この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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46.神様仏様帽子野先生様

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「無理に聞いちゃってごめんねルイ」

「いや、俺から言い出した事だし……」

 俺が深呼吸している間に夢野はいつもの穏やかな雰囲気に戻っていて安堵した。
 手は絡めたままだし、スリスリと親指で俺の手を触られるのはくすぐったいけど、取り合えず夢野の天使の笑顔が戻ってくれたから些細な事など気にならない。

「それで、そんな風に好きでもない人から迫られたらどうするかって話だったよね?」

「え? あぁ、うんそうだったね!」

「殴って良いと思うよ」

「え?」

「殴って良いと思うよ」

「………え?」

「もしくは蹴って良いと思うよ。潰すつもりで思いっきりね」

 どこを? とは訊けなかった。
 でもゲームでそんな場面あったかな、と考えて、いやいや何でもゲームを基準に考えてはいけないと思い直す。
 ここは現実世界で夢野はゲームのキャラクターでも無く感情を持った一人の人間なんだから。
 好きでもない人から迫られたら拒否するのは当然の権限だし、あそこを蹴り潰すぐらい……ちょっと可愛そうな気もするが。

「大丈夫、正当防衛だから」

「へ!? あ、そ、そうだね!」

「そうだな、木戸はちゃんと俺が渡した防犯グッズ持ち歩いてるか? 前も言ったが使うときは遠慮なく使えよ」

「いや俺じゃなくてアリスが……」

「嫌な時は相手を殺すぐらいの気持ちで反撃するんだよルイ」

「いや俺じゃなくて……」

 いや俺も確かにたまに戸惑うようなスキンシップはあるが、それより夢野の方が危険だと思うのだ。たまに魔王が顔を出すが、それでも小柄な癒やし系男子を狙う人は多いだろうに。
 それともあまりに多すぎて慣れているのだろうか。防犯グッズ夢野に譲ろうかな。

「ところで、ルイの悩みってこれだけなの?」

「あれ……俺ってそんなに悩んでるように見えた?」

「うんまぁ、なんか落ち込んでるなーって感じだったよ。授業中もため息多かったし横顔もいつもに増して憂いを帯びてて色っぽ……悲しそうだったから」

「そんなに見られてたの俺!?」

 予想以上に見られていた事に恥ずかしくなる。
 そして自分は周りから見てすぐに分かるほど感情を出してしまっていたのかと反省もする。

「それで……もう本当に悩みは無い?」

 触れていた手をギュっと握り直されて、心配そうな目が俺を覗き込む。
 あぁやはり、夢野は優しい。
 こんなに親身になって心配してくれるなんて、どこまでも優しくて俺にはもったいない程の得難い友人だ。

「ありがとうアリス……あとの悩みはそんな大した事ないんだけどさ、昼ごはんどうしようかなって思ってただけ」

「昼ごはん? メニューを考えてたって事?」

「いや、昼ごはんどこで食べよっかなって思って。食堂とか教室で食べるの苦手でさ、今まで階段で食べてたんだけど工事が入るみたいで行けなくなったんだ」

「食事場所に困ってるなら空き教室使うか?」

「空き教室?」

 背後からの突然の提案に振り向けば、思ったより近くに先生の顔があって驚いた。
 なんかもう座椅子に座ってる感覚で先生に寄りかかってたよ。温かくて安定感がありました。

「使われてない教室なら何個かあるからな。講堂の隣の空き教室ならほとんど人も来ないし丁度良いんじゃないか?」

「でも、俺なんかが使って良いんですか?」

「まぁ一応教頭に話を通してみるが、たぶん許可は下りるだろ。ただし他の生徒には言うなよ」

 内緒だぞ、と言いながらウインクする先生はイケメンだった。いや決して有り難いお言葉をもらえたから言っている訳では無い。

「あ……ありがとうございます! 本当に困ってたんで助かります……っ!!」

 神様仏様帽子野先生様な勢いで礼を言えば胸にすっぽり収まったまま頭を撫でられた。
 本当にこの世界の住人はスキンシップが好きだな。

「ねぇルイ! そこ僕も行っちゃ駄目かな? それとも一人で食べたい?」

 先生に撫でられていたかと思えば今度は夢野に腕を引かれ腕の中に収まった。
 夢野とはそんなに体格差はないと思っていたが意外と力強くて、ギューッと俺を抱きしめながら子犬みたいな顔をして尋ねてくる。
 本当にこの世界の住人は(以下略)。



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