この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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13.ルイへのアプローチ方法を変えてみた

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 ルイは僕を可愛いと思っている。
 確かに自分は男らしい顔をしていないし、どちらかと言えば可愛い部類に入るのだと自覚はしている。
 本当はかっこいいと思われたかったが、ルイが僕を天使のように優しくて可愛いと思ってくれている事には悪い気はしない。
 だからアプローチ方法を少し変えてみようかと考えていたのだ。

 メイド服を着た僕を女と間違えた間抜け二人組が話しかけてきた。
 いつもなら軽くあしらうのだが、その時にルイの気配を感じた。
 ルイの周りは空気が変わるからとても分かりやすいのだ。妙に静まり返ると言うか人の流れが変わると言うか、皆がルイに惹かれて見惚れるからだろう。
 とにかく近くにルイが居る事を察知した僕はわざと困った顔をして絡まれてやった。

「あの……すみません、友達が待ってるんで……」

「じゃあお友達も一緒に遊ぼうよ! ちょうど二対二になってちょうどいいじゃん」

「でも……」

 か弱いふりをしてオロオロしたら間抜け二人は調子に乗って更に詰め寄って来る。
 その様子に僕は内心でニヤリと笑った。
 今の僕はさながら可愛くてか弱い、思わず守りたくなるお姫様だろう。
 そしてルイは、女神のような見た目に反して男らしく守りたい欲求があるように思える。
 需要と供給。きっとルイはほっとけないはずだ。

 その後は「怖かった~」なんて言って抱きつくもよし、怖がるふりして落ち着く場所に行きたいからと言って個室に連れこむもよし、完璧じゃないか。
 さぁルイ! 準備は万端だよ! いつでも僕の王子様になってくれて良いんだよ!
 と待つ僕に声をかけてきたのは、見知った顔の人物だった。

「なぁにやってんだ?」

「…………てめぇじゃねぇよ」

「へぁ!?」

「え? え?」

 現れたのは、学年最下位不良野郎。もとい白伊ナイト。
 何がナイトだ。チンピラの間違いだろう。

「あ、えと、お友達? 邪魔してごめんね!」

 思わず出てしまった地を這うような声にびびった間抜け二人組はすぐに退散してしまった。さっきまであんなにイキってたのに心が折れるの早すぎないか。

「……邪魔しないでもらえますぅ?」

「助けてやったのにずいぶんな言い草じゃねえか」

 そう言う白伊が俺に向ける視線は、誰かを助けようとする人のものでは無い。
 明らかに敵意を含んでいて、先程の間抜け達のほうがまだ優しい目をしていた。最後のほうは泣きそうだったが。
 小さく舌打ちしてそっぽを向くと、遠くでこちらを見ているルイに気づいた。

「ルイ!」

 どこかぼーっとしていたルイに駆け寄りそのままの勢いで抱きつくと、ルイは驚いたようだが僕を優しく抱きしめ返してくれる。可愛いなぁ。

「あの、アリス……大丈夫だった? ごめんねすぐに行けなくて」

 よしよしと慰めるように僕の頭を撫でるルイの優しさに癒やされる。

「大丈夫……ルイが来てくれたから安心したよ」

 背後に白伊が来ている気配があったが、わざと見せつけるようにルイに甘えてやった。これはアンタには出来ない芸当だろう。
 少し予定は狂ったがルイに僕のか弱さをアピールは出来たし甘える口実は出来たし上出来と言える。

 いつまでもルイに抱きつく僕を邪魔するかと思ったが、白伊は大人しくしていたのでそのままでいたら、何やらごそごそしている気配があった。

「うわっ、ちょっと先輩っ! 何でそんなもん持ち歩いてるんですかっ!?」

「え何っ!? どうかしうわぁぁあっっ!!」

 ルイの突然の慌てた声にびっくりして顔をあげると衝撃的な光景が視界に飛び込んできた。
 ルイが、ルイが猫耳つけてる! 何だコレ可愛い!

「ちょっとアリスっ!?」

 僕を抱きしめていた手を離して慌てて猫耳を取ろうとするルイの腕を、反射的に掴んで阻止する自分がいた。
 何てことしてくれてんだ白伊この野郎可愛すぎるだろこれ!
 猫耳メイドルイとか周りのコバエどもが悶絶通り越して魂抜けてるじゃんか大惨事だぞどうすんだくそう可愛い!
 言葉も出せずただただルイの姿を脳裏に焼き付ける僕の背後でパシャパシャと連写音が聞こえてきて、我に返り慌てて猫耳を取り払った。
 ついでに預かっていたウィッグとメガネを装着させ深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
 危ない、僕も昇天する所だった。猫野だったらものの数秒で昇天していた事だろう。

「……とりあえず戻ろっかルイ」

 ルイの手を取り屍の間をすり抜けて教室に向かう。
 白伊はルイの猫耳メイド姿に満足したのか黙って僕達を見送るが、今日白伊が撮った写真は何としても手に入れようと心に誓った。
 
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