この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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77.怖い帰りたい

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 誰かと一緒の空間に居る事は嫌いじゃない。
 何より相手が自分に嫌悪感を持っていないと分かる人物であればなおさらだ。
 真剣に筆をキャンバスに滑らせる彼をこっそり覗き見て、変わった人だが悪い人では無いようだと人知れず微笑んだ。

「あーっ! 良いねその顔もっとちょうだい!!」

 いや人知れずでは無かった。ばっちりバレていた。
 俺が笑うとほとんどの場合周りの空気が微妙になるから、自分の笑う顔はよっぽどおかしいのだろうと思っていたが、そんな顔が気に入るなんてやはりそうとう変わった感性の持ち主だ。

 モデルになってまだ数分だが、今更ながら自分をモデルにした絵の完成が心配になった。


 ※ ※ ※


「何か御用ですか? お二人さん」

「べっつにー? ちょっと散歩してるだけだし」

 急に声をかけられた俺は内心かなりビビりながらも何でも無いように返事をする。ここで怯えていたらまた夢野から怒られてしまうからだ。
 俺、猫野は夢野に連れられてまだ数分、見慣れない校舎内をハッタリなんだから堂々としていろと言われて平常心を装い歩いていた。
 しかし相手は夢野に嫌がらせをしたり俺を退部へ追いやろうとした奴らだ。おそらくだが、俺のスマートフォンを盗んで原型を留めないほど破壊したのも奴らなんだろう。怖い帰りたい。
 だが愛しのルイの為ならばいくらでも俺は男になれる。

「ここは散歩には向きませんよ? お帰りになってはいかがです?」

「そっすね! そんじゃ」

「全然男になれてないじゃん」

 夢野から引き止められ渋々逃げ足を戻す。なんで夢野はこんな殺気びんびんに飛ばしてくる奴らに平気でいられるんだ。怖い帰りたい。

「別に一般生徒が来ちゃいけない場所って訳でも無いでしょ? 僕らの事はどうぞお構いなく」

 一切怯まず対峙する夢野は正に男だった。すげぇなこいつ。

「それとも……この先に何か僕等に見られたらマズイ物でもあるんですか?」

 おまけに夢野から奴らを挑発するような発言まで飛び出して、俺の内心はビビりまくって仕方ない。
 しかもなんか人数増えてないか? ここは一度撤退を……やべぇ後ろにも居るわ。

「そんなに気になるならどうぞ? ご案内しますから」

「いや今日は予定あるし俺たちはこれで……」

「嬉しいなぁぜひ案内してよ」

「アリスちゃぁん!?」

 泣きそうな俺と笑顔を崩さない夢野は数人に囲まれてカーテンを閉め切った部屋へと案内されたのだった。

 
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