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15.チビからの交渉
しおりを挟む俺、白伊ナイトは今、交渉を持ちかけられている。
文化祭を終えて数日、後始末も済みお祭り気分も落ちついて平凡な日常を取り戻しつつあるこの日に、とあるチビから話を受けた。
「写真を交換しませんか?」
チビの狙いは十中八九、この前文化祭で俺が撮った写真だろう。
メイド服、猫耳姿のルイ。破壊的な可愛さがつまったこの写真をそうそう簡単に渡すつもりは無い。
しかし、ヤツは交換しないかと言ってきた。つまり俺が持っていないルイの写真を交渉材料にしている訳である。
だからとりあえず俺は一旦交渉に耳を傾けたのだ。
簡単に渡すつもりは無いが、俺の知らない写真は確認してやろう。まぁ、この写真を渡すかは別だがな。
「お久しぶりです白伊先輩」
胡散臭い笑顔を貼っつけたチビこと夢野アリスが俺の教室に顔を出した。
上級生のクラスに臆する事なく堂々とした態度で先輩を呼び出すコイツはやはりくせ者だ。
「さっさと写真を見せろ。半端な写真じゃ交換には応じないぞ」
こいつと仲良しこよしするつもりは無いから余計な言葉は無くして要件だけを言う。
そんな俺にチビは笑顔を崩さず「まずは場所を変えましょう」とだけ言って共にあまり生徒が使わない階段まで移動した。
「まずは文化祭で撮ってた写真を見せてくださいよ」
「お前から見せろ。どうせお目当ては猫耳メイドのルイだろ? それと交換するに値する写真かどうかは俺が見極める」
「……ちっ」
おいこいつ舌打ちしたぞ。
こんなヤツを天使だと言うルイは見る目がないのかルイの前ではよっぽど猫を被っているのか……おそらく両方なんだろうな。
そんなチビが渋々出したスマートフォンに映し出された写真に、俺は目がくぎ付けになる。
「……」
「可愛いでしょ?」
「どこで撮ったんだこんなもん」
見せられた写真は、大きめのパーカーだけを着て生足を惜しげもなく晒したものだった。
恥ずかしげにパーカーを下に引っ張り足を隠そうとするルイの表情がまた良い。下半身にグッとくる。
「言っときますけどそれちゃんと下履いてますからね。短いからパーカーで隠れてるけど」
「よし交換するぞ」
「交渉成立ですね」
いそいそと交換する中で互いに他の写真にも目が移り結局連絡先を交換して数枚の写真を送り合った。
なかなかいい写真持ってんじゃねえか。
馴れ合うつもりは無いが今後ルイの情報を知る分には使えるだろう。
「予想以上にルイの写真を持ってて驚きましたよ。まぁ今後は僕の方がたくさん撮りますけどね」
写真を整理しながら、突然チビがそんなマウントを取ってきた。
おそらくルイの部屋で撮った写真を見て敵意を抱いたのだろう、笑顔をくずさないまま鋭い視線を俺に送ってくる。
だが、俺はそんな宣戦布告を鼻で笑い飛ばしてやった。
「悪いな、ルイはもう俺のもんなんだよ。お前らが入り込む隙はねぇ」
すでに俺とルイは恋人同士である事を勝ち誇った顔で打ち明けると、チビは少し驚いた顔をしたが、少し考える素振りを見せてニヤリと笑う。
「そう思ってるのは先輩だけだったりして……」
「あ?」
てっきり怒り狂うかと思ったのに、その顔は余裕があって拍子抜けする。
「僕の教室の前にルイの答えがありますよ」
そう言い残し去っていくチビを見ながら、何を戯言を……と思うが何故か胸中がザワつく。
馬鹿らしい、ただの負け犬の遠吠えだろう。
そう自分に言い聞かせようとしてもチビの言葉がこびりついて離れない。
俺とルイの仲に他の奴らが付け入る隙は無いはずだ。なのに、あいつの勝ち誇った顔はいったい何なんだ。
考えても答えは出ず、胸のザワつきは強くなるだけだった。
「くそ……」
忌々しいチビの言葉に従うのは癪だが、ルイの事となれば確認しない訳にはいかない。
嫌々ながら放課後に一年の教室へ足を向けると、もうすでにルイは帰っていた。
そして教室前の廊下に張り出された数枚の紙を見て、チビの言っていた物がこれだと悟る。
「メイドに質問……ね」
メイド役の生徒への質問と銘打っているが、そのほとんどはルイ個人に向けられた質問だろう。
好きな動物は犬、好きな食べ物は炭酸飲料以外ならなんでも、などなど無難な答えを書いている質問用紙を読み進めていって、最後の質問で目を見開く。
「……っンだよこれ…………」
最後に書かれた質問はとてもわかりやすいものだった。
そして、ルイの回答もとても簡潔で分かりやすい。
「どういう事だよ……っ」
俺は紙を破り取り、あいつの元へと駆け出した。
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