この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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78.それはただの嫌がらせ

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 僕と猫野をカーテンを閉め切った部屋へ案内した男達は余裕のある笑みを浮かべていて、なるほど対策済って訳かと舌打ちしたくなる。
 案の定部屋は各国の歴史の資料を張り出しているだけで、ルイのルの字もない。

「ご覧の通り様々な国の歴史を集めて史実を空想したりしている集まりです。何か気になる事でもありますか?」

「へーすごいですねー。ずいぶん変わった名前のクラブですがどう言った由来があるんですか?」

「お堅い名前だとなかなか人が集まりませんのでこのようになったのですよ」

 ウソつけ。かえって人が疎遠になりそうな名前つけたんだろ。それとも本気でかっこいいと思っているのだろうか? 思っていそうだな。
 しかし猫野を連れてきたのは正解だったようだ。
 さすがにこのデカい奴を相手にしようとは思わないらしい。奥に置いてあるバットに目をやるが手にする様子は見られないから。

「もう宜しいでしょうか? こちらとしては我々に暴力を振るった人をあまり歓迎したくないもので」

「それって僕の事?」

「しらばっくれんな。あんな凶器出して暴れたの忘れたのかよ」

 新たに返事をしたのは確か以前に僕をバットで殴ろうとした暴力野郎では無いだろうか。

「誰だって殴られそうになれば抵抗するよね? それに関してはどう思ってるの?」

「意味が分からねぇな、俺達がお前に何したって言うんだ。お前がいきなり暴れたんだろ」

「なるほどー」

 あくまで僕が一方的に暴力を振るった体で行くわけね。確かに証拠はないから写真を持っているあちらの証言の方が有利だろう。
 これでは埒が明かないので僕は話の方向性を変える事にした。

「じゃあさ、ルイに嫌がらせしてるのは何で?」

「…………なんだと……」

 一瞬の沈黙後、周りの殺気が一気に増した。まったく、扱いやすい奴らだ。

「あの方を名前で呼ぶな!」

「我々がいつあの方に嫌がらせをしたと言うんです!」

「あの方を必死で守っている俺たちに向かって何だよその言い方は!」

「嫌がらせって何だ! 全部あの方の為にやっている事なのに何も知らない奴が口を出すな!」

 先程まで黙っていた奴らまで次々と叫びだし、場は一時騒然とする。
 怒りを隠さず怒鳴る信者どもに背後に居る猫野がビクついたのが分かるが、肘でどついて気合を入れさせた。逃げたら承知しないぞ。
 さて、好き勝手叫んでいるルイ信者どもだが、その内容はいささか疑問が残る。

「守ってるって何から? 前も訊いたけどさ、それホントにルイのためなの?」

 怒声が鎮まったタイミングで静かな声で尋ねた。
 すると僕らを案内した男が前に出て睨みながら口を開く。

「夢野アリス、あなたは本当に愚かだ。あれ程のお方なのですからお守りするのは当然でしょう? 我々が居なければあの方に近づく有象無象どもがどれほど溢れると思っているのですか。
 それはキミも同じですよ夢野アリス。あの方にとってキミも猫野チェシーもあの不良も不要なのだと何故分からないのです? 不要な物は排除する、当然の事です」

「ルイがそれを望んでなくても?」

「たとえあの方に嫌われようとこれがあの方の為になりお守り出来るのであれば本望です」

 誇らしげに語る男の後ろで深くうなずくルイ信者達。これが自分達の使命だと言わんばかりに胸を張っている所で申し訳ないが、僕はそんな彼らに反論する為再び口を開いた。

「それは違うね」

「へぇ……どう違うんだよ?」

 暴力野郎が鼻で笑う。そんな彼を、僕は鼻で笑ってやった。

「ルイのため? 全部あんたらの自己満の為でしょ?」

 空気が再びザワついて、後ろで猫野がビクついた。お前はもうちょいしっかりしろ。

「あんたらはルイに話しかける度胸もないけど、でも他の人に取られたくもないんだ。そんな独占したいって自分勝手な思いだけでルイの思いなんか無視して暴走してルイを孤独にさせてるだけだ」

「なん……だとてめぇ……っ」

「ルイを守ってるんじゃない。自分の欲求を満たそうとしてルイに迷惑をかけてるだけだよ。それがルイのためだなんて……笑わせる」

「うるせぇっ!!」

「ひっ……!」

「ぐえっ!」

 僕に殴りかかろうとした暴力野郎に、何故か猫野が叫び声を上げてとっさに足を振り上げていた。

「あ、ヤべ……」

 ナイス猫野。思わず振り上げたのだろう足は見事暴力野郎の鳩尾に入り男はうずくまり倒れてしまう。
 今日もしっかりスマートフォンを向けている撮影係が居るようだが、こちらも一応音声は録音してるし何とかなるだろうたぶん。ならなかったらごめん、ルイの事は任せて。

「この野郎!」

「調子に乗りやがって!」

「黙って聞いていれば!」

 暴力野郎が倒れるのを皮切りに次々信者達が迫ってきて僕はくるりと踵を返す。

「よーし逃げようか!」

「今かよアリスちゃんっ!!」

 丁度倒れた男が障害となりこちらへ迫って来るのにワンテンポ遅れているからそのすきに部屋を出ようとする。

「あ……」

 しかし、そこにはいかにも喧嘩慣れしたような男が立ち塞がっており、これはヤバいかなぁなんてちょっと焦る。
 しかし、

「あれ?」

「なかなか良い事言うじゃねえかチビ」

 僕らの横を通り過ぎてしまい、そのまま襲ってくるの信者達に立ち塞がる。

「お前は……!」

「何でこんな所に!?」

 男に今気付いたらしい信者達が今度は焦りだすが、僕等に迫っていた足は止まらなかったようで、気が付けば「ぎゃっ」とか「ぐぅ……」とか痛そうな声を上げて倒れていった。
 残ったのは僕等に迫るのが遅れた数人の信者と男だけがだった。

「……誰?」

 とは思わず訊いてしまったが、何となくこの男が誰なのか分かる気がする。
 信者どもが敵視している人物で、僕が知らない人物と言えば、おそらくあの人だ。

「えーと……白伊先輩っすか?」

「あ? 誰だてめぇ」

 どうやら猫野もピンときたらしく、僕の代わりに問いかければいかにも不良ですと言った返事があった。
 ルイ、何でこんな先輩探してたんだよ……。

 
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