この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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6.文化祭の準備と女王様

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「チエ何で!? 何があったの!?」

 近くに居た猫野に経緯を聞くと、昼休みにクラスで文化祭の話が盛り上がり、誰にメイドをやって欲しいか投票があったらしい。

「ルイちゃんに一票入れといたからな!」

 爽やかな笑顔が憎い。何余計なことしてくれてんだ。

「……あれ? チエもメイド役するんだ」

「おう! 俺は自分で立候補したんだよ!」

「へ、へぇ……」

 まぁ猫野はイケメンだし女装もそれなりに似合う……かなぁ? ガタイがいいからなぁ。ウケは狙えそうだし良いか。
 そして夢野もばっちり名前が入っている。これは当然だろう。大本命だ。

 それからサクサクと準備は進んだ。
 俺専用のメイド服もばっちり準備され拒否権は無かった。
 ドン・○ホーテで買ってきた物をその人に合わせて縫い直すそうだ。器用なクラスメートが居て良かった。

「ミニだろ! 膝上10センチだろ!」

「バカ野郎! ロングで清楚なメイド服の方が似合うに決まってるだろ!」

「袴のメイド服も似合いそうじゃね?」

「ゴスロリ風……」

「「却下だ」」

 白熱する論議に文化祭への情熱が感じられ、青春って感じがして楽しい。そして猫野はその論議に参加してないで自分のメイド服合わせろよ。

「髪はどうする?」

「このおさげのウィッグ使って。メガネもね。そのままだと可愛すぎて誰も近づけないからさ。あとお触り絶対禁止。常に誰かが隣に居ること。写真撮影はオプションで別料金取ろうか。殺到するかもしれないから抽選制で」

「了解!」

 テキパキと指示を出す夢野に合わせて周りが動き回る。なんだか姫というより女王様のようだ。
 俺も何か働きたいのにずっとメイド服の採寸やら試着やらを繰り返されてただ立っている事しか出来なかった。

「誰だ? この黒い猫耳カチューシャ置いたの」

「さぁ? とりあえず付けてみ──」

「──絶対却下っ!!」

 いつの間に忍び込んだんだ先輩っ!!


 ※ ※ ※


 慌ただしい日々が過ぎ、気がつけば文化祭も間近に迫っていた。
 俺がその間した事と言えば、メイド服の試着の繰り返しと、オムライスにケチャップでハートを描く練習。今では簡単な文字も描けるようになった。しかしこれも別料金を取るらしいが注文する人は居るのだろうか。

「ルイと昼に食堂来るの久しぶりだね」

「そうだね。何食べよっかな」

 食堂に向かいながら、夢野が楽しそうに言った。
 確かに、朝食や夕食は食堂で食べることが増えたが、昼は以前と変わらず先輩と階段で食べていた。
 今日は先輩が用事があるらしいので夢野と食堂へ来たのである。

 相変わらず俺が食堂に入ると少し空気が変わるが、嫌われている訳では無いと分かった今はこの空気を恐れる必要は無い。
 何より夢野が手を引いてくてるから俺も背筋を伸ばして歩けるのだ。ちょっと恥ずかしいけどね。

「あ、あのっ! こっちの窓際空いてますよ!」

「デザート取ってきましょうか?」

「なぁ、俺も一緒食べて良いか?」

 しかしまぁ群がる群がる夢野のファン。さすが夢野だ。
 そんなファンに夢野はにっこり笑って「今日は遠慮してもらえるかなぁ」と言えば面白いほどさーっと散っていった。さすが夢野……。

「すごいアリス……慣れてるね」

「まさかぁ。ルイの為に頑張っただけだよ」

 姫に群がる羽虫どもが……なんて呟きは俺には聞こえない。うん、俺は何も聞こえなかったぞ。天使のままの夢野でいてくれ。
 しかし、学園の姫も大変なんだな。


 ──────────

 100話に達しました!
 ここまでお付き合いいただきありがとうございます✨
 
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