この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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9.笑顔で祝福できるだろうか

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 ──パシャッ

 俺の斜め後ろぐらいの位置だろうか。
 スマートフォンの撮影音が聞こえた気がして振り返ると、先ほどまでお客さんの対応をしていたはずの夢野と猫野がなぜかそこに居た。

「いやぁねぇ~、うちはお触りと無断の撮影は禁止よ~ん」

「撮影をご希望の方はあちらのスペシャルメイドさんセット(撮影抽選チケット付)をご注文くださいね! だからさっさとそのデータ渡せ……」

「ひぃっ……!!」

「ちょっ……ちょっと二人とも!?」

 夢野の笑っているようで笑っていない目と、でかい体をくねくねと動かす裏声の猫野が怖すぎて俺もドン引く。
 いや確かに隠し撮りは駄目だけどそこまでしなくても。
 そしてもしかして俺が撮られていたのだろうか。こんな姿をSNSなんかにあげられたら恥ずかしくて死ぬぞ。面白半分に撮らないでほしい。

「木戸くん、ケチャップよろしく。『大スキ』だって」

「あ、うん。了解」

 俺が二人の成り行きを見守っていたらクラスメートから声をかけられ裏に回る。オムライスにケチャップで『大スキ』と書くためだ。
 こんなサービス買う人いるのだろうかと思っていたがけっこう居た。けっこうどころか大勢居た。
 「『♡』描いてください!」「『ケンジ♡』でお願いします!」「ネコちゃん描いて『出来たにゃん』って可愛く言ってください!」「そんなサービスはありません」「サインして握手してください!」「そんなサービスねぇっつってんだろ!」

 何か困った事を要望されるとすかさずクラスメートが出てきて対応してくれる。
 とにかく客の所に行く際は必ずクラスメートの誰かが付いてきて、からかってくる客が居たら間に入って離してくれるのだ。
 面倒くさいだろうから自分で対応しようかと提案したが、切りが無いし接客に集中して欲しいからこちらに任せて欲しいと言われた。
 確かに、夢野が客寄せで猫野が盛り上げ役で、俺はケチャップ要員だろうからその他の対応は別の人がやったほうが効率が良いのだろう。

「ね、ねぇキミさ……連絡先とか──」

「あー……すみませんそう言うのは──」

「はい木戸くん次のテーブル行こうか!」

「お客様デザートもご一緒にいかがですか?」

「個人的なやり取りは一切お断りさせていただいておりまーす!」

「!?」

 そんなに大勢で出てこなくても良いと思うよクラスメート達!
 あとこれぐらいなら俺一人でもちゃんと断れるからね!?

 なんてやり取りをしていたら交代の時間になった。
 俺や夢野や猫野はフリーになる為に、一緒に文化祭を見て回る約束をしている。
 つまり、その時間にイベントが起こるはずなのだ。
 メイド服を着替える時間がもったいないからそのままの姿で見て回っていたら女の子と勘違いした他校からしつこくナンパされてメインキャラクターから助けてもらう、確かそんなイベントだったはずである。
 少し違うのは猫野も何故かメイド服を着ている事と、俺も一緒に行動している事があげられるが、まぁ些細な誤差だろう。

「……あ」

「ん? どーしたのルイ」

「えっ、あ、いや何でもない……っ!」

 思わず出てしまった声を夢野に聞かれてしまい慌てて誤魔化した。
 だって、気づいてしまったのだ。
 今から起こるだろうゲーム上のイベントでは、最も好感度の高いメインキャラクターが夢野を助けてくれる物だ。
 つまり、このイベントで今誰が夢野と親しいのか分かると言う事じゃないか?

 だからつい考えてしまう。もし、夢野を助ける人物が先輩でなかったなら、俺にもまだ可能性はあるんじゃないだろうかって。
 でももし……

「……先輩だったら……」

「ルイ?」

「ううん、何でもないよ。行こうかアリス」

 夢野の手を取って人混みへ飛び込む。
 周りの目が一斉にこちらへ向くのも気にせず、俺たち三人は文化祭を楽しむべく笑い合いながらクラスの出し物を見て回ったのだ。
 
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