82 / 119
81.それが真実だとしたらとてつもなく迷惑な話で
しおりを挟む視線を泳がせながらもしどろもどろで何かを伝えようとする彼に首を傾げる。
この人は本当に先程大声で叫んでいた人だろうか。
「あの……」
「ひゃい!」
挙動不審なのは人気者達の前で緊張しているから?
しかし消してやると怒鳴りつけていた相手に今更緊張するだろうか。
なぜ何故どうして、と分からない事だらけの頭で彼に向き合い近づこうとすれば相手も慌てたように一歩後ずさった。ああ、やはりそうとう俺が嫌いらしい。
「改めて訊くけど、何でみんなを消すなんて言ったんですか?」
「いや、それは、だから……」
「俺が嫌いなら、俺に言ってほしい……みんなを巻き込まないでください」
「……っ、だから違うっ!!」
違うのだと叫びながら俺を見てきて、しかしハッとしたようにまた顔をそらされて真っ赤になってうつむく。
黙ってしまった彼のかわりに夢野が口を開いた。
「あのねルイ、この集まりはルイのファンクラブなんだ」
「は?」
夢野が彼のかわりに説明しようとしてくれているようだが、俺は夢野の言葉の半分、いやほぼ全部理解出来なかった。
「みーんなルイの事が好きすぎて他の人に取られたくなくて集まった人達だよ」
「何言ってるのアリス? そんなわけ無いだろ」
これはアレだろうか。やはり良くある鈍感主人公が人の好意に気づかず勘違いしてしまうってやつだろうか。
駄目だよアリスくん、そんな鈍感だと付け込まれてしまうよ。やはり俺が守らないと。
「ルイはさ、この中で前から見覚えのある人いる?」
「え? えーと……」
言われて、倒れた人達や未だ挙動不審な彼、ずっとスマートフォンを向けている人まで見渡して、気づく。
「あ……中学が同じ人も居るみたい」
「じゃあその頃からか……」
「おい! それ以上話す──っ」
「はーい、ちょっと黙ってような? あ、これは暴力じゃないからな」
夢野が更に言葉を続けようとすると、彼は何故か慌てた様にこちらに来ようとして猫野に阻止される。
そのまま口を塞がれて「んーんー!」言っている彼を無視して夢野が続けた。
「中学の頃から知ってる人が居るんだよね?」
「え? あ、うん……今話してた人もそうだったと思うよ。話した事は無いしあまり人の顔見ないようにしてたから気づかなかったけど」
必死で猫野から逃れようと暴れている彼が気になったが、夢野はそんなものはじめから存在しないように平然と話すから少し怖い。これも鈍感主人公の為せるわざなのか。
「じゃあきっとその頃からなんじゃないかなぁ」
「何が?」
「ルイが一人ぼっちになったの」
「……どう言うこと?」
俺が訊けば猫野に拘束された彼が更に暴れたけれど、今はそんな事に気を取られている時じゃない。
今、とんでもなく重要な話をされている気がしたから。
「…………」
しかし、夢野から聞かされた話はあまりにも現実離れしていて、到底信じられるものでは無かった。
だけど、信じられなくても思い当たる事が無いわけでは無くて、そんな訳ないだろと否定しても考えれば考える程に辻褄が合ってしまう。
「……今の話、本当なんですか?」
俺が尋ねれば、猫野は手を離し自由になった彼は俺と向き合う。
「あ……あなたの為なんです……」
否定の言葉を期待していた俺に、無情にも肯定と取れる言葉が返ってくる。
何だそれ。
「何だよそれ……」
夢野の話、彼の肯定に、今までの学生生活が走馬灯のように駆け巡った。
「……俺はそんな事望んでない」
一人、また一人と友人が減っていき、訳も分からぬまま独りポツンと過ごす日々になった。
頑張って誰かと話そうとすれば必ず邪魔が入るようになり、どんどん惨めな気持ちになった。
次第に傷つくのが怖くて、誰かと関わるのを諦めて独りでいる事が当たり前になって、でも時折ふと寂しさを思い出して悲しくなって……。
この学園に入学してから久しぶりに友人が出来てどれだけ嬉しかったか彼に分かるだろうか。
自分に話しかけてくれる、笑いかけてくれる、名前を呼んでくれる、それをどれだけ俺が望んでいたか、きっと分からないのだろう。
だから、それが途切れたりあからさまに阻害された時、どれだけ悲しかったか、分かりはしないのだろう。
悔しくて、腹が立って、悲しくて、そんな事をされる自分が惨めで、俺は湧き上がるドロドロとした感情をそのまま視線に乗せて彼を睨めば、ビクリと体を揺らし彼は慌てた様に口を開いた。
「あ、あなたは理解してないんだ! 自分がどれだけ魅力があるのかを! だから私達は……」
「……迷惑な」
「……っ!!!!」
彼が息を呑むのが分かった。
いつの間にか先輩にのされていた人達も数人起き上がり出していたが、目の前の彼と同じように絶句していた。
「俺の為って……何が俺の為なのか全然分からないし……」
悲しくて腹が立って惨めな思いをするのが俺の為?
「中学の時から見覚えのある人も居るって事は、そんな前から迷惑行為をしてたの?」
俺の言葉に泣きそうな顔をする彼らだが、泣きたいのはこちらの方だ。
「何でそこまで俺に執着して迷惑な嫌がらせをするのか知らないけど、いい加減止めてください。気持ち悪い……!」
俺が思った事を包み隠さず言い切れば辺りは静まり返って、自分の心臓の音だけが耳についた。
83
お気に入りに追加
3,781
あなたにおすすめの小説
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました
猫むぎ
BL
外の世界に憧れを抱いていた少年は、少女漫画の世界に転生しました。
当て馬キャラに転生したけど、モブとして普通に暮らしていたが突然悪役である魔騎士の刺青が腕に浮かび上がった。
それでも特に刺青があるだけでモブなのは変わらなかった。
漫画では優男であった聖騎士が魔騎士に豹変するまでは…
出会う筈がなかった二人が出会い、聖騎士はヤンデレと化す。
メインヒーローの筈の聖騎士に執着されています。
最上級魔導士ヤンデレ溺愛聖騎士×当て馬悪役だけどモブだと信じて疑わない最下層魔導士

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる