この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

文字の大きさ
上 下
86 / 119

85.静かな狂気

しおりを挟む
 
 うさ耳パーカーは今でも私室で愛用している。最初は抵抗があったがあまりの着心地の良さにうさ耳なんて気にならなくなっていた。
 でも、その姿を人に見せた事があるのは一度だけ、白伊先輩だけだ。
 だから、その姿の写真も先輩しか持っていない筈なのに……。

「何で会長が持ってんの……?」

 生徒会長と不良なんて相性は最悪だと思っていたが実は仲が良かった?
 だからって俺の写真をわざわざ会長に送る先輩は想像出来なくて、不信感は募るばかり。
 そう言えば以前スマートフォンのデータが一部消えたと先輩が言っていた。その事と何か関係があるのだろうか。
 なんて考えが浮かび、いやいやと首を振る。
 いくら何でも疑心暗鬼になりすぎだ。
 いくら今日衝撃的な事があり過ぎてショックを受けていたからってこんな考えが浮かぶなんて。
 だって、それだと会長が先輩のデータを盗んだみたいじゃないか。まさかそんなの有り得ない。失礼にも程がある。
 会長に限ってそんな事……

「お待たせしました」

「ひぅっ……!」

 画面に気を取られすぎて会長が帰ってきた事に気づかず変な声を出してしまう。
 そんな俺を見て会長は首を傾げたが、いつの間にか鳴り止んでいたスマートフォンを視界に入れると「あぁ、電話がありましたか」と何でもないように言った。

「後でかけなおしますので気にしないでください」

「そ、そうですか……」

 あまりに普通に話すからツッコミどころ満載の画像を問いただせず俺も当たり障りのない返事しか返せない。
 改めて鳴り止んだ会長のスマートフォンをチラリと見てまた目を見開き、咄嗟に手に取り凝視してしまう。
 着信時は着信時用に画面を設定していたようで、今のホーム画面は別の壁紙が使用されていた。
 私服の俺だった。
 猫野や夢野と出掛ける際、先輩に服を相談する為に送った写真。

「な、ん……で……」

 やはりそれは先輩しか持っていないはずの写真だ。
 絶句しながらも、何とか自己解決しようとする。きっとやっぱり会長と先輩は仲がいいのだ。いや、仲が良いとは言わなくても知った仲なら画像の交換ぐらいするだろう。だから会長がこの写真を持っていたって可笑しくない。出来れば他の人には送らないで欲しかったが俺だってそう先輩に伝えていなかったのだから仕方ないのだ。そうだ、先輩が送ったのなら会長が持っていたって別に……

「この写真が気になりますか?」

 会長の声があまりにも近くから聞こえて驚き振り向く。

「白伊ナイトのスマートフォンから転送して彼の物からはあなたの画像や連絡先を消しておきました」

 振り向いた先には至近距離に会長の顔があって、思わず後ずさりしようとして棚にぶつかり、その上に座るように体を乗り上げた。

「だと言うのに未だあの男と連絡を取り合っているなんて呆れますね。せっかくあなた方が会っていた階段も工事に入らせたと言うのに」

「会長……?」

 この人は、何を言っているのだろう。淡々と語られる内容は正気とは思えなくて、逃げたいのに、会長の視線に囚われたように体がうまく動かせない。

「それに、友人だと名乗るあなたの同級生もたいがいしつこいようですね」

 俺が乗り上げている棚の左側に手を置かれた。

「あなたと連絡先を交換した直後に破壊したのに性懲りもなくまたあなたに近づくなんて、まったく……ゴキブリ並の生命力だ」

 次に右側に手を置かれて、完全に逃げ道を塞がれてしまう。

「なぜ? と言いたそうな顔をしていますね」

 互いの息がかかるほどの距離で、会長がわずかに笑った。その顔は恐ろしい程に綺麗な笑みだった。

「私は言った筈です。あなたに相応しい男は私だと……」

「………っ!」

 更に近づいてきたかと思ったら耳元に口を寄せられ、小さな子供を叱るように会長は言った。


 ───────

 前回は予約投稿を忘れていて投稿遅れてすみませんでした(^_^;)
 
しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...