この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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41.喧嘩売ってんならローン組んででも買ってやる

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 休み明けの登校で、下駄箱に妙な物が入っていた。
 呪いの手紙に果たし状……くだらないと速攻で捨てた。

 どうせ昨日食堂に居た連中だろう。
 俺があいつの隣にいるのがよっぽど気に入らなかったのか、終始殺気のこもった視線を投げかけて来ていた。
 お前らみたいな奴らのせいであいつは一人で居る羽目になっているのをいい加減自覚するべきだろう。
 そんなだからあいつは俺みたいな奴に付け込まれるんだ。
 まぁそこは良いんだけどよ。

 あいつが不安げな目で俺を頼ってくるのは正直心地よい。
 だが、あいつの笑った顔は心地よいなんて感情すらぶっ飛ぶほど世界が色めく。
 その笑顔の為ならなんでもしてやろうと思ってしまうのだ。
 だから、そろそろ仕掛け時だろう。
 勝手な思いであいつを孤独に追いやった連中に、宣戦布告をしてやろうじゃないか。



 ※ ※ ※



 授業に飽きた俺は(と言ってもほぼ寝ていたが)鞄を持って使われていない部屋でサボる。
 俺があいつと食堂に行ってから俺を睨むようになった奴らの顔はだいたい覚えた。
 その視線に紛れて俺を監視するような目もあった。その労力を他に使えねぇのか。
 さてどう潰してやろうかと考えていたら、鞄に見覚えのない紙が入っている事に気づく。

 またしょうもない脅し文句かと思い紙を開くと、パソコンで打った字で『木戸ルイの事で大切な話がある』と書かれていた。
 そして昼休みに校舎裏に来るようにと指示があった。
 くだらないとも思ったが、あいつの名前を出されたら無視する訳にもいかない。
 それに、面倒で全くもって行きたくないが、向こうから接触してくるなら手っ取り早いとも考えられる。

 昼休みになって面倒だが仕方無しにその紙片手に校舎裏へ向かう。
 そこにはまだ誰も居らず、さっさとしねぇと帰るぞと苛立たせた。
 あいつを待たせているんだ、こんな事に無駄な時間を割きたくない。
 一分待っても人の気配は無く、良し帰ろう無駄だったと踵を返したその時だった。

「ぶっ……!?」

 一瞬、何があったのか分からなかった。
 かなりの衝撃と共に急激に体が冷え、我に返れば全身びしょ濡れ。
 空から、いや校舎の窓から水が降ってきたのだ。
 ふざけんなと上を見れば、

「ぅおっ!」

 ご丁寧にバケツまで落ちてきて間一髪でそれを避けた。

「──っっっざけやがって……っ!!!」

 窓が開いているのは一つだけで、そこ目掛けて全力で駆け上った。
 すれ違う生徒が「ひっ」と俺を見て道を開けるから割とスムーズに来れたはずだ。
 だが、予想はしていたがそこには誰も居なかった。
 それはそうだ、こんな陰険な事をする奴が黙って待っているはずが無い。
 逃げられたのだ。

「……ちっ」

 この最上階から降りてきた奴を見ていないか階段付近に居る野郎どもに聞いたが、俺に怯えるだけで目撃情報は得られなかった。役に立たねぇな。
 イライラは収まらないが、このままここに居ても仕方ない。
 ジャージに着替え、鞄からスマホを取り出しトークアプリ画面を開く。
 もうあいつの所に行く時間も無いから取り合えずメッセージだけでも送っておこうと思ったから。
 だが、

「……………あ?」

 無い。あいつの連絡先が無い。
 あいつとしていたはずのトーク画面も見当たらない。
 そんなはず無いとトークや友だちの画面をスクロールしてあいつの名前を探すが、初めからそんな物は無かったかのように痕跡が消えていた。
 まさかと思い写真のデータアプリを開けば、案の定、あいつの写真だけがみごとに消えていた。
 残ったのは、壁紙にしていた写真だけ。

「………おもしれぇじゃねえか……」

 まさか向こうから宣戦布告してくるとはな……。

 握りしめた手の中で、スマートフォンがミシリッと悲鳴を上げた。



 
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