この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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43.可愛いあの子と邪魔なこいつ

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 ルイから部屋に行っても良いかと言われた。
 良いと即答した。当たり前だ。
 気になるあの子にお願いされたら、たとえ無理でも何とかしてOKの返事を出すさ。
 しかもそのお願いが僕と話したいなんて可愛すぎるものなんだからそりゃもう有頂天になってルイの手を引いた。
 ルイと話せる、やっと二人きりになれる……色々と期待してしまうのは男として仕方ない事だろう。
 そう、期待していたのに、

「……なんで居んのクソ担任……」

「何か言ったか夢野?」

「何でもありません帽子野先生」

 何だこの状況。
 僕の部屋でも無ければルイと二人きりでもない、しかも一緒に居るのは担任教師。僕は前世で何か悪い事でもしたのだろうか。

「本当は他の生徒の部屋に入るのはあらかじめ許可がいるんだからな? そこを俺の部屋を貸す事でグレーゾーンに収めてやってんだから有り難く思えよ」

「はい、ありがとうございます先生」

「ははっ、木戸は素直で可愛いなー」

 おいルイに触るなむっつり野郎。
 人畜無害な良い教師ぶってるが、ルイをそういう目で見ている事を気づかれていないとでも思ったか。
 ホームルームでルイの事をちらちら見過ぎなんだよ。そんなだからあちこちから消しゴムが飛んでくるんだ。
 そもそも、他の生徒の部屋に行くのは一応禁止とされているが、わりと皆自由に行き来している。
 それなのにわざわざ呼び止めてまでそんな機能しているのかいないのか分からない規則を持ち出すなんて、僕とルイを二人きりにしたくない思惑と、自分の部屋にルイを入れたかった思惑があからさまに見え過ぎて笑えてくる。

「それで、どうしたんだお前達。俺が聞いてるとまずい事なら俺はイヤホンで音楽でも聞いて書類作業でもしてるが」

 コップにジュースを用意しながら担任が言う。
 どうあっても出ていく気は無いようで、邪魔なんだよと視線を送るが、担任はルイにしか目が行っておらず俺の渾身のガン飛ばしはヤツには届かなかった。
 明日は消しゴムより硬い物を投げてやろう。

 ジュースを俺たちの前に置いた担任は、ルイの隣に座って何でも相談してみろ? と言いたげな顔でルイに笑いかけた。
 いやこれ話聞く気満々じゃないか。

「ルイ、やっぱり先生には話しづらいよね? ここは申し訳ないけど先生には席を外してもらおうか」

「あ、うん……そう──」

「──木戸? 俺はいつも全力で生徒に寄り添いたいと思ってる。最近木戸が元気が無かったのには気づいてたさ。良かったら俺にも話を聞かせてくれないか?」

「あ、はい……」

 流されないでルイー!!
 あれだ、この子押しに弱い子だ!
 そんなんじゃちょっと強引にキスを強請られたら許してしまうんじゃないのか!?
 危険すぎる! 今度やってみよう。

 僕がルイを頭の中で押し倒している内に担任は良い教師顔したままルイの頭を撫でていたので、はたき落としておいた。

「あ、でも先生が居るとアリスが答えづらくなるかな?」

「そうだね! やっぱり先生が居ると僕も話しづらいっていうかさ!」

「まぁ取り合えず話してみろ? その上でどうしても俺が居ると話せないって言うなら音楽聞いてるから」

 いや出てけ。
 自分を挟んで威嚇し合っているのに気づかないルイは、少し悩んだ様子を見せた後、おずおずと僕を見上げながら話をし始めた。
 上目遣い可愛い。

「えーっと……アリスってさ、好きな人とか居るのかな?」

「えっ!? ぼ、僕!?」

 それってもしかして……っ、と心臓をバクバク鳴らしながら期待の眼差しでルイを見る。

「木戸木戸! 俺の好きな人は気にならないか?」

「あ、先生は何となく分かりますので……」

「「え゛っ……!?」」

 言いながら、担任と共に絶句する僕をルイがチラリと見た後、担任に視線を戻す。
 え、何その意味ありげな視線。

「あの……、応援してますので頑張ってください……」

「「………」」

 絶対に分かってないなこれ。


 
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