この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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71.かわいくない生徒達

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「そんな馬鹿な!!」

 一人の部屋で俺は思わず叫んだ。
 トークアプリで猫野や夢野と話していたら、猫野が退部になりそうだと言う話題が出たからだ。
 何でも、酒やタバコを持ち込んだと冤罪をかけられているらしい。

「猫野がそんな事するわけ無いのに……」

 あれだけ密着しても猫野からアルコールやタバコの匂いはしたことが無いし、なにより爽やかスポーツマンの猫野からは想像もつかない。
 しかし、よくよく話を聞けば猫野のバッグから出てきたのだと言う。もちろん猫野には身に覚えは無い。
 だとすれば誰かが仕組んだ事になる。

「でも……何で?」

 夢野に負けず劣らず人気者の猫野に嫌がらせをする人なんているだろうか。
 だが、もしかしたら猫野の人気を妬んでいる人がいるのかもしれない。

「うん……あり得るかも」

 例えば部活の先輩とか、後輩のくせに自分よりテニスが上手い事を逆恨みしているなんて考えられないかな。
 部活での人間関係は良好のように見えたが裏では足の引っ張り合いだったり……小説の読みすぎだろうか。

「あ! もしかしてアリス絡み!?」

 あり得る!
 学園の姫ことアリスと猫野は仲が良いから嫌がらせをされているって事なら十分にあり得る話だ。
 さすが主人公、黙っていても周りがほっとかない。だからと言って以前アリスにした未遂事件と同様に許されるものではない。

 もし本当に退部になったら、猫野はどうするのだろうか。
 せっかくスポーツ万能なのにもう他の部活にも入部は難しくなるだろう。
 更に悪くなれば生徒内で嫌な噂が広まって学園に居づらくなり自主退学なんて展開も考えられる。

「ど……どうしよ……」

 無実の罪でそんな事になったら悲しすぎる。
 かと言って俺に何が出来るだろうか?
 学園の嫌われ者の俺が弁明しても余計に悪い印象を残してしまいそうだ。
 俺に出来る事、誰かに相談、でも誰に?

 まともな案なんて浮かばなくて、不安な気持ちのまま部屋を出た。
 どこかに行くあてなんて無いけれどじっとしていられなかったから。

「木戸!」

 そんな俺を親しげな声が呼び止めた。



 ※ ※ ※



「やべーかなぁ……」

 結局何の弁明も出来ないまま時間だけが過ぎている。
 今部活は休部扱いになっているが、そのまま退部になるのも時間の問題かもしれない。
 それなりに頑張ってきたつもりだったから、こんな事で終わりになるなんてやはり腹がたつ。
 何より学園に居られなくなったらルイのそばにも居られなくなる。
 それだけは何としても阻止しなくてはいけない。

「アリスちゃん何かいい考えないー?」

「残念だけど……でも試験でそれなりに良い点取ってればスポーツ推薦だったからっていきなり退学にはならないんじゃないの?」

「やっべ……絶望しかない」

「良い点取ってないのか……」

 自慢じゃないが俺は頭の出来はよろしくない。
 平均点を上回る教科はほぼ無いし、稀に赤点だって取っている。
 ええー……そん時はルイ連れて転校しよっかな。

「馬鹿な事考えてると僕も敵になるからね?」

「何で分かったのっ!?」

 なんてアホな考えばかり浮かんでまともな対策は浮かばないままぶらぶらと廊下を歩いていたら、背後から呼び止められた。

「猫野ー、丁度良かった」

「あぁ……ちーっす」

 呼び止めたのは部活の顧問で、いよいよ退部だろうかと身構える。
 しかし、続けられた言葉は予想していたものとは違っていた。

「お前明日からは部活来いな」

「は? 退部じゃないんすか?」

「ホントは退部になってもおかしく無い案件だったんだぞ。ただまぁお前はテニスで成績も残してるし、今回だけは目を瞑ろうって事になった」

「マジで!? ラッキー!」

「ラッキーじゃないバカ野郎! いいか、今回だけなんだからな? 次に何かあったら問答無用で退部どころか退学だ!」

「了解っすー!」

「……ホントに分かってんのか」

 ぶつぶつ言いながら去って行く顧問を見送って、俺は安堵の息を吐く。
 なんか知らんが助かった。

「しかし何でまた突然……?」

 俺の心境を代弁するようにアリスが呟く。

「俺が話をしたんだよ」

 するとまたまた背後から返答があって、振り返れば俺達の担任、帽子野マットがひらひらと手を振りながら近づいて来た。

「先生! え、先生が何かしてくれたのか?」

「まぁな……詳しい話を聞いて驚いたよ。だが猫野の物じゃないって証拠はないが、猫野の物だって証拠も無いだろ。だからちょっと俺からも話をさせてもらったよ。俺のかわいい生徒が言われもない罪で退部だなんて、黙って見過ごせるはず無いだろ」

 ニカッと笑う帽子野はとても頼りになる大人の顔だった。

「せ、先生……っ!」

俺は一瞬感動しかけたが、だが俺は知っているのだ。

「……でもルイちゃんに相談されたから動いただけだろ?」

「なっ、何の事だよ……」

 俺の言葉にとても頼りになる大人の顔が崩れる。この野郎やっぱりか。

「猫野の退部が自分のおかげで無くなったってわざわざルイに報告しに行って嬉しそうにしてるルイをデレッとした顔で見てたよね」

「何で知ってんだよ……っ!?」

「一応あんがとな。だからルイちゃんに言われるまで動かなくて俺を見捨てる気だったってのはルイちゃんには黙っててやるよ。ジュースおごって」

「なんてかわいくない生徒だ……っ!!」

 打ちひしがれている帽子野を連れて食堂に向かう。
 感謝はしているが、俺をルイに好かれる為のあしがかりにしたのはいただけないな。
 だがまぁ気持ちは分かる。俺達は同士ではあるが決して味方ではない、ライバルなのだから。

「俺スポドリ、ペットボトルのやつな」

「僕はコーラ、ペットボトルで」

「紙パックのにしとけよ……」

 さてコレからは自衛に力入れないとな。

 
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