この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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12.イベント発生中!?

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「ねぇねぇ、たこ焼き一口ちょーだい」

「良いよ。たくさんもらったからアリスもたくさん食べてよ」

 夢野のおかげでサービスしてもらえたのだから夢野にもたくさん食べて欲しい。
 猫野には半分残しておけば良いだろうか。

「あーんしてほしいな」

「はいはい、あーん」

 夢野にあーんして食べさせて、今度は夢野からあーんされて、何故か食べさせ合うのが当たり前みたいになっているが周りからの視線が痛い。
 いくら学園の姫が居るからってみんな見すぎだろ。これが有名税と言うやつなのか。

「それにしてもチエ遅いな」

「その内帰ってくるでしょ。それよりルイ喉乾かない? 僕何か買ってくるよ」

「俺も一緒に行くよ」

「ううん、ルイはここで待ってて。でもその間これは外しておこうか」

「えっ!?」

 そう言って夢野が俺に手を伸ばしたと思ったら、おさげのウィッグとメガネを外されてしまい焦った。
 素のままでのメイド服姿なんて恥ずかしすぎるから返してくれと懇願するが、非情にも夢野が返してくれる事は無かった。

「この格好は恥ずかしすぎるんだけど!?」

「大丈夫だよ! この方が雑魚は寄って来ないからさ」

「雑魚って何!?」

 謎の言葉を言い残し行ってしまった夢野を愕然と見送り、気がつけば妙な姿でポツリと一人。
 心なしか先程より周りから距離を置かれている気がする。
 そして、一定の距離を保って人が集まっているように見えるのは気のせいだろうか。
 話しかけてくる人はいないが、皆横目でわりと分かりやすく見てきて辛い。
 珍獣になった気分で固まっていたが、五分もしないうちに我慢出来なくなって立ち上がった。

「……アリスのトコ行こ……」

 ここで待っていろと言われたがこの視線の渦の中心にいつまでも居るのは辛すぎる。
 前から遠くからチラチラ見られる事は多かったが、今日はいつもの比でないのだ。
 嫌われている訳ではないと分かった今でも、今日のこの視線は絶対に妙な珍獣を見る目だと思う。
 いつもならチラチラと見るだけなのに、今日は立ち止まって凝視されているからだ。

 俺が立ち上がって移動したら集まっていた人の輪もモーセの海割りのように割れて道が出来た。
 面白いを通り越して少し怖い。
 しかし気にして立ち止まったらただただ気まずいだけだからとにかく足を動かす。視線は一点を見つめ無表情を貫いて。
 とにかく夢野。夢野のそばに行けば安心出来る。
 猫野がいつ帰ってくるか分からない今は夢野のそばが一番だ。

 夢野が向かったであろうジュースが売られている屋台に向かう途中で、見覚えのあるメイド服が視界に写る。
 二つのジュースを手に持った人物はやはり夢野で、どうやら俺の所に戻る途中だったらしい。
 そんな夢野の行く手を阻む男二人……。

「……これって」

 イベントじゃないのか!?
 私服を着た他校の生徒らしい男二人が夢野に詰め寄りニヤニヤしながら何かを話していて、夢野は困ったように笑っている。
 姉がしていたゲームのワンシーンそっくりで、これは間違いなくイベント発生中だと思う。
 良かったあのまま待っていないで。危うく見逃す所だった。

 本当は今すぐ助けに行きたいが、俺が出てしまうとせっかく夢野とメインキャラクターの信頼関係が深まるチャンスを潰してしまう事になるので、グッと我慢する。
 もし危なくなったらすぐに出ていけるように彼らに気付かれないように出来るだけ近づいて、様子をうかがった。

 誰が夢野を助けるのだろうか。
 一番可能性があるのは猫野だと思うが、帽子野先生や白伊先輩の可能性だって捨て切れない。
 流石に兎月生徒会長は無いとは思うが、それでも可能性はゼロではないだろう。

 胸に期待と不安を抱きながら行方を見守るがなかなか現れないメインキャラクターに焦れて、やはり自分が助けに行こうかと考えた俺の視界に、夢野に近づく見知った人物を捉えた。
 
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