58 / 119
57.捕まった……俺が
しおりを挟む目撃情報があった場所に行くと、先輩はあっさり見つかった。
正解に言えば、俺が先輩に捕まった。
「ルミちゃんどこ行ったのっ!!?」
「くそっ!! ルイちゃんっ、返事してくれ!! 好きだー!!」
「すみませんそこの人っ! 美少女的美少年を見ませんでしたか!? もしくは天使か天女か女神かエルフを見てませんか!?」
壁を一枚隔てた向こう側で猫野と夢野の叫び声が聞こえる。
よっぽど焦っているのか猫野はともかく夢野まで意味不明な言葉を口走っている。
一緒に居たはずの友人が突然消えたのだから驚いて当然だろう。
だから俺はここに居ると二人に伝えたいのに、俺を拘束した腕がそれを許さない。
「んんー………っ!」
上げたい声は口を塞ぐ大きな手に阻止され、二人に届く事は無い。バタバタと慌ただしい足音が次第に遠ざかって行くのが分かった。
「──な、に……すんですかこのアホ先輩っ!」
口元の手の力が弱まったからさっそく悪態をついたが、アホ先輩もとい白伊先輩は背後から無表情のまま俺を見下ろしていた。
先輩を見たと情報が入った場所へ向かう最中、パシャッと機械音が聞こえ視線を向けたらスマートフォンを構えた生徒が居た。
俺達がそちらに顔を向けたら慌ててスマートフォンを下ろしたが、これはもしや撮影、いや言い方は悪いが隠し撮りをされたのだろうか。
俺がそう思うより二人の方が行動が早かった。
「おいてめぇ何撮ってんだ!」
「ちょっとそのスマホこっちに渡してくれる?」
「ひ……っ」
日頃から隠し撮りに慣れているのか、逃げようとする盗撮犯を猫野が捕え夢野がスマートフォンをあっさり奪う。
人気者はたいへんだなぁと他人事のように見ていたら、背後から声を上げる間もなく引きずり込まれた。
そして、今に至る。
「何なんですかもぉ!」
先輩に会えたのは良かったが、二人に心配をかけてしまった。
俺を見つけたなら普通に声をかけてくれたら良いのに、わざわざ空き部屋に引きずり込む意味が分からない。
とにかく早く二人に自分の居場所を伝えたいのに背後から体に回った腕の力は弱まらなくて、ここから出る事を許さない。
「もぉホントに……何なんですか……?」
「お前こそ何なんだ」
「はぁ?」
意味が分からない事をしているのは先輩なのに、何故か俺が先輩から意味が分からないと言う視線を送られた。
その意図が分からなくて首を傾げたら体をくるりと回されてじっくりと、怖いぐらいじっくりと見られてハッとする。
「あの、これは……」
「これがお前の私服か?」
「んな訳ないでしょっ!」
そう言えば俺は今女装しているのだった。
先輩への怒りなんて吹っ飛ぶぐらい羞恥心が襲ってきて咄嗟に言い訳を考えるが、出てきた言い訳は的外れなもので、
「おれ……わ、私は、ルミです……」
と、どう考えても無理のあるものだった。
「………いやルイだろ」
「……っ!!?」
さっそくバレた、と言うかたぶん初めからバレてた。
でないと先輩は見ず知らずの女の子を無理やり部屋に引きずり込むヤバイやつになってしまう。
いや、それよりも、もっと驚いている事がある。
先輩が、俺の名前を呼んだのだ。俺の記憶が正しければ初めて。
「………何のご褒美だよ……」
先輩から名前を呼ばれた事が何故こんなに恥ずかしいのか分からず混乱している間に、何かを呟いた先輩は俺の眼鏡とカツラを当然のように取っていく。
「あっ! ちょっと先輩返して……っ!」
ちょっと待て、今まで顔があまり見えなかったからぎりぎり女の子に見えていたかもしれないが、それが無かったら完全に女装した男になってしまうじゃないか。
変態度が増してしまうと慌てて返してもらおうとしたが、ぽいっと遠くに投げられてしまった。
「あーっ! 乱暴に扱わないでくださいよあれ人のなのに……何でスマホ構えてるんですか!?」
「色々と訊きてえ事はあるがまず写真撮ってからだ」
「勘弁してくださいっ!!」
やっぱり先輩は先輩だった。
何だよまず写真ってこの鬼畜ヤンキー!
112
お気に入りに追加
3,781
あなたにおすすめの小説
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

最強様が溺愛したのは軟派で最弱な俺でした
7瀬
BL
『白蘭高校』
不良ばかりが集まるその高校は、学校同士の喧嘩なんて日常茶飯事。校内には『力』による絶対的な上下関係があり、弱い者は強い者に自らの意思で付き従う。
そんな喧嘩の能力だけが人を測る基準となる世界に、転校生がやってきた。緩い笑顔・緩い態度。ついでに軽い拳。白蘭高校において『底辺』でしかない筈の瑠夏は、何故か『最強』に気に入られてしまい………!?
「瑠夏、大人しくしてろ」
「嫌だ!!女の子と遊びたい!こんなむさ苦しいとこ居たくない!」
「………今千早が唐揚げ揚げてる」
「唐揚げ!?わーい!」
「「「単純………」」」」
溺愛系最強リーダー×軟派系最弱転校生の甘々(?)学園物語開幕!
※受けが割とクズな女好きです。
※不良高校の話なので、喧嘩や出血の描写があります。
※誤字脱字が多く申し訳ないです!ご指摘いただけるととても助かります!
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる