この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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56.白伊先輩速報

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「お待たせルミちゃん! ついでにデザートとたこ焼きと唐揚げも買ってきたから好きに食べて良いからな!」

「ルミちゃんここのパスタ食べた事ある? ナポリタンがお勧めなんだよ! はいあーん」

 二人は先程の剣幕は無かったかのようににこやかに話しかけて来て、知らず固まっていた体から力が抜けた。
 そして猫野は何度もカウンターを行き来して次々料理を運んでくる。これ何人前だよ、と夢野にナポリタンをあーんされながら運ばれてくる料理を眺めていた。

 最終的に、テーブルは料理で埋まった。
 そして猫野は三人前食べていた。凄いなスポーツマンって。
 デザートまで数種持ってきてくれて、どれにするか選べなかったから皆で分けて食べた。
 食堂を楽しませてあげるとは言われていたが、これ美味しいよ、とか、そっち一口ちょうだい、なんて会話をしながらの食堂での食事は本当に楽しかった。

 未だにチラチラと見てくる人達は居るが、俺ではなく二人を見ているのだと言い聞かせる。
 なんせ人気者の二人だ、ちょっと変な女装男子よりそっちを見ている方が楽しいだろう。

「おっ! 速報入ったぞ」

「速報?」

「白伊先輩速報」

「なにそれ」

 猫野がスマートフォンを見ながら言う。

「部活の先輩達にさ、白伊先輩見かけたら教えてくれって送っといたんだ」

「おぉ! 凄いなチエ!」

 流石だと俺が喜ぶと猫野は頬を染めて嬉しそうに笑う。
「そうだろ!」と言いながらもっと褒めてと言わんばかりに肩を引き寄せられたから、ありがとうの意味を込めて頭を撫でたら白い歯を見せて笑顔を輝かせた。
 なんだか猫野って大型犬みたいだな。名前は猫野だけど。

「ところでさ……今更なんだけど何でルミちゃんはその先輩に会いたいの?」

 夢野が猫野を思いっきり押して俺から引き剥がしながら言う。
 おや、これは嫉妬かな? やっぱり夢野の本命は猫野なんだろうか。もうBLの世界には慣れてきたからちゃんと応援するよ。

「先輩と連絡が取れなくなっちゃったってのは前言ったよね? だから何があったのか先輩と話がしたくてさ。もしかしたら先輩には迷惑かもしれないけど……」

「あー……俺、何となく原因わかる気がするわ」

「えっ!? なん、何で……? 俺何かしちゃったかな……」

 そう言えば、以前猫野とも連絡が途絶えた事がある。
 自分では原因に心当たりは無いが、やはり俺が何か連絡を取りたく無くなるほど悪い事をしてしまったのだろうか。

「いや違うよ! 全くの無関係では無いと思うんだけどさ、でもコレだけは言っとくわ……ルイちゃんは全っ然、全く、本当にっ、悪くないからな!! ルイちゃんは何も悪くないっ!!」

 俺の不安が伝わったのか、猫野は慌てて言葉を続けた。

「そう……なのかな」

 でも今、全くの無関係では無いと言った。それでも俺が悪い訳では無いとはどう言う意味だろうか。

「猫野声が大きいし名前気をつけて……でもいきなり音信不通になったらそりゃ気になるよね? 早くその先輩見つけて話聞いてスッキリさせようよ。時間が余ったらどっかルミちゃんと遊びに行きたいし」

「遊びに行くのは良いけどせめて着替えさせて……」

 大量の食器を皆で返却しながら夢野の提案を一部訂正する。
 ちなみにこの服はあげると言われた。いやこれを俺にどうしろと?
 慣れたくはないが慣れつつあるスカート姿にこれはマズい男としての本能が告げる。
 早いとこ先輩を見つけなくては……。

 意気込みながら、猫野の情報を頼りに食堂を出る。
 そんな俺達の姿を校舎の三階の窓から目を丸くした白伊先輩が見ていた事に俺は気付かなかった。

「……何やってんだよアイツ……」


 
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