この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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57.捕まった……俺が

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 目撃情報があった場所に行くと、先輩はあっさり見つかった。
 正解に言えば、俺が先輩に捕まった。

「ルミちゃんどこ行ったのっ!!?」

「くそっ!! ルイちゃんっ、返事してくれ!! 好きだー!!」

「すみませんそこの人っ! 美少女的美少年を見ませんでしたか!? もしくは天使か天女か女神かエルフを見てませんか!?」

 壁を一枚隔てた向こう側で猫野と夢野の叫び声が聞こえる。
 よっぽど焦っているのか猫野はともかく夢野まで意味不明な言葉を口走っている。
 一緒に居たはずの友人が突然消えたのだから驚いて当然だろう。
 だから俺はここに居ると二人に伝えたいのに、俺を拘束した腕がそれを許さない。

「んんー………っ!」

 上げたい声は口を塞ぐ大きな手に阻止され、二人に届く事は無い。バタバタと慌ただしい足音が次第に遠ざかって行くのが分かった。

「──な、に……すんですかこのアホ先輩っ!」

 口元の手の力が弱まったからさっそく悪態をついたが、アホ先輩もとい白伊先輩は背後から無表情のまま俺を見下ろしていた。

 先輩を見たと情報が入った場所へ向かう最中、パシャッと機械音が聞こえ視線を向けたらスマートフォンを構えた生徒が居た。
 俺達がそちらに顔を向けたら慌ててスマートフォンを下ろしたが、これはもしや撮影、いや言い方は悪いが隠し撮りをされたのだろうか。
 俺がそう思うより二人の方が行動が早かった。

「おいてめぇ何撮ってんだ!」

「ちょっとそのスマホこっちに渡してくれる?」

「ひ……っ」

 日頃から隠し撮りに慣れているのか、逃げようとする盗撮犯を猫野が捕え夢野がスマートフォンをあっさり奪う。
 人気者はたいへんだなぁと他人事のように見ていたら、背後から声を上げる間もなく引きずり込まれた。
 そして、今に至る。

「何なんですかもぉ!」

 先輩に会えたのは良かったが、二人に心配をかけてしまった。
 俺を見つけたなら普通に声をかけてくれたら良いのに、わざわざ空き部屋に引きずり込む意味が分からない。
 とにかく早く二人に自分の居場所を伝えたいのに背後から体に回った腕の力は弱まらなくて、ここから出る事を許さない。

「もぉホントに……何なんですか……?」

「お前こそ何なんだ」

「はぁ?」

 意味が分からない事をしているのは先輩なのに、何故か俺が先輩から意味が分からないと言う視線を送られた。
 その意図が分からなくて首を傾げたら体をくるりと回されてじっくりと、怖いぐらいじっくりと見られてハッとする。

「あの、これは……」

「これがお前の私服か?」

「んな訳ないでしょっ!」

 そう言えば俺は今女装しているのだった。
 先輩への怒りなんて吹っ飛ぶぐらい羞恥心が襲ってきて咄嗟に言い訳を考えるが、出てきた言い訳は的外れなもので、

「おれ……わ、私は、ルミです……」

 と、どう考えても無理のあるものだった。

「………いやルイだろ」

「……っ!!?」

 さっそくバレた、と言うかたぶん初めからバレてた。
 でないと先輩は見ず知らずの女の子を無理やり部屋に引きずり込むヤバイやつになってしまう。
 いや、それよりも、もっと驚いている事がある。
 先輩が、俺の名前を呼んだのだ。俺の記憶が正しければ初めて。

「………何のご褒美だよ……」

 先輩から名前を呼ばれた事が何故こんなに恥ずかしいのか分からず混乱している間に、何かを呟いた先輩は俺の眼鏡とカツラを当然のように取っていく。

「あっ! ちょっと先輩返して……っ!」

 ちょっと待て、今まで顔があまり見えなかったからぎりぎり女の子に見えていたかもしれないが、それが無かったら完全に女装した男になってしまうじゃないか。
 変態度が増してしまうと慌てて返してもらおうとしたが、ぽいっと遠くに投げられてしまった。

「あーっ! 乱暴に扱わないでくださいよあれ人のなのに……何でスマホ構えてるんですか!?」

「色々と訊きてえ事はあるがまず写真撮ってからだ」

「勘弁してくださいっ!!」

 やっぱり先輩は先輩だった。
 何だよまず写真ってこの鬼畜ヤンキー!


 
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