この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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62.誰だよ

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 ニヤニヤと意地悪く笑う先輩と言い争う内に、気がつけば壁に寄り掛かって座る先輩の上に横抱きにされていた。

「あの……重いでしょ? 降りますよ」

「重くねぇからここに居ろ」

「……じゃあ足撫で回すの止めてください」

「………」

「返事!」

「断る!」

「断るな!」

 スカートに入れている先輩の手をペチペチ叩いたら猫パンチかと笑われた。
 顔面殴るぞ。
 なんだかやけに疲れたなと思うが、そりゃあんな事をされた後だ、疲れもする。特に心が。

「……それで? 今更だが何でそんな格好なんだ?」

「ホントに今更ですね」

 言いながらも手を止めない先輩はもう諦めて少し遠い目をする。
 そう言えばその話をする為に先輩に会いに来たんだった。

「先輩を探す為です。友達に付いて来て欲しいって頼んだらそのままの格好だと無理だからって言われて変装させられました」

「なるほどな……まぁそいつが言う事も分からなくはねぇよ。でも何で俺を探してたんだ」

「だって……突然返事が無くなったから……」

「あぁそれか……スマホのデータが一部消えたんだよ。また訊けば良いと思ったのに突然階段使えなくなってお前に会えなくなるしよ……今日お前を見つけられたのは運が良かった」

「……そうだったんですね」

 先輩の様子から嘘では無さそうだ。
 飽きられたり嫌われたりした訳では無いと知り安堵する。
 そんな感情が顔に出たのだろう、安心しろと言うように軽いキスを落とされた。
 このイケメンヤンキーめ、そうやって主人公を落とすつもりだな……と無駄に高鳴る胸を誤魔化したが、そう考えると何故か胸が痛んだ。

「……あーっと、ご飯一緒に食べられなくなっちゃいましたね」

 何かから逃げるように、もしくは胸の痛みを誤魔化すように話題を上げる自分が居た。
 俺は何を焦っているのだろう。

「飯か……お前は今でどこで食べてんだ?」

「空き教室です。友達と食べてるんですが先輩も来ますか?」

「いや、他の奴が居るなら俺はいい。相変わらず隠れて食べてんだな」

「まぁ……」

「そのうちそんな格好しなくてもダチと堂々と歩けるようにしてやる。だからそんな格好は俺の前だけにしとけよ」

「いや先輩の前でも二度としませんよ。でも……どうやって?」

 俺が嫌われてるなんて今に始まった事ではない。今更どうすると言うのだろう。

「まぁ俺に任せとけ。モブ山も頑張ってるしな」

「はぁ、ありがとうございます……モブ山って誰?」

「食堂にも行けるようにしてやる」

「いやモブ山って誰?」

 困惑する俺の頭を優しい笑顔でぽんと撫でられた。

「必ず俺がお前を自由にしてやるからな……」

「先輩……」

 モブ山って誰だ。


 
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