この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

文字の大きさ
上 下
45 / 119

44.墓穴を掘る

しおりを挟む
 

 帽子野先生の私室を借りて、夢野に相談する為の話を切り出した。
 夢野からは驚いた声を出されたが、いきなり好きな人がいるのかなんて聞かれたら驚くのも無理は無い。

 先生から自分の好きな人は気にならないかと言われたが、だいたい察しはついている。
 きっと夢野が気になるのだろう。俺達を部屋に呼んだのも親切心だけじゃなくて夢野と話したいって下心もあるのかもしれない。もしくは俺と夢野を二人きりにしたくない独占欲かな。

 だが教師と生徒と言う関係がある以上、あまりおおっぴらに恋愛するのは難しい。
 それでも陰ながら手助けして信頼関係を築き、少しずつ距離を詰めていく二人……とかだった気がする。
 しかしそれはあくまで夢野アリスが先生を選んだ場合だ。
 だから頑張れ先生、ライバルはきっと多いよ。

「あー……えーっと、僕の好きな人が気になるの?」

「うん、いきなり不躾にごめん。アリスは気になる人とかいるのかなって思ってさ」

 夢野が気になる人は先生も含め山程いるだろう。だから後は夢野の気持ち次第って事だ。

「まぁ、気になる子は居るよ。ずっとその子の事を考えちゃうぐらい気になる……と言うより好きすぎてその子の事しか考えられないって言う方が正しいかな」

「……そ、そうなんだっ……!」

 居るんだ! しかも物凄く好きらしい。
 でも“その子”と表現するって事は先生ではない?
 年下か同年代の人のように聞こえるが、やはりここは猫野だろうか。
 だが、あれだけスポーツマンらしく体が大きな猫野を“あの子”なんて表現するだろうか。
 と、考えて、思い出す。
 そう言えば夢野アリスが攻めになるルートもあった。

 いやでもすごーくマイナーだと姉は言っていたし、こんなに可愛くて小柄な夢野が攻め役になるなんて想像出来ない。
 そりゃ俺よりは少し大きいかもしれないが、どう考えても愛される側だろう。

「ルイ?」

「あっ! ごめんぼーっとしてた……」

「もぉ、あんまりぼーっとしてると知らない間に唇奪っちゃうよ?」

 そう言って綺麗な笑顔で俺の唇をプニッと人差し指で触れる夢野。
 前言撤回、この子攻めでもいけるかもしれない。
 いやこの考えはもう忘れよう。可愛いままの癒やしの夢野でいて。

「じ、じゃあ……あの、す、好きな人が居るのは分かったけど……」

「うん、なぁにルイ」

 夢野は嬉しそうな笑顔で返事をする。指を絡めるように握ってくるのは少しくすぐったい。

「……好きな人、じゃない人から迫られたら……どうする?」

「………」

「あっ、話したくなかったら無理に話さなくていいから!」

 夢野の嬉しそうな笑顔が、引きつった。
 やはり思い当たる事があるのだろう。もしかしたらあまり思い出したくない事だったのかもしれないと思い、慌てて言葉を付け足す。
 しかし、返ってきた言葉は予想外の物だった。

「……もう少し具体的に教えて? どんな事をされた……と仮定してるの?」

「え!?」

 言われて、顔が赤くなるのが分かる。
 いや、夢野には仮定の話をしているだが、それでも必然的に自分の事を思い出さなければならない。
 まずい、思い出したくないのは俺のほうだった。


 
しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...