この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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84.生徒会長のスマートフォン

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 相変わらず会長は寡黙だ。
 以前はそんな会長と一緒にいても別に気まずくは無かったが、今は何となく落ち着かない。
 そりゃそうか。会長から好意を伝えられたのに返事を返せていないのだから。

「一度準備室に寄っても良いですか?」

「え? えーっと……」

 突然話しかけられて言葉に詰まるが、出切れば遠慮したい。会長と狭い部屋で二人っきりになるのは気まずいからだ。しかし、

「生徒会への差し入れが溜まっているので少し消化して欲しいのですよ」

 と言われたら断りづらくて「そうですか。それなら……」と返事をしてしまった。
 まぁ、少しお菓子を食べるだけ、なんなら持って帰れば良いのだ。
 俺が了承したら会長は歩みを図書室へと向ける。久しぶりに訪れた図書室の隣の準備室は相変わらず整理整頓されており、会長の性格が出ているなぁとぼんやり考えた。

「お茶を入れますので座ってください」

「え……はい」

 すぐにおいとまするつもりだったが、会長が当然のようにお茶を入れ始めたので今更断れず仕方なくソファーに座った。
 一杯だけ、一杯だけご馳走になったら帰ろう。帰るときは一人で良いと言い張ろう。会長相手に言い張れる自信は無いが。

 手際よくお茶が用意されて、口を付けるとホッとする優しい味がした。

「生徒会室に差し入れを取りに行ってきますのでゆっくりしていてください」

「え!? いやこれだけいただければ十分ですよ! わざわざ取りに行かなくても……」

 昔から使われているのだろう少し古ぼけた菓子鉢にはたんまりと高そうなお菓子が入っている。
 まだあったのかと驚いたし、わざわざ取りに行かなくてもこれだけあれば十分な気もするのだが。

「生徒会役員はほとんど甘い物が苦手なので溜まる一方です。ここで食べなくても良いので少し持って帰りなさい」

「はい……」

 相変わらず会長の圧には勝てなくていつの間にか頷いている自分が居た。流石は生徒会長様だ。いや俺の意思が弱いだけだろうか。
 会長が出ていき静かな部屋でポツリと残されてズズズッお茶をすすった。
 そして菓子鉢から高そうなお菓子に手を伸ばした時、ピロリロリロと音がなって飛び跳ねた。え、何、お菓子取っちゃ駄目だった?

 ドッドッと鳴る心臓を押さえて音を確認すると腰までの高さの資料棚の上から鳴っているようで、近づいて確認して目を丸くする。
 それはスマートフォンだった。おそらく兎月会長の物だろう。
 電話がかかっているようで、着信音と共にずっと知らない名前が画面に出ていた。
 それは良い。何も問題ない。生徒会長は忙しいから休日でも電話ぐらい頻繁にかかってくるのだろう。
 ただ、俺が目を丸くした原因は他にある。

「何で……」

 何で、会長のスマートフォンの壁紙に俺の写真が出ているのだ。
 しかも、うさ耳パーカーの姿で。

 
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