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53.女装である必要は?
しおりを挟む膝下丈の肩紐のある黒のスカートに、グレーのシャツ、そしてゆったりとした黒のカーディガンは手が半分隠れてしまう。
色としては地味だがとても可愛いコーディネートだと思う。ただし、女の子が着れば。
「何で俺が……」
足元はスニーカーなのは救いだった。ヒールがあったらたぶん歩けないだろうから。
いや、スカートを履いてる時点で救いも何もないか。これを男が着てどうするんだよ、ウケ狙いなのか。
ついでにカツラも被らされていて、前髪は長めで黒髪おさげが両肩で揺れている。
そして大きめの黒ぶち眼鏡、もちろん度が入っていない伊達眼鏡だ。
「良し行こう!」
「待ってアリス、全然良く無いよ」
何故自信満々に良しと言えるのか。
そして何故先輩を探しに行くだけで俺が女装しないといけないんだ。
説明を求める俺の手を引きながら、夢野が実に楽しそうに笑いながら答えてくれた。
「だって僕だってルイと一緒に先輩を探したいけどさ、そのままだと絶対に邪魔が入るからしょうが無く……ね?」
「ね? って……女装である必要あるかなぁ……」
「「ある!」」
手を引く夢野と、反対側で腰を引く猫野から力強く言われてはこれ以上何も言えない。
そもそも俺が頼んで一緒に来てもらっているのだ。あまり強く言える立場では無い。
何よりも俺が『そのままだと邪魔が入る』のだから女装はともかく変装は本当に必要なのだろう。
それを考えると申し訳なく思う。人気者の二人を嫌われ者の俺なんかに付き合わせてごめん。
「じゃあさっそくその先輩の教室に行こっか」
「でも今日って学園休みでしょ? 教室に先輩居るかなぁ」
「オープンキャンパスで授業の光景も見せてるからな。二年生だけは今日普通に授業してんだって部活の先輩言ってたんだ」
「なるほど……」
もうそこまで調べてくれていたのか。
頼りになる友人達に感謝しながらスカートに着替えていた部屋を出る。
途端に集まる視線。
これは、誰を見てる?
普通に考えたら人気者の二人に視線が集まってると思うが、今の俺は異質だ。見られていても不思議はない。
そんな視線から俺を守るように二人が付き添ってくれるが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
顔に熱が集まるのを感じながらすがる思いで握られていた手をギュッと握り返したら、
「可愛いが爆破しそう……」
と言われて、励まし方間違えてるよ夢野と心でツッコんでおいた。
兎にも角にも先輩の教室に辿り着いた俺達は、廊下で見学していた人達に紛れて授業が終わるのを待った。
しかし、チャイムが鳴りパラパラと教室を出ていく生徒を見ながら先輩を探すが見当たらない。
もしや教室を間違えたのかと一人の生徒を捕まえて尋ねたら、確かにここが先輩の教室で間違いないらしい。
「でもあの……白伊くんはあまり授業に出ないから……、えーっと、今日みたいな日は特に来ないんじゃないかなぁ……。それより君名前なんて──」
「そうですかありがとうございました先輩! 行こうかルミちゃん!」
「る、ルミちゃん!?」
「よっしルミちゃん気を取り直してご飯食べようぜ! 俺奢るから!」
「待って! ルミちゃんって何!?」
まだ何か言いたげだった名も知らない先輩を置き去りに二人が歩き出して焦る。
しかしまぁ名も知らない先輩が夢野や猫野と話しながら俺をチラチラ見ていたから女装をツッコまれなくて助かったけれど。
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