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5.文化祭の季節
しおりを挟む俺がこの学園に入学してまもなく初めての秋が来る。
食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、そして芸術の秋。文化祭の季節である。
「──って訳でクラスの出し物決めるぞー」
教壇に立った帽子野マット先生が資料を片手に言う。同じ資料が俺達にも配られて、出し物に関しての注意事項などが書かれていた。
「劇とかー?」
「何か食い物出してーな」
「去年はおばけ屋敷出したクラスが優勝したらしいぞ」
「てきとうにオブジェっぽいの作って芸術ですっつっとけばいいじゃん。めんどくせ……」
様々な意見が飛び交うが、俺は知っている。このクラスが何をするのかを俺は知ってしまっているのだ。
「──じゃあこれで決定で良いな?」
「はーい」
決まった出し物は『メイド喫茶』。ほんとにこれに決まっちゃったよ。
ゲームで知っていた展開とは言え、男子高でこれは無理があるだろと思いもしかしたら変わるかもしれないなーなんて期待していたがダメだった。
まぁ、BLゲームではテンプレのようなものらしいからな。確か主人公の夢野アリスがメイドの格好をして他校から来た学生にしつこくナンパされて好感度の高いメインキャラクターが助けてくれるんだと姉が楽しそうに話していた。
「ルーイ。メイドの服着たまま一人になっちゃダメだよ? 絶対誰かと、て言うか僕と一緒にいること! 分かった?」
「うん分かった分かった。絶対にアリスと一緒にいるよ」
やっぱり主人公だな。自分が危ないって事を分かってない。俺がしっかり守らないと。
いやでも、もしかしたら俺がそばにいるとメインキャラクター達の活躍が無くなってしまうかもしれない。
ちょっとだけ距離を置いて陰から見守るぐらいにしておこう。
「…………て言うか、そもそも俺はメイド服着ないよ?」
「うーん……それはたぶん無理じゃないかなぁ」
「え、何で?」
俺は裏方希望だと伝えると夢野は困ったように笑って「大丈夫、僕が守るから一緒に頑張ろうね」と言うだけだった。
その時は首を傾げたが、夢野の困ったような笑みの意味を後日知る事になった。
※ ※ ※
「メイド喫茶……」
「男子高なのに思い切った事しますよね」
昼休み、俺は白伊先輩といつもの階段で昼食を摂っていた。
ペンキを新しく塗った階段は以前より明るく見える。
そこで文化祭の話になり、俺のクラスの出し物を伝えると呆れたような視線を送られてしまった。
「お前少しは反対しろよな」
「みんなが賛成してるのに俺だけ反対なんて出来ませんよ」
「提案したヤツはどうせお前にメイド服着せたいだけだろ」
「いや目当ては俺じゃなくてアリスでしょ」
俺が「んなわけ無いだろ」と手をぶんぶん振って否定すれば先輩はまた呆れた目をして溜息まで吐いた。
確かに前までは俺の信者だとか言う思考の変わった人達が居たが、今は全員別のクラスに移ったんだから先輩の言う様な事は無いだろう。
分かってないのは先輩の方だ。
「それに俺はメイド服なんて着ませんよ。裏方に回るつもりです」
「無理だろな」
「だから何で!?」
夢野といい先輩といいなぜ俺がメイド服を着る事を確信しているんだろうか。
メイド役の希望者が少なくてくじ引きで、なんて事にはなるかもしれないが俺に当たる確証は無いだろうに。
何となく面白くなくてむーっとしていると予鈴が鳴り二人で立ち上がる。
「じゃあまぁ、頑張れよ。絶対メイド服着たまま一人にはなるな。あと写真送れ」
夢野と似たような事を言われ「だから着ませんって!」と強く否定したのに分かった分かったと軽く流されてチュッとリップ音を残してキスされた。
「ちょ……っ」
「何だよ、誰も見てねぇんだから良いだろ。たまにはお前からしても良いんだぞ」
「し、しませんよ!」
指で唇をちょんちょんと指して俺からのキスをねだるような事を言われ、学校でされた恥ずかしさも相まって顔に熱が集まるのが分かる。馬鹿なことを言うなと先輩の胸をなぐってやったら、やっぱり猫パンチだなと笑われた。
そんな昼休みが終わり教室に戻るとすでにメイド役が決まっており、そこには一番に俺の名前が書かれていた。
「は!? ちょっと待って……っ!」
俺の人権どこいった。
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