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16.文化祭の打ち上げ
しおりを挟む「文化祭の打ち上げ行くひとー!」
放課後、突然クラスメートの一人が教室で文化祭の打ち上げをしようと言い出した。
ノリと勢いで生きている男子高校生は前もって打ち上げを企画する発想は無かったようだ。
「俺行くー」
「俺は部活あるからパス」
「どこで打ち上げすんだ?」
「ファミレスで良いじゃん」
各々で盛り上がっているのを定位置となっていた教室の隅で眺めていたが、ふと気づく。
これは俺も参加の可否を問われるのではないかと。
以前の自分であれば迷う事なく不参加だった。
嫌われ者の俺が参加したら周りの迷惑になるし嫌がられるだろうと思っていたから。
だが、今の俺は嫌われている訳では無いと分かっている。
それに今は夢野や猫野と言う友人も出来たし、最近ではクラスメートも声をかけてくれる事も多くなった。
参加、しても良いのではないか?
そう思うと、物凄く気持ちが高揚するのが分かった。
皆で作り上げた文化祭の思い出を打ち上げで語り合うなんて口実の元でただ皆で集まって騒ぎたいだけの行事。
だけど俺はいつも、自分には関係ないのだと言い聞かせて視界に入れないようにしていた。
そんな羨ましくも諦めていた行事に、参加できる?
「お、俺も……っ」
高鳴る胸の勢いに任せて手を上げようとして、止まる。
長年人から避けられていた経験が手を上げることを躊躇させたのだ。
嫌われている訳ではないと頭では理解していても、つい嫌な考えが頭をよぎってしまう。
だって、もし嫌な顔をされたら? 顔には出さなくても本当は迷惑がられていたら?
上げかけていた手をそっと机の裏に隠そうとした時、明るい声が俺を呼んだ。
「ルーイちゃん!」
「チエ……」
俺が声の主へ振り向けば、猫野が太陽みたいに明るく笑いながら俺に近づいてきた。
「ルイちゃんも当然行くっしょ?」
「え、えっと俺は……」
「何か用事あんの?」
「いやそう言う訳じゃないけど」
「じゃあ一緒に参加けってーいっ!」
猫野が声高々に言うと教室がざわめいたように見えたのは気のせいだろうか。
何はともあれ、俺の願いは猫野に引っ張られる形で叶ったのだった。
「そう言えばチエは部活行かなくていいの?」
「姫を守る大義名分があるから大丈夫!」
「へー……」
後日に猫野は先輩達にしばき倒されたらしい。
※ ※ ※
初めて参加した打ち上げは楽しかった。
本当に楽しかった。
始めは文化祭の話で盛り上がって、次第にゲームや漫画の話とか、好きなタイプの話とか文化祭とは全然関係ない話題になって、最後の方は先生達のあだ名で盛り上がっていた。
クラスメートのほとんどが参加して、よく見たら部活があるからと断っていた生徒までなぜか参加していた。夢野効果だろうか。
とにかく大勢で盛り上がる中に自分も入れた事が嬉しくて、俺はずっと笑っていたと思う。
俺の両隣は夢野と猫野がずっと居てくれて、そのせいか他のクラスメートが代るがわる話しかけてきたからいつもより多くの子と話せたと思う。
緊張したけれど、本当に楽しかったんだ。
そんな楽しくて嬉しくて高揚した気分のままに寮へと戻る。
「じゃあねルイ」
「ルイちゃんお疲れー」
「うん、二人ともまた月曜日ね」
二人と別れても楽しかった打ち上げの思い出は消えず、鼻歌を歌いながら自分の部屋に向かい、
「え……」
足と鼻歌が止まる。
「……よぉ、遅かったな」
そこには何故か、白伊先輩が腕組をしてドアに寄りかかって俺の帰りを待っていた。
「先輩……?」
そして、その瞳は怒りを隠そうともせずに俺を見据えていた。
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