この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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80.友人達がとばっちりを受けていたらしい

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「今日はありがとねー! キミのおかげで最っ高の作品に仕上がりそうだよ! あ、これあげる!」

「どうも……」

 頭の中で好きな歌を歌いながらぼーっとしていたら、いつの間にか終わっていたらしい。
 あとは仕上げだけだと言うが、俺をモデルにしている時点でその絵の仕上がりが怖くなった。
 しかしまぁ本人はいたって嬉しそうだし、俺がどうこう言う問題でもないだろう。

「またモデル頼むかもしれないからその時はよろしくね!」

「あー、うん……その絵が大丈夫そうならまた声かけてね」

 かなり感性のずれた子みたいだから第三者から俺をモデルにしている絵を見てもらったほうが良いと思う。
 酷評されて落ち込まないと良いけど。
 貰った飴を口に放り込み、手を振って別れた。
 少し疲れたが、何だかんだで楽しい時間だったなと考えながら歩いていたが、ここで問題が発生した。
 出口が分からない。

 入った時は裏口のような場所だったし、入り組んでいたからもう道のりを覚えていない。
 仕方なくうろうろしていたら人気のない場所に迷い込んでしまい、カーテンが閉められた部屋の前で立ち止まった。
 どう考えてもここに出入り口は無さそうだから引き返せば良いのだが、足がその場から動かせない。
 何故なら、知っている声が聞こえたからだ。

「アリス……?」

 身がすくむような怒鳴り声に混じって友人の声が聞こえてきて、これはただ事では無いと目を見開いた。
 以前夢野は大勢に囲まれて脅されていた事がある。
 もしやまた危ない目に合っているのではないかと慌てて扉を開けたのと、新たな怒鳴り声が聞こえたのは同時だった。

「お前達全員……猫野チェシーも夢野アリスも白伊ナイトも全員木戸ルイ様の前から消してやるっ!!」

 え、何で?

「え……何で……?」

 思わず考えた事をそのまま口に出してしまった。
 だって今あの人はとんでもない事を言わなかっただろうか。

「そんなの決まっ…………へぁ!?」

 先程まで怒鳴っていた人物は、俺を見たとたん怒りで歪んでいた顔を驚きの表情へ変えてポカンと口を開けた。
 猫野や夢野や白伊先輩を俺の前から消す? 今この人はそう言わなかったか?

「何で……」

 何故彼らを消すのだ。確かに俺に親しくしてくれていて気に入らないのかもしれないけれど、それなら俺に消えろとでも言えば良いだろう。
 なのに何故彼らに矛先を向けるんだ。
 それとも、

「そんなに……俺が嫌いですか?」

「……へ?」

 消えろと告げる事すら出来ない程に、俺が嫌いだと言う事なのか。
 今もこの人は視線を彷徨わせて俺と視線を合わせようともしない。
 自分が嫌われているのはとうの昔に知っているが、そのとばっちりを友人達が受けていたなんて申し訳ない事この上ない。

「ごめんねアリス、大丈夫? また何かされた?」

 自分の不甲斐なさが申し訳なくていたたまれなくて謝罪の言葉を夢野にかければ、夢野はコテンと首を傾げて俺を見た。

「何でルイが謝るの? 僕は大丈夫だよ……ありがとう。ちょっと怖かっただけだから」

「何が怖かっただ抱きつくなチビ」

「あれ? 先輩も居たんですか!」

 強がっているけどきっととても怖かったのだろう。夢野がギュッと抱きついて来たから慰めるように抱きしめ返したらとても不機嫌な声が聞こえて驚いた。
 よく見たら猫野も居て、もしかしてこれ何かのイベントだった?
 俺が邪魔しちゃったから先輩は不機嫌で猫野は泣きそうな顔してるのかな?

「えーっと……俺邪魔だった?」

「ううん全然! 来てくれて嬉しいよ!」

「まぁ良いタイミングではあるよな」

「ルイちゃぁあんっ!! 来てくれてありがどぉおおっ!!」

「うぐっ……」

「離れろぉおっ!!」

 今度は背後から体の大きな猫野になかなかの勢いで抱きつかれて一瞬息が詰まる。
 しかしすぐに開放されたのは先輩が引き剥がしてくれたから。ついでに夢野も引き剥がされた。
 しかし、離してくれたのは先輩だが「離れろ」と叫んだのは先輩では無い。

「き、き、気安く……気安くその方に触るなっ!!」

「あ、ごめんなさい……」

 あまりにも鬼気迫った形相で非難されたものだからたじろぎながら謝ったら、また驚いた顔をされて視線が泳ぐ。

「ちが……私はあなたに……その……」

 
───────────


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