この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

文字の大きさ
上 下
113 / 119

19.ここからまた始まる

しおりを挟む
 
「……」

「……」

 沈黙が続くが、俺は言いたい事は全部言った。
 だから先輩の出方を伺っていたら、ポカンと間抜け面をした先輩がいつもの様に眉間にシワを寄せたから、ようやく立て直したようだ。

「付き合ってなかったら俺たちは何なんだ!?」

 立て直してさっそく怒鳴る先輩だが、その質問に名前をつけるとしたら、

「あの、せ……セフレかなって……」

 だと思うのだが、俺の答えに先輩は絶句した。

「セフ……っ、何でだよっ!?」

「だ、だって! 友達だからする事なんだって言ってたし……」

「ダチ同士でンな事するか!」

「アンタが言ったんでしょうがっ!!」

 俺は何で怒られているんだ。怒るのはこっちの方だろ。
 俺だって友達同士のスキンシップにしては濃すぎると思ったさ。
 でもあれは全部先輩の嘘だったのか。
 俺は考えて悩んでセフレって考えに辿り着いたってのに、それに、それに……

「そ、それにっ! 俺は……先輩から好きだなんて聞いてない……し」

 そうだよ、俺は先輩から好意を伝えられた事なんか一度もない。
 だから言ってやったら先輩は歯ぎしりしながらまた俺の肩口に顔を埋めた。

「ンなの……見りゃ分かんだろっ」

「分かりませんよ! 嘘つきの先輩の考える事なんか……」

 くぐもった声で分かれよと俺に言うが、俺がこの世界に生まれて何年ボッチだったと思ってるんだ。
 言葉にしてもらわないと分かるわけ無いだろ。

「~~っ、好きだ!!」

「ひえっ!?」

 言葉に、されてしまった。
 心のどこかで期待していた言葉をこうも突然言われると、どう対処して良いのか分からなくなって変な叫び声しか出なかった。
 そんな俺を置いて、更に先輩はまくし立てる。

「顔が好きだ! 一目惚れだ! めちゃくちゃ可愛いと思ってる!」

「はぇ!? あのっ、えぇ!?」

「腕の中に納まる小せえ体も好きだ! めちゃくちゃ押し倒したくなる!」

「え、えっ、待ってちょっと……!」

「俺の前だけコロコロ変わる表情も好きだ! 俺が笑わせてぇし泣かせてぇ! ちょっと高めの澄んだ声も好きだ! ずっと聞いていたい! 不良の俺に勉強を教えようとするお人好しすぎる性格も好きだ! 俺がわがまま言っても何だかんだ受け入れてくれる所も全部好きだ!」

「待って先輩! 分かったから! 分かりましたからっ!!」

「ちょろ過ぎる所もたまに不安になるが何だかんだ目が離せなくて好きだ!」

「ちょろ……!? な、なんだとぉ!」

「だから……!」

 バカにしてるのかって事まで混ざりながらまくし立てた先輩が、今までにないほど強い視線で俺を捕えたもんだから、俺は知らずに息を呑む。

「俺と! 付き合え…………鈍感野郎っ……」

 じっと見据えたまま発せられた声は、先程の威勢はどうしたのか、だんだんと小さくなっていった。いつもの自信に溢れた先輩の面影も無く、揺れる瞳が俺を見据える。
 もぉ、もぉなんだよホントに。
 今まで俺を騙してきたくせに。好き勝手してきたくせに。
 俺の気も知らないでそんな顔で俺を見ないでよ。
 捨てられた子犬が必死で追いかけて来たみたいな顔するなよ。
 なんだよもぉ。
 しょうがないから拾ってあげるよ。しょうがないから絆されてやるよ。
 なんか知らないけど涙が出てきたけど、なんか知らないけどさっきみたいに悲しい涙じゃないからほっといた。

「おれも……好き、です……」

 言った途端塞がれた唇は少ししょっぱくて、俺が良いって言うまでキスしないんじゃなかったのかよって思ったけど、自然と俺の腕は先輩の背中に回っていた。
 
しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...