この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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67.標的にされたのは

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 昨日はとんでもない事があった。
 夢野アリスが生徒達に襲われかけたのだ。
 そりゃあれだけ可愛くて優しくて天使みたいな主人公だから好きだって人はたくさんいるだろうが、大勢で囲って無理矢理なにかをするなんて犯罪だ。
 夢野には一人で出歩かないように伝えた。
 いくら夢野のファンだからってやって良い事と悪い事がある。

「よかった、スタンガン渡してて……」

 帽子野先生からの借り物ではあるが、やはり必要なのは夢野だった。
 夢野もちゃんと持っててくれて良かった。

 その後は夢野と遅くまで遊んだから、夜はぐっすり眠れた。
 友達とカラオケなんて初めてで家族以外の前で歌うのは恥ずかしかったけど、夢野がたくさん褒めてくれるから楽しく歌えた。
 ちょっと夢野との距離が近すぎて歌いづらかったが、これが友達とカラオケに行くと言う事なのだろう。

 充実した休日を過ごした俺は、翌朝寝坊しかけて時間ギリギリに教室に入った。

「……?」

 入って、少しの違和感。
 俺が教室に入ると微妙な空気になるのはいつもの事だが、今日はいつもに増して空気がおかしい。
 ザワついてると言うか、ピリピリしていると言うか……。

「よーし、出席取るぞー、みんな席に着けー」

 その空気が何なのか考えるより先に帽子野先生が来たから慌てていつもの席に座る。
 授業が始まれば教室の妙な空気は落ち着いたが、心の隅に違和感は残り釈然としなかった。

 午前中の授業を終えれば昼休み。
 空き教室で待っていれば、今日は猫野が弁当片手にやって来た。

「おまたせルイちゃん」

 相変わらず山程ある弁当を軽く平らげる猫野を感心しながら眺める。相変わらず猫野の膝の上で。

「今日って何かあった?」

 食事を終えた俺達は他愛無い話をしながら寛いでいた。
 そこでふと今日の教室の異様な雰囲気を思い出し猫野に問う。
 友達も多く他学年との交流もある猫野ならば何か知っているかもしれないと思ったからだ。
 しかし、猫野は先程まで楽しそうに話していたのが嘘のように口を閉ざしてしまった。
 どうしたのだろうかと背後から俺を抱きしめている猫野を見上げれば、俺と目があった猫野は困ったように笑った。

「そっか、ルイちゃん今日来るの遅かったもんな……。今日の朝さ、教室でちょっと変な事があったんだ」

「変な事って?」

「いじめって言って良いのか分かんねぇけど、黒板にそいつの写真が張り出されてて悪口みたいなの書かれてたんだよ」

「えぇっ!? 完全にいじめでしょそれ! その子大丈夫だったの?」

 平和そうな学園だったが、まさかそんな陰険な事が起こっていたとは……。
 いじめの標的にされた子はさぞかし辛かったろう。

「本人はケロッとしてるし、犯人もだいたい目星がついてるっつってたから大丈夫とは思うけどな……逆に俺も気をつけろって言われたよ」

「強いなぁその子……」

 泣きながら教室に居られなくなったんじゃないかと心配していたら、猫野の言葉に少し拍子抜けする。
 なんて強い子なんだろ。自分が同じ事をされたらその子の様に気丈に振る舞えるだろうか。ましてや他の子の心配まで。

 
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