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85.静かな狂気
しおりを挟むうさ耳パーカーは今でも私室で愛用している。最初は抵抗があったがあまりの着心地の良さにうさ耳なんて気にならなくなっていた。
でも、その姿を人に見せた事があるのは一度だけ、白伊先輩だけだ。
だから、その姿の写真も先輩しか持っていない筈なのに……。
「何で会長が持ってんの……?」
生徒会長と不良なんて相性は最悪だと思っていたが実は仲が良かった?
だからって俺の写真をわざわざ会長に送る先輩は想像出来なくて、不信感は募るばかり。
そう言えば以前スマートフォンのデータが一部消えたと先輩が言っていた。その事と何か関係があるのだろうか。
なんて考えが浮かび、いやいやと首を振る。
いくら何でも疑心暗鬼になりすぎだ。
いくら今日衝撃的な事があり過ぎてショックを受けていたからってこんな考えが浮かぶなんて。
だって、それだと会長が先輩のデータを盗んだみたいじゃないか。まさかそんなの有り得ない。失礼にも程がある。
会長に限ってそんな事……
「お待たせしました」
「ひぅっ……!」
画面に気を取られすぎて会長が帰ってきた事に気づかず変な声を出してしまう。
そんな俺を見て会長は首を傾げたが、いつの間にか鳴り止んでいたスマートフォンを視界に入れると「あぁ、電話がありましたか」と何でもないように言った。
「後でかけなおしますので気にしないでください」
「そ、そうですか……」
あまりに普通に話すからツッコミどころ満載の画像を問いただせず俺も当たり障りのない返事しか返せない。
改めて鳴り止んだ会長のスマートフォンをチラリと見てまた目を見開き、咄嗟に手に取り凝視してしまう。
着信時は着信時用に画面を設定していたようで、今のホーム画面は別の壁紙が使用されていた。
私服の俺だった。
猫野や夢野と出掛ける際、先輩に服を相談する為に送った写真。
「な、ん……で……」
やはりそれは先輩しか持っていないはずの写真だ。
絶句しながらも、何とか自己解決しようとする。きっとやっぱり会長と先輩は仲がいいのだ。いや、仲が良いとは言わなくても知った仲なら画像の交換ぐらいするだろう。だから会長がこの写真を持っていたって可笑しくない。出来れば他の人には送らないで欲しかったが俺だってそう先輩に伝えていなかったのだから仕方ないのだ。そうだ、先輩が送ったのなら会長が持っていたって別に……
「この写真が気になりますか?」
会長の声があまりにも近くから聞こえて驚き振り向く。
「白伊ナイトのスマートフォンから転送して彼の物からはあなたの画像や連絡先を消しておきました」
振り向いた先には至近距離に会長の顔があって、思わず後ずさりしようとして棚にぶつかり、その上に座るように体を乗り上げた。
「だと言うのに未だあの男と連絡を取り合っているなんて呆れますね。せっかくあなた方が会っていた階段も工事に入らせたと言うのに」
「会長……?」
この人は、何を言っているのだろう。淡々と語られる内容は正気とは思えなくて、逃げたいのに、会長の視線に囚われたように体がうまく動かせない。
「それに、友人だと名乗るあなたの同級生もたいがいしつこいようですね」
俺が乗り上げている棚の左側に手を置かれた。
「あなたと連絡先を交換した直後に破壊したのに性懲りもなくまたあなたに近づくなんて、まったく……ゴキブリ並の生命力だ」
次に右側に手を置かれて、完全に逃げ道を塞がれてしまう。
「なぜ? と言いたそうな顔をしていますね」
互いの息がかかるほどの距離で、会長がわずかに笑った。その顔は恐ろしい程に綺麗な笑みだった。
「私は言った筈です。あなたに相応しい男は私だと……」
「………っ!」
更に近づいてきたかと思ったら耳元に口を寄せられ、小さな子供を叱るように会長は言った。
───────
前回は予約投稿を忘れていて投稿遅れてすみませんでした(^_^;)
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