この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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45.この感情は

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 夢野は笑顔を崩さない。しかし今の笑顔は何故か恐ろしく感じた。何と言うか、闇の帝王とか魔王を連想させる笑顔だ。

 俺の指を絡めたまま身を寄せられて、思わず引いたら背中にトンと障害物が当たる。
 先生の広い胸だった。
 後方は先生の胸の中で、前方は指を絡める魔王夢野。どうしよ逃げられない。

「ほらルイ教えて、どんな事されたの? ──って想定してるの?」

 夢野が絡めた俺の指に口づけて、『教えて?』と首をコテンと傾げた。あ、あざとい……。

「えっと、例えば……ほら、アリスと妙に距離が近かったりとか」

「うん、他には?」

「他? ……他には、抱きしめられたり」

「………うん、他は?」

 話し難い話に何処を見たら良いのか分からなくて視線が泳ぐ。
 そして夢野の雰囲気がどんどんドス黒くなっているように思えるのは気のせいだろうか。

「他にはー……、あの、キスとか、とかされたり……」

「はぁ!?」

「ひっ……」

 笑顔を崩さなかった夢野が、今度は分かりやすく怒りを表した。
 しかし、なぜ怒っているのかは分からなくてオロオロしていたら、夢野は気持ちを落ち着かせるように深く息を吐いた。

「キス……ね。ルイ、他には?」

「え……ま、まだ言うの?」

「うん、まだあるでしょ?」

「他は……あ……」

「ん?」

 そう言えば、とつい最近の事まで思い出して顔が赤くなった気がした。

「恋愛感情を持ってるって言われたり……」

「……ふーん」

 怒ってる、やっぱり怒ってる。
 でもなぜ? もしや夢野に心当たりがあって思い出したくも無いのに思い出してしまったから?
 それは申し訳ないと思うが聞いてきたのは夢野だ。俺に怒らないでほしい。

「それってさ、誰にされたの?」

「えっ!? いや、えーっと……っ」

「あぁ、想定ね想定。ほら僕って想像力がないから具体的な人を出してくれたら想像しやすいって言うか、ね?」

「そっか、いやでも、あの……」

 想定、とは言え流石に彼らの個人名を出すのは気が引ける。
 プライバシーの問題もあるが、名前を出してそんな人知らないと言われたら困ってしまうし、なぜその名前を出したのかと言われたら説明しないといけなくなる。
 もちろん説明なんて出来るはずが無い。羞恥心で死ぬ自信がある。
 それに、本当に夢野も彼から迫られていたら、と考えて、モヤッとした感情が表れてしまった。

 この感情は、何だろうか。

「……そこらへんにしておけよ夢野。木戸が困ってるだろ」

 知らない感情に戸惑って言いよどむ俺の背後から先生の穏やかな声が聞こえて、腕を伸ばしなだめるように夢野の頭をポンと撫でる。
 渋々と言うように離れていく夢野に助かった、と無意識に詰めていた息を吐いた。


 
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