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7.夢野と先輩
しおりを挟む「はい日替わりランチ定食ね。あなた痩せてるから大盛りにしといたわよ」
「うわっ、ありがとうございます……」
食堂のおばちゃんの善意に礼を言って席に着く。
出来立てのチキン南蛮は湯気を立てタルタルソースとからみ合いとても美味しそうなのだが、その隣に陣取っている山盛りご飯の存在感に圧倒される。
猫野が居てくれたら少し食べてもらうのになぁ。
こちらをチラチラと見てくる周りの視線を無視してカウンター席に座り夢野とのランチを楽しんだ。
きっとみんな夢野と食べたいのだろう。俺が独占してしまって申し訳ない。
そう思いながらも山盛りご飯と戦っていたら夢野の隣にどかりと座る強者が現れた。ちなみに俺の隣は壁だから誰も座れない。夢野からこの席に誘導された。
「……って、白伊先輩!?」
「よぉ、美味そうなもん食ってんな」
用事が済んだのだろう白伊先輩はカツ丼定食が乗ったトレーをテーブルに置いて居座る気満々で俺たちに話しかけてきた。
「一口くれよ。俺のものやるから」
「えー、ちょっと遠いから無理ですよ」
間に夢野を挟んでいるから途中で落としかねないし、と考えてお皿ごと渡せば良いのだと途中で気づいた。なぜ当たり前のように食べさせようとしているんだ俺は……。
自分の考えが恥ずかしくて誤魔化すようにお皿を先輩に渡そうとするタイミングで、先輩が夢野へと話しかけた。
「つー訳だから席変われよ」
「どう言う訳か分からないので嫌です。今日は僕達仲良く二人で食べてるんで先輩は遠慮してもらえませんかねー」
「おチビちゃんは器もちいせぇな。俺とルイの仲なんだからおチビちゃんが遠慮してくんねーか」
「どんな仲なのかさっぱり知らないし認めませんが僕とルイの仲のほうがずっと深いと思いますよ? なんせこの学園で一番にルイと友達になったの僕ですし」
「へー……お友達ねぇ」
「あ゛? 文句あんのかむっつりバカ。ルイに勉強教わるまで学年最下位野郎だったくせに。そのまま退学になれば良かったのに」
「……おぃてめぇ、ルイのお友達だからって調子にのんなよ……?」
隣で繰り広げられる口論に絶対零度に達しているんじゃないかってほどの身の危険を感じ身震いした。あれ、この二人ってこんなに仲が悪かったっけ?
そして夢野は何でそんな事まで知っているんだ。
しかし、二人ともいきいきしていてとても楽しそうにも見えた。これは喧嘩するほど、と言うやつなのだろうか。
そういえば、夢野は誰が好きなのだろう。
ふと、そんな事を考えていた。
猫野と一番親しいようにも見えるが、先輩とも俺の知らない所では親しいのかもしれない。
そうで無ければここまで遠慮なしに会話は出来ないだろう。
そこまで考えて、考えるのを止めた。
だってきりがない。うじうじするぐらいなら夢野か先輩に直接訊いたほうが良さそうだ。
しかし、すぐには問えそうにない。
だって、回答次第ではもう先輩のそばには居られないだろうから。
「……俺先に帰るね」
しっかり覚悟を決めてから話をしようとは思う。だが二人の姿を見ていると苦しくて俺は無意識に席を立っていた。
「は!? ちょっと待ってルイ! 僕も行くから!」
「チビは茶でもすすってろ。行くぞルイ」
「あんたこそ今食べ始めたばっかりでしょうが。僕達の事は構わず食事を進めてください」
二人から離れたくて席を立ったのに当たり前のように付いてきた。くそぅ二人でイチャつくな。
食べきれなかった物を食堂のおばちゃんに頼んでフードパックに詰めてもらう。
「またやんちゃ君達とお昼もいらっしゃいな。パンやおにぎりだけだとおっきくなれないわよ?」
背後で騒ぐ二人を見ながら食堂のおばちゃんが言った。
「あはは、そうですね……」
やんちゃ君、とはおそらく白伊先輩の事だろう。食堂のおばちゃんにかかれば不良の先輩もやんちゃな男の子になるのか。ちょっとかわいいな、なんて思って笑ってしまった。
そこまでは良かった。しかし、続くおばちゃんの言葉に俺は固まった。
「それにしてもやんちゃ君、よっぽどお姫様の事が好きなのねぇ」
「…………えっ?」
差し出されたフードパックを無意識に受け取りながら、微笑ましげに二人を見つめるおばちゃんを見つめていた。
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