニヤけて仕方ない。
 ルイが来るまでには引き締めなくては……。

「あっ、アリスー」

「ルイ!」

 そう思っていたのに、ルイの声が聞こえたら更にデレっとだらしない顔になってしまった。
 だって仕方ないじゃないか。見ろあのエンジェルスマイルを!
 僕を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくる可愛すぎる姿を!
 現にルイのエンジェルスマイルの流れ弾で通行人が数名心肺停止している。
 僕も免疫が無かったら危なかっただろう。

「ごめん待たせた?」

「んーん、僕も今来たとこ!」

 無邪気なふりをしてルイに抱きつく。
 僕のルックスだから出来る事である。他の野郎がしたら通報される。
 うん、ルイは今日も女神の香りがするね。
 ルイも僕を抱きしめ返してくれた。幸せ。

「それで、アリスが行きたい店ってどこ?」

「すぐそこだよ。パンケーキが有名なとこ」

「パンケーキ!?」

 ルイの瞳がキラキラ輝く。可愛い。
 数日前にルイが真剣な顔してパンケーキを紹介する番組を見てたんだ。
「食べたいの?」って聞いたら「いや別に……」と答えたが、あれは絶対食べたい顔だ。
 ただ、何やらパンケーキは女のコが食べる物だと思っているようで言い出せなかったのだろう。
 そんな見栄をはる所も可愛い。

「じゃあ行こうかルイ」

「う、うん!」

 期待に満ちた目で僕を見ながら手を繋いでくれる。
 僕が毎回繋ぐから最近はルイから当たり前に繋いでくれるようになった。
 猫野からは心底羨ましそうにされている。そんな猫野に僕は毎回ドヤ顔をする。
 今日は二人っきりだから後でラインで自慢しよう。

「ここ? すっごい混んでるね」

「人気店だからねー。でも予約してるから大丈夫! 入ろっかルイ」

 ルイの手を引いて店員に名前を伝えれば、予約席に案内される。
 まだ外食に慣れないルイはキョロキョロと興味深げに店内を見渡す。
 しかし注目されている事に気づいて慌てて恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。
 そんな仕草も可愛い。全部動画に撮っておきたい。
 しかし、せっかく生のルイが目の前に居るのに画面越しに見るなんて勿体ないので、一切目を背けずに脳裏に焼き付ける。

「アリス? どうかした?」

「ん、可愛いなって思って」

「へ? あ、ごめん俺はしゃぎ過ぎだよね……」

 ルイは僕がお上りさんみたいな自分を微笑ましく見ていると思ったようで、更に顔を赤くする。
 違う、僕はそんな母親的目線で言っているんじゃ無いんだ。
 そしてルイに見惚れてる有象無象はいい加減我に返ってくれないかな。ルイが居心地悪そうにしてるだろ。
 店員も早く注文取りに来い。じゃんけんしてる場合か。

「おまたせしましたー! ご注文をどうぞ!」

 じゃんけんの勝者らしい若い女の店員がやっと注文を取りに来た。
 僕はフルーツの乗った一番人気のパンケーキを注文し、ルイに一緒に食べようと提案する。

「ここのパンケーキおっきいからさ、二人で半分こにしようよ」

「うん!」

 ルイは、何かを誰かとシェアするのが好きだ。
 気の狂った信者のせいで今まで誰かと過ごす事を制限されていたルイ。
 だから誰かと何かを一緒に、という行為に憧れていたようで、とても喜んでくれるんだ。

「うわすご……っ、こんなおっきいの!?」

 出てきたクリーム山盛りパンケーキにルイが驚く。僕も驚く。前来た時はクリーム半分ぐらいだったぞ。ルイ効果か。なんかフルーツも多いな。

「……とりあえず食べよっか!」

 まぁ、サービスされる分には文句は無いので有り難くいただこう。
 皿に取り分けずに一つの皿から二人で食べた。
 パンケーキとクリームを上手くフォークに乗せられないルイかわりに、僕が黄金比でフォークに乗せてアーンしてあげる。
 少し恥ずかしそうにしながらも口を開けたルイは、幸せそうにパンケーキを頬張る。
 あー可愛い。わざとほっぺにクリーム付けて舐めちゃおっかなぁ。

「アリス、口の横にクリーム付いてるよ」

「え、どこ?」

 ここ、と言ってルイが僕に手を伸ばし、僕の口の横に付いていたクリームを親指で拭ってくれた。
 そして、その指をぺろりと舐める。

「……ホテルいく?」

「は? ホテル?」

「んーんっ! 何でも無いよ!」

 やっばい! めっちゃ色っぽかったよ今のルイ!
 危険だよ! 見ろ、周りがみんなフォークやスプーン落として固まっちゃったじゃないか。
 早く店を出よう。なんか女の人までルイを見る視線が怖い。
 女性客ばかりの店だから安心してたがこれは駄目だ。
 僕は美味しそうにパンケーキを食べるルイを楽しみたい気持ちと、早く出なければという気持ちでやや挙動不審になってしまった。

 さて、お次はカラオケだ。
 カラオケ、個室で二人きり。いい響きである。
 受付の間、ルイには階段のかげのベンチで待っておいてもらった。
 用意していた帽子を深くかぶらせておく。
 だって受付にルイを見せたら、店員が何だかんだ理由をつけて部屋に無駄に入って来そうじゃないか。
 せっかくの二人きりなのにそんな事をされたらウザったくて仕方ない。

「ルイー、おまたせ。部屋は3階の……」

 ウッキウキでルイの元に戻った僕は、見事に気分が急降下した。

「……は? 何でいんだよお前ら……」

 口が悪くなったのも無理はないだろ。ホント、何でいんだよ猫野に帽子野。

「おかえりアリス。なんかチエと先生も偶然近くに居たんだって!」

 幸いにも僕の呟きは聞こえて居なかったようで、ルイは無邪気な笑顔を僕に返す。
 偶然、ね……。

「おい猫野。何でここが分かったわけ?」

 猫野と帽子野に詰め寄り問いただす。すると帽子野がスマホを取り出した。

「GPSなんて無くてもな、木戸の居場所は一目瞭然なんだよ夢野」

 そう言って見せてきた画面はSNS。今日の僕らを隠し撮りしたような写真がずらりと並ぶ。

「天使とか女神で検索したらすっげー出てくんだよ。隠し撮りは褒められたもんじゃねぇけどさ、ルイほど綺麗な子を見たら写真撮りたくなる気持ちも分かるよなー」

 ぬかった。そりゃそうだ。
 信者が出来るほどのルイを街に出せば、周りがほっとくわけが無いのだ。
 歯ぎしりしながらも皆でカラオケが出来ると期待に満ちたルイの瞳を裏切る事は出来ず、仕方なく受付で人数を変更した。
 請求は帽子野にするとして、パーティーセット盛りも注文しておいた。
 わざと照明を薄暗くした個室でルイと二人っきり、とはならず、明るくした部屋で四人でワイワイと騒ぐ。
 実に楽しそうにしているルイを何とも言えない目で見て、まぁ楽しそうだから良いかとこっそりため息を吐いた。

「ちょっとドリンクバー行ってくる」

 そう言って席を立ったルイ。僕はそっと後に続く。
 オレンジジュースのボタンを押してグラスにそそがれるのをじっと見ていたルイ。その背後から僕はそっと抱きついてみた。

「うわっ、アリス!? びっくりしたー」

「ふふ、びっくりさせちゃった」

 いたずらっ子みたいに笑えばルイも笑ってくれる。
 でもね、僕が見たい顔はそれじゃないんだ。
 チュッ……っと、笑っていたルイの頬にわざと音をたてて口づけた。

「……ん?」

 突然の事に何があったのか分かってないルイ。そんなルイにまた僕は笑みを返してそっと耳元で囁く。

「ねぇルイ……今度は二人っきりで来ようね……」

 漆黒の瞳が見開かれたのを確認して、最後にまた頬へとキスを送ってルイから離れた。

「は、え? あの……アリス?」

 焦ったような声を出すルイにちょっとだけ振り返れば、顔を真っ赤にしたルイが僕を見ていた。
 その様子に満足して、僕は部屋に戻る。

 ねぇルイ。次はどこに行こうか。
 可愛くて綺麗で優しい君を独り占めするのは簡単じゃないけれど、僕は諦める気は無いよ。
 もっともっと僕の事を意識させてあげる。
 だから、覚悟しておいてね。

 部屋に戻ったルイは、僕と目が合うと慌ててそらしてうつむく。
 顔をそらしていても真っ赤な耳は隠せていない。そんなルイに、僕はほそく微笑んだ。

【End】
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